授業No.042
授 業:「ぼくらの巣をつくろう!」
対 象:和歌山県紀美野町立小川小学校
日 時:2012年8月9日
42回目の授業は、和歌山県紀美野町立小川小学校にて、16名の児童を対象に行いました。講師は、美術作家の近藤晃子さん('12情報デザイン)です。今回の授業では、居心地の良い場所=「巣」をテーマに、ボタンのついたゴムひもを教室に張りめぐらし、布や紀美野町産のシュロをボタンにひっかけて、教室いっぱいにひろがる大きな巣をみんなでつくりました。授業の途中からは見学にこられた家族や地域の方も製作に参加しました。完成した巣は8月31日(金)まで公開し、児童や作品を見に来たご家族や地域の方も、布やシュロを使って巣をつくることができます。巣づくりを通して創造する楽しさを味わい、地域特産物や身近にある物の魅力を発見すると共に、製作や展示を通して家族や地域の人とのつながりを感じる授業です。
講 師: 近藤晃子 氏(2012年情報デザイン卒/美術作家)
2012.8.9 thu.
08:50〜 09:35(1時間目)

講師作品紹介・巣づくりの説明(多目的室)

近藤先生が黒板に日本列島を描き、小川小学校のある和歌山、故郷の大分、多摩美術大学があり今も住んでいる東京、現在、展覧会を開催中の島根に印をつけました。大分県出身で、小川小学校の児童と同じように、緑豊かな自然の多い場所で生まれ育ったそうです。

続いて、作品紹介です。「perch(ぱーち)」は、観客がフェルト畑から必要なだけフェルトを切り取って加工し、ボタンのついたテントへ好きなように飾っていく参加型のインスタレーション作品※1です。鍾乳洞をイメージした細長いものから、秘密基地のような小屋など、展示する場所によってさまざまな形の作品があります。日本語で「とまり木」の意味をもつ「perch」、人が集まり場を共有しながら、関わる人と共に成長していく作品をつくっていきたいそうです。
※1 インスタレーション:さまざまなもの・道具を配置し、その展示空間全体を作品として表現する方法


いよいよ巣づくりの説明です。
「みんなどんな巣を知ってる?」近藤先生の質問に児童全員の手が勢いよくあがり、「アリ」「ヘビ」と答えが続きます。先生も面白い巣を紹介しました。入口が下に長く伸びて、外敵が入りにくいキムネコウヨウジャク。マンションやアパートのように、たくさんの群れが一緒に住むシャカイハタオリドリ。アオアズマヤドリはオスが青い色のものを巣のまわりにちりばめてメスを誘いこみます。どの生き物も、落ち葉や土、唾液、地面に落ちているゴミなど、身近にあるものを使って居心地のよい場所をつくっています。そんな自分たちにとって居心地のよい場所である「巣」を、児童たちの身近にあるもの=紀美野町の特産品シュロと、ボタンのついたゴムとフェルトを使ってつくります。シュロはヤシ科の常緑高木で、幹をまく樹皮をばらした繊維は柔らかくてコシが強いため、タワシやホウキ、そしてシュロ縄に使われています。授業で使うシュロは、柳校長先生がお声がけくださり、地域の方々がたくさんのシュロを材料として提供してくださいました。

最初は巣の土台づくりです。
ボタンをつけたゴムひも(以下ボタンゴム)を多目的室に設置した柱とおもしの穴やリング、ボタンに結んで形をつくっていきます。 児童は宿題でつくった一人5本ほどのボタンゴムを使い、柱と柱の間や、友達のつけたボタンゴムに結んだりしながら、思い思いにゴムをつなげていきました。


09:40〜10:25(2時間目)
10:45〜11:30(3時間目)

巣づくり

2時間目も引き続き、ボタンゴムで土台をつくります。最初は結ぶのに苦労していた児童も、つなげたい気持ちが後押しするのか、結ぶのにすぐに慣れてしまいました。土台づくりはスタッフが予想していたよりも早いペースで進み、用意していた予備のボタンゴム40本近くもあっという間に売り切れ。急遽、見学にこられたご家族や地域の皆さんにご協力いただき、ゴムひもにボタンを通して結び、ボタンゴムをつくっていただきました。
ボタンゴムを使い切ったら、皆で巣の外側からできあがった土台を見てみます。「クモの巣みたい」「面白い形になってきた!」でもよく見ると、低いところにボタンゴムが集まり、逆に児童の腰から上の高さはあいていて、巣にしては窮屈そうです。「なおしたい所やもっとこうしたらいいなと思うアイデアがある人?」近藤先生がなげかけると「(ボタンゴムが集まっている所は)ひっかっかって通りにくい。」「(ボタンゴムがなくて)さみしい所がある」「たるんでいるゴムをピンとはる」など、皆が積極的に意見を発表します。「よし、低いところに集まっているボタンゴムを高いところに結び直して、巣をつくりかえてみよう!」先生の合図で、再び巣づくりがスタートしました。



今度は自分の結んだ場所だけでなく、全体のバランスを考えながら作業を進めます。柱と柱を結ぶのに長さが足りないと、友達がたるんだボタンゴムをほどいて調達してくれたり、高い場所は高学年が結んでくれたりしながら、協力して製作を進めました。

つくりかえが終わったら、全員で巣に入り床に寝てみました。上を見上げると、いつもの天井との間に何本ものゴムがわたり、ボタンが浮いているように見えます。ひんやりとした床も気持ちよく、みんな居心地がよさそうです。


土台ができたところで、シュロとフェルトを使って巣を飾ります。シュロは近藤先生からの宿題で、児童に表裏両面にペンで色をつけてもらっていました。まずは輪になって座り宿題を発表しました。どの発表の場面でもたくさんの手が元気よくあがります。
虹やお花、丸や三角、ストライプなど、一人ひとり工夫がこらされ、丁寧に塗られたシュロの数々に、見学者やスタッフの間からも「きれいだなぁ」「素敵」という声がもれます。シュロの皮や新葉を児童にみせたいと、公民館の館長さんが届けてくださったシュロも紹介されました。細い茎一本一本に大きな皮がついており、茎のような葉は成長と共に扇状に開くそうです。初めて目にする児童もいて、貴重な機会になりました。
続いて飾りの取りつけかたです。シュロもフェルトも好きな形にきったら、切り込みをいれてボタンにひっかけます。最初は手のひらサイズだった飾りが、一枚のフェルトを交互に、あるいはまるく切りながら長い長いヒモをつくったり、顔サイズになったりと次第に大きくなっていきました。それにあわせるように、つくる人と飾る人で分担したり、つくる時、飾る時それぞれに手伝いあう姿も見られました。他にも、細く切ったフェルトを三つ編みやリボン結びにしたり、ボタンを目に見立てて顔をつくったり、今日の日付や「美」という漢字を切り出した児童もいました。実にバラエティ豊かな飾りが巣を埋めていきました。


11:35〜12:20(4時間目)
巣づくり

ここからは、見学者である家族や地域の方も飾りつけに参加しました。
お家の人にやり方を伝える児童がいたり、親子や兄弟で一緒につくったり、児童の作品をじっくり見ながらアイデアをねる大人の方もいらして、和やかな雰囲気の中で、少しずつ巣が成長していきました。編み目状のシュロは窓から差し込む光を透かし、フェルトは鮮やかな色とともに、目にも手にも暖かい感触を伝えます。こうして、ダイナミックでユニークな形と鮮やかな色にあふれた、軽やかで暖かみのある巣が完成しました。

13:30〜14:15(5時間目)
鑑賞会

児童が自分の居心地のよい場所を巣の中に見つけたら、近藤先生が一人ひとりの家を訪問するようにまわり、気に入っている理由や一日を振り返っての感想を聞いていきました。「寝心地がいいのでここが好き」「シュロをこうやって使うのがおもしろかった。」「巣の中が賑やかで楽しい。」最後に高学年の児童が発表した「みんなでつくることが共同の思い出になった。」という言葉には、他の児童もみんな納得していました。近藤先生、小学校の先生方、ご家族や地域の方々、スタッフ、みんな同じ気持ちだったに違いありません。

まとめ

「最後の言葉を聞いて、とても嬉しくなりました。今日はみんなで協力して、話したり、手を動かしたりして巣をつくりましたが、居心地のよい場所はこの巣だけではありません。みんなの故郷であるこの紀美野町もまた、みんなにとっての居心地のよい場所であり、巣なのです。これから大きくなって、それぞれが自分の興味をもってここを飛び立つ時がきても、ここがみんなの巣であることを覚えていてくれたらと思います。」
紀美野町特産のシュロの新たな魅力を知ったり、友達と協力してつくった経験や、小学校の先生方や家族や地域の人が自分たちを支えてくれている、そうしたつながりを感じることが、子どもたちの自信や生きる力につながってくれたらと願っています。

■おわりに

授業の実施にあたり、紀美野町立小川小学校柳校長先生をはじめとする9名の先生方には、準備から当日までの長期にわたり、多大なご理解とご協力をいただきました



講師 美術作家 近藤晃子 氏 (2012年情報デザイン卒)

はじめ出前でアートの授業を!とお誘いを頂いた時はうれしい反面卒業して間も無いひよっこが任されて良いものかと不安でした。しかし、私の故郷にも似た環境で育つ子ども達にいつしか親近感を覚え「彼らと楽しい事がしたい!」と思い切ってお受けさせて頂きました。視察で紀美野町へ行ってみると、川の音と鳥の鳴き声に囲まれた大自然の中に小学校がありました。校長先生とお話する中で紀美野町の特産品がシュロだという事を知り、帰り際に校庭に生えていたシュロの木から校長先生がシュロ皮をワイルドに刈り取ってくださり頂いて帰りました。シュロ皮は素材として興味深く、家でいろいろ実験してみて授業に使う事にしました。私は授業の中で子ども達に、「地域の人との繋がり」や「身近にあるモノから再発見する驚きや感動」「みんなで一つの作品を共有する楽しさ」を感じて貰いたいと考え、地元の特産品であるシュロ皮を使う事と授業後も地域の方々に解放する事で変化し続ける作品にみんなで挑戦してみようと考えました。