35ミリ60秒
デジカメ・映画研究

檜山茂雄 村穂秀児

まえがき(英文)

 今日急速な波及と発展を示している、デジタル文化にあって、その画像入力としてのデジタルカメラと、文字どおり個人の道具となったパソコンを使って、映画制作・運用の可能性を試みました。2000年8月、専門家諸氏の関係協力を得て、その発表を終えました。ここに発表講演を採録し、今時代のデジタル映画を一区切りとして、映画100年を考えてみました。


発表者
  檜山茂雄 多摩美術大学
  村穂秀児 多摩美術大学
  手塚辰保氏 (株)東京現像所
  大津忠保氏 日本ビクター(株)
  橋本誠治氏 (株)新輝

報告
  データ焼き込みによる35ミリフィルム上映
  エレクトリックプロジェクターによるデータ映写


2000年8月30日(水) 午後2時より
富士写真フィルム(株)本社1階ホール
主催 (社)日本映画テレビ技術協会
    撮影部会、フィルム・ビデオプロセス部会
協力 (株)東京現像所・日本ビクター(株)
   (株)新輝 ・富士写真フィルム(株)
映写協力 (社)全日本映写技術者連盟


§1 デジカメ・映画研究

檜山茂雄

●デジカメで映画

 デジカメ映画について  研究目的

 映画“トイストーリー2”がデジタルプロジェクター上映で話題をおこし、フィルム映写に劣らぬ商業性を提言しました。これからのデジタル時代は映画とどう関係するのだろうか。デジタルをどう理解し、付き合ったらいいのか、デジタルが日常に溶け入った今日、私達は遅ればせながらこのようなことを考えてはいないでしょうか。
 このような時期、映像における各研究は多岐におよび、技術は日進月歩であり、結果が商品として出るときには、さらに新しい情報が聞こえてきます。その間で、私などは未体験のまま、時代に取り残された感じすらするのです。
 本日は、みなさんの関心のひとつにある、デジカメを軸にして行った映画制作の紹介を行います。みなさんなりのデジタル映画を仮想してみてください。
 本研究は1999年、昨年夏、このカメラと出会うことから始まりました。今回、この発表の機会を得たことをうれしく思います。それは、いろいろな人との関係から、この研究発表はひとつの線上をたどっている様な気がしているからです。関係協力いただいた方々に、発表をもって感謝いたします。研究経緯に沿ってつぎつきと展開していった、近未来映画に関心をよせた報告と、具体的なデジタル画像処理プロセスをふまえた企画主旨は次ぎの通りです。

 この主旨背景は、今世紀映像の成果であるフィルム映画を頂点に、21世紀にむけ胎動し始めたデジタル映像制作の可能性・現状の問題・今後解決されるだろう壁などを浮き彫りにしながら、現在の過度期を見ようとすることにあります。また、それとは裏腹に、一種の期待と不安の中にあるといえます。企画としてこの手のものは、半年後では過去のものとなり、鮮度は落ちてしまいます。よって今が“旬”の企画です。そのため、やや欲張った広範囲な内容となっています。この良い機会を借り、熱心な各専門の講師の方々により、「デジカメ・映画」という、ちよっと脇見がち・素通りしそうな世界より進めていきたいと考えます。



■ビクター KY-F70
(図1)


■キャノン EOS D2000
(図2)


■ニコン D1
(図3)

 ●評価用実験映画スクリーングレードの制作

 ニコン・キャノンなどのデジタルカメラとビクターKY-F70

 デジカメ……一般的になじみがあるのは、フイルムステイルカメラの替わりとしてのデジタルカメラであります。代替市場の領域としてコンパクトカメラから35ミリ高画質フィルムカメラまでにおよび、従来のカメラメーカーに加えてパソコンがらみでエレクトロニクスメーカーまで広く販売し、出回ってきています。
 今回使用したデジタルカメラ "VICTOR KY-F70" は、どちらかというと一般にはさほど紹介されない、産業用インダストリアルカメラであります。生産ライン管理・実験用・研究用のカメラで、コンピューターによる画像入力を前提とした、データーカメラと言う領域のカメラであります。諸元は、プログレッシブスキャン145万画素3CCD 動画性能7.5フレーム/秒 アスペクト比 3対4 1024×1360画素。 HDTVのアスペクト比 9対16 1080×1920画素の両サイドを無視すれば、現行の3CCD 200万画素の高精細度HDカメラに匹敵します。日本ビクター(株)より貸与いただき研究開始となりました。

 KY-F70はCマウントFUJINON20mmマクロレンズ付きで貸していただきました。このレンズは画像良好でしたが、望遠系であり、当然他レンズでもテストを開始しました。ズームレンズなどではVGAクラスのモニターでも樽型歪曲周辺の色収差がひどく、こんなにはっきり目視できたものは記憶になく、レンズテスト用入力に使えそうな感じすらしました。フィルム用16mmズームレンズも同様でありましたので、カラーチャート撮り色再現テストは、35mmスチール用単レンズを使用しました。フォーカスおよび感度などは良好であり、1/3絞りまでその差を確認できました。
 動画記録には現在適当な記憶媒体がなかったため、今回は実験できませんでしたが、商品機能として、静止画のMOへの直接記録が可能という魅力があり、これで映画への試みをもちました。いわゆるアニメーション手法をとりました。アニメーション手法・静止画動画手法は連続動画手法とは異なりますので、この問題も含めてパソコン画像処理研究として考えられます。
 作業としては、静止画像を駒撮りしMOへどんどん取り込みました。一画面4メガ程度を使用し、230MのMOだと30枚程度で一杯となり交換となりました。ここから先はパソコンを使ってのデーター扱いの世界となってしまいます。パソコンの使い手、ソフトによって動画・映画の世界に向けイメージを確認しながら修正を施していくこととなりました。同時に、パソコンを嫌悪感なく使っている若い人にも、パソコンを通さずカメラとMOのみでの撮影で、使い勝手などをテストしてもらいました。一様に、映し出される高画質なモニター画像には驚いていました。
 アニメーション手法・静止画動画手法のなかで、パソコン上で編集・動きのシュミレーションを行い、画像を補足したり、OL・ズームなど一通りの映像処理をしてみました。いわばパソコンの独壇場です。確認はパソコン上で圧縮をかけ、VHSに変換し動く映像で確認しました。しかし、ハードディスクに蓄えられたデーター、HDグレードのアニメ素材の再生は、パソコン画面上では考え方は確認できても、1/2インチテープ程度では画質的にはお粗末でした。通常この辺で研究は一区切りとなります。しかし、テープ記録によるHDグレードで見て確かめたかったし、せっかくの機会だからフィルム記録などもを試みたかったのです。ラッキーなことに、(株)東京現像所の協力を得、米CELCO社のフィムレコーダーに2Kデーターで渡し、最終的には4Kデーターで焼き込む事が出来ました。今回この映像をみていただきます。商業的には高価なデーター録画装置であり、モニターではなく、望むところのフィルムスクリーン上で評価出来ることとなりました。この装置を使うにあたっての時間条件が1分間であったことから、今回お見せするフィルムが60秒ということとなりました。去る6月、協力関係者に部内公開し、短いながら、一応にフィルム上でも、十分な高画質の評価を得ました。それはどういう意味を持つのか考えていく中で、更なる人の協力を得て、再構成、音楽付きで今回、大きなスクリーンで皆様共々見る機会となりました。映像は評価実験用として位置づけ、パソコンでの処理は、素材が形を残す判る範囲までとし、秒24コマ、非圧縮で完成しました。

FILM NEGA TYPE EK5245 POSI TYPE EK 録音 ドルビーSR


■デジカメ映画 システム図
(図4)


■画像フォーマット略表
(表1)


■デジカメ映画 資料内容
(表2)


■ヒストグラム
(図5)

●デジカメ映画の可能性

 私としては、データー映像と言うか、良きデジタル信号映像がフィルムに変換されて帰ってきたという感じがとてもします。現在、この辺は違和感なく映画制作に入り込んできましたが。145万画素3CCDでも結構いけるという感じです。また今回、大きなデーター量のため適当なメモリーボックスが見当たらずテスト出来ませんでしたが、パラパラの動きが独特の表現を感じさせる、このカメラの持つ秒7.5コマ程度の動きにも関心があります。
 ご存じの通りメモリーの世界は10年で100倍にも達し、進歩激しいパソコン世界では、パソコンはさらに高速化し、今後デジカメが、さらに高画質・連写・適価格となれば、適時な編集ソフト、フレームアップ・補完ソフトなどが用意され、フィルムによるスクリーングレード映画が自宅で誕生し、そのパーソナル性はある部分では、企業と市場性に受け入れられる可能性を感じます。またこの時点で、フィルム映写はなくなると言う商業論理の意見がありますが、それはクリエーターサイドからも反対のこととして言えることで、フィルムのメリットを知っていて、フィルムで上映したいと言えば出来るということが、いつでもそうですが、とても重要な気がします。
 つまり、映画というソフトは今後、点の集合のデジタルデーターであったり、面積の連続のフィルムデーターであったりして、時代のいろいろな仕組み・媒体のなかを通り、抽出されて作られていく文化なのだろうと思うのであります。今回の研究"デジカメで映画"は、その線上でのきっかけの部分であります。本発表はその確認の意味があります。大スクリーンで、この高画質とデジタル処理の映画性とがもたらすもの、変化していく接点などを確かめることにあります。


■フィルム・ビデオ・デジタル各ソースの領域相関図
(図6)

 フィルムはそれ自体でクローズドなメディアとして、永くありました。色々なイメージを試み学習してきました。テレビは、オープンメデイアであり、ビデオを含めて今日欠かせない映像文化となっています。そして現在コンピューターを介したデジタルメディア・情報・通信メディアがあります。ここではそれぞれをソースとして考えてみました。今回のデジカメ映画研究では、デジタル・ソース、フイルム・ソースでのやりとりで制作されたことになります。そして、それは非圧縮で進めることができました。

●まとめ

 テーマとしての本線は「デジカメ映画研究」、「デジカメで映画?」であります。大型コンピューターを使わず、デジタル映画への手短道具としての、パソコンでの試みでもあります。パソコン・パーソナル映画(?)実験。パソコン動画大画面挑戦。ともいえるでしょう。Eシネマ・HD映像を含めた近い将来の映画・映像世界への仮想はいかがだったでしょうか。ひとまず、ここでは、デジタルカメラ・データーカメラとフイルム変換の親和性。大画面への親和性。映画への適応性、をみていただけたと考えます。今後のデジタルカメラの普及・記憶メモリの増大・パソコンの高速化・パソコンリンク映画・そしてフィルム映写大画面登場。24コマ・非圧縮映像。映画制作ソフトの質的グレード別すみわけ。などを感じ取っていただけたでしょうか。昨今のパソコンはじめ、急速にパワーアップしてくるデジタル世界を背景にしてのちょっと先取り的報告でしたが、今後の制作内容・方法・可能性に期待しつつ、新しいうねりになればと考えています。


§2 コンピューターでの実作業について

村穂秀児

●3CCDデジカメを使って

 今回の【ビクター・KY-F70】によるコマ撮りでは、コンピュータを介さず、VGAモニターでのプレビューを確認しながら、直接MOへの記録撮影をした。このデジカメは、SXGAでのプレビューを試作中の専用アダプターを介して出来るのだが、当方の都合によりVGAでの作業となった。撮影は普通のカメラのように、シャッターを切る感覚で進められるので、いちいちコンピュータ上でのファイル操作をする煩わしさがなく簡便であった。使用出来るレンズは、Cマウントでレンズを選択できるが、カメラ受像部の解像度・再現性が高いので、一般的な安価なズームレンズでは収差がかなり目立ったため、スチールカメラ用の単レンズを使用した。露出も明暗部が詳細に表現されるため1/3絞りのコントロ−ルを要した。撮影は4人が担当し、静止画は全部で207枚となった。

 撮影で困った点は、
1. 今撮ったのが何枚目かを確認しづらい。
2. 実効感度がいくつになるのか分りにくい。
3. MOを替えると、連番のファイルネームがリセットされてしまい、気をつけないと以前撮影したものに上書きしてしまう。
4. 突然のディスクエラーでMOが排出されることが時折起こる。ケーブルのコネクター部の接触の問題か、長時間の撮影による本体内の熱問題か、が考えられる。
5. まだ空きがあるはずなのに、容量が一杯とされ記録できなくなる。
6. MOを繋ぐSCSIケーブルが、太くて邪魔な上に、規格上あまり長く伸ばせないので、カメラの取廻しが不自由であった。
 などがあった。

●民生機器で映画

 コンピュータ上での編集・加工(Macintosh G3・WindowsNT・AMiGA)をする上で留意したことは。当初から、出来ればフィルムにしたい、といわれていたので、DVやMPEG2などの非可逆圧縮で実作業することは考えなかった。フィルム録画をするさい、出来うる限り”良い”データを記録したかったので、画質の劣化を嫌ったからだが、もし非可逆圧縮を行った場合、撮影記録時も、編集作業・特殊効果でも、どの段階でも画質劣化が起こると考えたためである。
 学校での作業を念頭において、Macintosh G3で作業を行おうとしたが、OS8.6では、メモリ関連のエラーでどうしても動画として保存できなかった。使用するソフトや仮想メモリなどの環境を変えてみたが、6GByte近い動画ファイルではやはりメモリ関連のエラーが出てしまい作業が進められなかった。そのため今回はMacintoshの使用は諦めた。OSが、9.0、Xになって、その辺りの不具合が解決されていれば使ってみたい。
 そのため仕事でCGアニメーションの製作に使っている、自作WindowsNT機を使用して作業をおこなった。構成はIntel Celelon 400Mhzを2つ、RAM 256MByte、HDD 30GByte。ごく一般的な仕様である。

解像度(24bit)  一枚    一分(1440枚)
4096 x 3072   約36MByte  約50.7GByte
2048 x 1536   約 9MByte  約12.6GByte
1360 x 1024   約 4MByte  約 5.6GByte
720 x 480    約 1MByte  約 1.4GByte
325 x 240    約0.3MByte  約0.4GByte

 今回の作業にあたり、HDDの空容量が残り10GB足らずであったため、作業領域をWindowsNTのファイル圧縮機能を使って確保した。ただファイルによって圧縮率が異なるため、確実に2倍になるということはないので、用心しながら作業を進めた。使用したAdobe/PREMIERE 5.0Jでは、駒が分れていると一連の動作が1カットとして扱われず、エフェクトが1駒づつにかかってしまうため、一度1カット毎に動画にまとめ、その上でエフェクトをかけた。そのため作業ファイルが倍々で増えて行くため、HDDの空容量がどうしても足りなくなるので、「原画はMOに入っているから、もし不具合があった場合、また始めからやり直せば良い」と考え、動画を作った静止画をHDDから削除しながら作業を進めていった。それでも空き容量が足りなかっため、エフェクトをかける度にも、使用した動画を同様に削除していった。実際に何回か始めからやり直すことがあり、そのたびにかなりの時間を取られてしまった。作業効率を考えるとHDDの空き容量は、完成時間の3〜5倍は最低限欲しいところである。
 編集した映像を確認するため見ようとした場合、リアルタイム処理を考慮に入れて設計されていないWindowsやMacOSなどの一般的なコンピュータ用のOSでは、動画ファイルを正確に秒24駒で再生することができない。正確な再生を得る為には、ビデオボードなどのハードウエアでリアルタイム処理可能なものを通す必要がある。しかしながら、安価で市販されているものは、ビデオの為のDV/MPEG2を使ったものがほとんどで、これは秒24駒には対応していないため、そういったハードウエアを使えなかった。次候補として、ある程度正確な時間軸で再生出来る、ソフトウエアDVDプレイヤーを使用した。エンコードは、堀 浩行氏の "TMPEGenc" でMPEG1に、再生には、サイバーリンク "PowerDVD2000体験版" 使用させていただいた。だだこれも上手く秒24駒が再生できなかった為、2-3プルダウンでエンコードしたが、一連の作業はかなりの時間を要した。
 フィルム・レコーダー【CELCO】へのデーターを持って行くため。当初QuickTimeProが、AVI動画ファイルをSGI静止画の連番ファイルへ直接出力出来るというので、それをラボに渡したがうまく読み込まれなかった。そのため、いくつかのソフトを経由して2KのTIFFにしたところ無事読み込めた。データー受け渡しの際、DDS2を使用したが、書き込み転送速度が非常に遅く、平行してCD−Rも使用した。CD−Rではラボ側の読み込みが非常に早く、作業された方が驚いていた。DDSでは、WindowsNTとUNIXとのtarコマンド(DDS)の仕様の違いにより、一部読めたり読めなかったりがあったが、始めと終わりにダミーファイルを付けるなどの対策をした。今回のプロジェクション用に株)新輝にデーターを渡すのに、全ファイルをCD−Rにしたが、一枚あたり7秒・168駒、計9枚になった。

●非可逆圧縮から可逆圧縮へ

 今回の実験で、いろいろと試行錯誤はあったが、現在の市販されているコンピュータでも、一駒一駒で、数カットごとの作業ならば、1分間のフィルムクオリティの映像が、何とか出来ないこともないということが分った。ただし、HDDの空容量はとにかくあればあるだけ必要で、限られた資源の中、こうなるとやはり、今回使用したファイル圧縮機能のような、可逆圧縮技術の向上がより重要だと強く感じられた。
 現在すでに、市販されているCPUは1Ghzを超え、すぐにでも2Ghzを超えようとしています。5年以内の近い将来において、CPUの速さは10Ghzに近づき、内部バス幅は256bit以上になるでしょう。メモリーは1GB以上、HDDは1TBが標準となるでしょう。そして、ハードウェアの進歩とともに、ソフトウエア技術の向上とユーザーインターフェイスの洗練により、処理能力の優れていることはもちろん、より使いやすく不具合の少ないものとなってほしいものです。
 圧縮伸張に係る時間の短縮と圧縮率の向上、入出力の速さの向上、といったような、コンピュータの高性能化が進むと、現在の非可逆圧縮から、高解像で時間軸も踏まえた可逆圧縮による作業が民生機器でも十分可能になるでしょう。非可逆圧縮に伴う画像の劣化は、やはり画質に妥協できないものに対して非常に厳しい評価になります。そうなってゆくと、今回我々の行った実験が、ごく普通のことになる日が、もうすぐにでもやって来るでしょう。
 コンピュータの性能はまだまだ向上する必要があります。人間の曖昧さや、我侭を柔軟に受け止めることが出来るようにならなくてはなりません。手動の歯車式計算機から、軍需としてリレーや真空管を使った電子計算機として作られ、特別な人だけが、ほんの少しの特定の数値しか扱えなかったコンピュータも、現在では文章をワープロで扱うことや、写真を加工することが当たり前になってしまったように、ビデオクラスの高画質で長時間の映像がごく当たり前にコンピュータで扱えるものとなっています。そして、近い未来には、フィルムクオリティを扱えるより性能の優れたもの、その先には、空想でしかなかったようなホログラフィ動画を当たり前に扱えるモノが、民生機器として我々の手の届くものとなるでしょう。


■資料処理方法
(フロー図)
◯レコーダー入力処理方法

■評価事項
◯解像度
◯再現性(形、色、質感、トーン、ラチチュード)
◯システム
◯コスト
◯時間


§3  画像変換について

●デジタルデーターとフィルム録画

(株)東京現像所 映像合成センター 木下 良仁

1.ビデオ画像を映画用フィルムに録画する方法

 ビデオ画像を直接映画用フィルムに録画する方法として、過去にはブラウン管に写された映像をテレビ信号に同期した録画カメラで再撮影する方法がとられていたが、現在は直接フィルムに露出を与えるレーザー方式および電子ビーム方式の二つの方式がある。

1-1.レーザー方式のフイルム録画
 レーザー方式は、NHK放送技術研究所が関発し、(株)ナックで録画装置が制作、実用化され(株)ヨコシネディーアイエーと(株)イマジカに納入された。本方式の特長は、三原色のレーザー光源を用いて直接、カラーフイルムに実持間でHDTV信号を録画できることである。レーザー光の高輝度性、単色性、集束性を生かすことにより、通常のカラーネガフィルムのほかにカラーポジフィルムやインターネガフィルムなど高解像度・微粒子フィルムヘの録画も可能である。

1-2.電子ビーム方式のフィルム録画
 電子ビーム方式は、ソニー(株)が開発しソニーPCL(株)に納入された。電子ビームで直接フィルムに録画する方式はすぺて真空中で行わなければならない為、大きな困難があるが、電子ビーム露出であるためハレーションが少ない、焦点深度が深く、偏向、フォーカスも容易であるという特長がある。電子ビームの波長は可視光の数万分の1であるから、白黒画像でしか記録できない。したがって、白黒フィルムに三色分解された赤、緑、青の画像を1コマずつ別々に録画し、白黒フィルムを現像後、3コマの白黒画像より1コマのカラー画像をオプチカルプリンターでフィルムに焼き付ける必要がある。

2.デジタルデーターを映画用フィルムに録画する方法

 デジタルデーターを映画用フィルムに録画する方法には、通常、フィルムレコーダーが用いられる。またフィルムレコーディングの方法にも、CRT方式とレーザー方式の二つの方式がある。

2-1.CRT方式のフィルム録画
 デジタルデーターを直接フィルムに録画する方法の一つとして、CRTに三色分解された赤、緑、青のそれぞれのデーターを順次照射しフィルムに焼き付けカラー画像を得る。CRT方式は機材がコンパクトで安価である、比較的容易に高解像度が得られる、などの長所がある反面、CRT技術に内在するフレアーの問題によりフィルム上に1.2以上の濃度域を得ることを難しくしている。

2-2.レーザー方式のフィルム録画
 1991年SMPTE総会でKODAKによりCINEONシステムの技術が発表、公開され、翌92年末ロサンゼルスのCINESITEにて運用開始されたが、1997年KODAKよりCINEONのハードウェアーの販売とソフトウェアーの開発中止が発表された。2000年の2月にはLUX Laser Cinema Recordarの開発中止が発表された。これらの2機種とも光源にガスレーザーを用いていたため運用には大きな困難が想像される。1998年の9月のIBCで、ドイツのARRIより光源に3つの半導体レーザーを使用する世界初の映画用フィルムレコーダーが発表され、ロサンゼルスのデジタルドメインでのべ一ターテストを終え、1999年出荷を開始し、同年9月、東映化学工業(株)と(株〉東京現像所に相次いで納入された。本年の8月には(株)イマジカに納入され現在、日本では3台のARRIレーザーが稼働している。レーザーの特長である高いエネルギーにより低感度、超微粒子のIMNを使用し、赤、緑、青それぞれ2.0の濃度域を得ることができる。

3.デジタル技術と映画製作

 映画製作にデジタル技術を利用するメリットは、従来のオプチカル技術では困難な新たな映像表現が得られると同時に、合成結果がすぐ確認できるため従来のシステムに比べ制作時間が短縮でき、制作コストも軽減できる。フィルム撮影されたフィルムをスキャニングすることでフィルムをデジタル化する事が可能になり、コンピューターでCGなどとの合成が可能になる。近年1080/24PなどのHDTVの出現によりフィルムとビデオ(HDTV)の垣根が無くなりつつある。特にHDTV(1080/24P)は映画フィルムと同じ24コマで撮影されるため、映画との親和性が良いため今後HDTVで制作される劇場映画が増える事が予想される。


■CELCO フィルムレコーダー
(図7)





eXtreme 4K/2K Resolution Table

FORMAT

CAMERA APERTURE

ASPECT RATIO

RESOLUTION

4K 2K
35MM FULL SCREEN .980 X .735

1.33

4096 X 3072 2048 X 1536
     SUPER 1.85 .980 X .530

1.85

4096 X 2216 2048 X 1108
     70MM 2.2:1 AR .980 X .446

2.20

4096 X 1864 2048 X 932
     SUPER 35/SUPER
     TECHNISCOPE
.980 X .409

2.40

4096 X 1708 2048 X 854
     35MM ACADEMY
     OFFSET1
.864 X .630

1.37

3612 X 26322 1806 X 13163
          STANDARD 1.66 .864 X .520

1.66

3612 X 21722 1806 X 10863
          STANDARD 1.78 .864 X .485

1.78

3612 X 20282 1806 X 10143
          STANDARD 1.85 .864 X .467

1.85

3612 X 19522 1806 X 9763
          CINEMASCOPE/
          PANAVISION
.864 X .732

2.36

3612 X 30602,4 1806 X 15303,4
35MM ACADEMY OFFSET5 .864 X .630

1.37

4096 X 2988 2048 X 1494

STANDARD 1.66

.864 X .520

1.66

4096 X 2464 2048 X 1232

STANDARD 1.78

.864 X .485

1.78

4096 X 2300 2048 X 1150

STANDARD 1.85

.864 X .467

1.85

4096 X 2212 2048 X 1106

CINEMASCOPE/
PANAVISION

.864 X .732

2.36

4096 X 34724 2048 X 17364
35MM VISTAVISION

1.485 X .991

1.50

4096 X 2732 2048 X 1366
65MM 5 PERF

2.066 X .906

2.28

4096 X 1796 2048 X 898
65MM 8 PERF (IWERKS)

2.072 X 1.485

1.40

4096 X 2936 2048 X 1468
65MM 15 PERF (IMAX/OMNIMAX)

2.772 X 2.072

1.34

4096 X 3060 2048 X 1530
 
  1. 35mm Academy Offset is imaged as a subset of 35mm Full Screen.
  2. Requires an X offset of 446 pixels. *
  3. Requires an X offset of 222 pixels. *
  4. Anamorphic formats require a two (2) times zoom in Y if the data is unsqueezed. Resolution in Y is shown after two (2) times zoom.
  5. 35mm Academy Offset is set up as its own unique format and requires no software offsets.

* (.115-.009) (X resolution/.980) Where .115 and .009 are the distances from perforation to academy offset and full screen formats respectively.

■CELCO eXtreme 解像度表
(表3)





●まとめ

(株)東京現像所 木下良仁氏 代理 手塚辰保氏発表より

 当方の作業としては、預かったデーターをフィルムレコーダーでフィルムに焼くことと、作ったネガより、プリントをするという作業であります。フィルムレコーダーはCELCO社の機械で、MPR・MPX・NITRO・HDRという順で開発されてきており、順に性能が上がってきております。性能が上がると言うことは、早い記録が可能となることで、フィルム感度があがるというのと同じ効果があります。NITROくらいになると、インターメディエイトネガ(IMN)が使えるようになりました。今回の研究には、MPXのレコーダーを使用しています。レコーダー本体の下部にはCRTがあり、データーはCRTに出力されます。CRTはカソードレイチューブでブラウン管ですが、通常のブラウン管は管面にRGBの発光体が付いていますが、この場合のCRTは単に蛍光体です。この蛍光体に電子ビームが当たるということで白黒です。白黒画面を粒状性のいい、低感度フィルムを使用して記録します。画像面は白黒ですから、R成分G成分B成分データーのそれぞれをRGBフィルターを通して3回記録します。MPXではRGBの順に3回の露光でフィルムに移すのに、それぞれ5秒ずつ、15秒。実際には、フィルター回転、フィルム掻き落としの時間を入れると、1コマ18秒かかる。電子ビームの大きさは、一番小さいもので5ミクロン、5/1000ミリ、つまりミリ200本の解像度であります。作業時間は1コマ18秒、映画は1秒24コマだから20秒として、20秒×24コマ=480秒。8分となる。10秒で80分1時間20分となる。今回の作品は1分。60秒だから、8時間の作業となります。最初にデーターを打ち込み、レコーディング・現像作業があるので、この手の作業は他の作業を含めて、2〜3日の日程を目安としています。
 読みやすいデーターと読みにくいデーターとがあるようで、扱えるフォーマットとして、エイリアス・ウエーブフロント、シネオン、シリコングラフィックス、インディゴなどがあります。今回は2Kデーターを使用しておりますが、実際のフィルム作りには、そのデーターを補完して4Kで行っています。このほかに、最近はアリのレーザーを使ったレコーダーなども登場して、スピードも上がりました。アリのレーザーレコーダーなどは1コマ5秒と早くなってきており、MPXの20秒から比べると、1/4となっています。分解能は1.5k・2k・3k・4kの粗い形での記録もあり、粗くなればなるほど、早く、当然料金も安く仕上がることとなります。また、今回のプリントは補正なしで仕上げてあります。ちなみに価格表の料金では1コマあたり400円となっています。よって、目安としては1秒1万円ということとなります。


§4  3CDDデジタルカメラ(KY-F70)について

日本ビクター(株) 大津忠保氏

 3CCDデジタルカメラ(KY-F70)は、プログレッシブスキャンSXGA対応145万画素3-CCDデジタルカメラでオンチップ型CCDと新開発DSP搭載により、水平・垂直ともに解像度1000本を達成しています。バイオ・画像計測・FAなどさまざまな産業用静止画画像処理等を考慮したカメラです。

◎主な特徴
・1/2型ITプログレッシブスキャン、有効145万画素CCD採用
・RGB分解光学系と3-CCD方式による高色再現性
・SXGA(1360×1024)の高解像度
・プリズムCマウント光学系を採用
・秒間7.5フレームのアナログRGB準動画出力装備(SXGA、VGA)
・SXGA4フレームのデジタルメモリー搭載
・デジタル出力装備SCSI-II、(50ピンハーフピッチSCSIコネクター)
・ダイレクトMO記録、ダイレクトプリントアウトが可能
・新開発DSP IC採用による高速デジタルプロセス信号処理
・RS-232Cリモート端子を装備し、外部制御が可能
・TWAINドライバー(添付)によるPC取り込み


■KY-F70の特徴及び使用例
(図8)



§5 ILA/D-ILAスーパープロジェクターについて

日本ビクター(株) 大津忠保氏

●はじめに

 大画面映像による臨場感・訴求力・情報の共有化が必要な用途には、プロジェクターは今や不可欠な表示装置となっている。一方で、プロジェクターのキーパーツである投写デバイスには、小さな面積に強力な光が集中するため耐光・耐熱性が必要であり、同時に高解像度を達成するための微細技術が要求される。現在でも、より高性能なプロジェクターを目指し世界中で多くの技術開発が進行している。本文は独自の空間光変調素子(SLM)・ILA/D-ILAデバイスとプロジェクターの動作原理・特徴を概説する。

1. ILAプロジェクターの市場導入

 1970年初頭、米国Hughes Aircraft社は光書込空間変調デバイスの研究を行い、1980年代の末には動画用プロジエクター技術を確立した。一方、日本ビクター(株)では、来るべき大画面時代に最適な投写方式として、光書込空間変調デバイスの研究・開発を独自に進めていた。共通の方式を開発していた両社は合弁会社Hughes-JVC Technology社を設立し、1993年より『ILAスーパープロジェクター』を発売し、1990年代後半の大型プロジェクターの主要方式として市場で認知された。

1-1. ILAデバイスの構造と動作

 ILAデバイスは図9に示す通り、2枚のガラス基盤に挟まれた数層の薄膜だけで構成される。薄膜層は光導電層・遮光膜・誘電体ミラー・液晶層の4層構造であり、画素形成の微細加工がないのが構造上の特徴である。デバイスの動作は図10に示すとおり、CRTの2次元光学像が書込光としてα-Si光導電層に結像する。書込光の強弱によって光導電層のインピーダンスが変化するため、液晶層への印可交流電圧が変化する。一方、光源からはBPS(偏光ビームスプリッター)を介し、S波読出光が液晶層に入射している。その結果、読出光は光学的変調を受け、反射光のP波成分がBPSを通過し、投写レンズを介しスクリーン上に投影される。


■ILAデバイス
(図9)


■ILAプロジェクター基本構成
(図10)

1-2. ILAプロジェクターの特徴と課題

 ILAプロジェクターは一般的に相反する高光出力と高解像度の両立を初めて達成した方式であり、特徴は以下の通りである。
(1) 光出力を決定する読出光は開口率100%の誘電体ミラーで反射するので、損失がなく高光出力のプロジェクターが可能である。
(2) 解像度を決定する書込光は微弱光のため、CRTビーム電流が少なくて済み、容易に高解像度化が達成できる。
(3) 量産が難しいとされた垂直配向液晶を初めて量産化し、高コントラストを実現した。
(4) 画素構造がないため、各種入力信号に対し疑似信号の発生しない無歪再現が可能である。

 ILAプロジェクターは光出力12,000ルーメン、限界解像度1,600TV本、コントラスト1,000対1以上の高性能プロジェクターを実現させた一方で、以下の課題も有している。
(1) 投写用デバイスにILAを、書込光にはCRTを用いている関係上、キーデバイスが二重に必要となる。この結果、大型化・重量増加を招きコストも課題となる。
(2) CRTの有径電子ビームで書込光学像を生成するため、MTF(変調伝達関数)はガウス特性となる。その結果、限界解像度は非常に高く映像表現には最適であるが、小さな文字の視認性が課題となる。

2. D-ILAプロジェクターの開発

 近年コンピューターの大容量・高速・低価格に伴い、プレゼンテーションにグラフィックスやテキストが多用される時代が到来し、文字視認性の改善が強く望まれた。日本ビクター(株)では、ILAプロジェクターの特徴を維持しつつ前述の課題を解決するため、画素に直接電気書込が可能な新デバイス・D-ILAを独自に開発した。この新たな投写方式を今後の市場要求に応える21世紀の主流として育成すべく、1998年初頭よりSXGA解像度にて『D-ILAマルチプロジェクター』の市場導入を開始した。

2-1. D-ILAデバイスの構造と動作原理

 D-ILAデバイスの基本構成は、図11に示す通り、LCOS(Liqud Crystal on Silicon)構造である。シリコン基盤上にCMOSプロセスで画素アドレスを選択するXYマトリックスと各画素に対応したAlの反射電極を形成し、その表面を平坦化処理した後、配向膜を形成する。他方のガラス基盤には、透明電極層と配向膜を形成する。その間に垂直配向液晶を封入している。
 図12にてD-ILAプロジェクターの動作原理を説明する。光源からの自然光はILAプロジェクターと同様に、PBSを介しS偏光波となりD-ILAデバイスに入射する。入射光は液晶層を介し、画素電極で反射してPBSに戻る。この時、電圧が印可された画素では、S波が液晶層で変調を受けP波に変換される結果、PBSを通過し投写レンズを介してスクリーン上に投影される。一方電圧が印可されない画素では変調を受けず、S波のままPBSで反射して光源に戻るため、投影像は黒レベルとなる。


■D-ILAデバイス
(図11)


■D-ILAプロジェクター基本構成
(図12)

2-2. D-ILAデバイスの特徴

(1) デバイスは、LCOS構造で画素アドレス選択部と光変調部の液晶とが三次元配置されており、画素電極間の絶縁部分を除き全面反射面として利用されるので、93%の高開口率が可能となる。
(2) 高開口率であるが故に、光−熱変換によるデバイスの温度上昇や、光−電変換による駆動素子の誤動作発生が極めて少なく、強大な光入力に耐え高光出力化が容易となる。
(3) 解像度に関してはCMOSプロセスにより画素ピッチの精細化が可能であり、O.9インチパネルは13.5umピッチで、SXGA(1365x1024)を実現している。更なる画素ピッチの縮小により高解像度化が容易であり、現状の投写デバイスの中では、最も高密度化が可能である。
(4) D-ILAデバイスで実績のある垂直配向液晶を継承しており、高コントラストが容易に得られ、デバイス単体としては数1,OOO対1以上の実力がある。
(5) 反射型デバイスの特徴として光が液晶層を往復する間に変調を受けるため、透過型に比べ半分のセルギヤップで済み、16mSec以下の高速応答が可能である。

2-3. D-ILAプロジェクターの基本構成

 図13にD-ILAの3板方式プロジェクター構成を示す。光源からの自然光は2枚のブライアイプレートとPBSプレートで構成するPS合成(PSC)によりS波に変換され、光利用効率を高めると同時に、画面内光量均一性を改善している。その後、色分解光学系によりRGBに分解され、各色に対応したPBSに入射する。PBSで反射したS波成分は、前述した図12の通り、各色のD-ILAデバイスで変調を受け、P波成分だけがPBSを通過し、クロスダイクロプリズムでRGBが合成され、カラー画像として投写レンズを介してスクリーン上に投写される。
 以上の様にD-ILAプロジェクターは、書込方式を光学像から電気信号による直接書込に変更することにより、従来ILAプロジェクターの特徴であった高光出力・高解像度・高コントラストを継承すると同時に、形状・重量・コスト及び文字視認性の課題を解決している。
 最初のD-ILAプロジェクターは光出力1,000ルーメンであったが、現在は4,000ルーメンから1,500ルーメンの間にラインナップされ、高輝度・高解像度とキセノンランプによる色再現の良さが評価され、高画質プロジェクターとしての地位を確立した。


■D-ILAプロジェクターの基本構成
(図13)

●まとめ

 ILAから垂直配向を継承したD-ILAデバイスは、反射型で開口率が高く、他のデバイスに比べて最も高密度な画素集積が可能であり、高解像度と高光出力を両立させつつ高コントラストが得られる優れた方式である。
 D-ILAプロジェクターの商品化はSXGA解像度より始まったが、より小型化や高解像度・高画質を求める市場の声は日々高まりつつある。これら市場要求に応えるため、O.7インチパネルやQXGAパネルの新規D-ILAデバイスの試作開発を現在推進中である。

※ ILA・D-ILAは日本ビクターの商標及び登録商標です。

参考文献:
(1) W. P. Bleha "Progress in Liquid Crystal Light Valves" LASER FOCUS/ELECTR0-0PTICS, 2394, Vol. 19, No. 10 p111, 0ct. 1983
(2) 中垣新太郎、W. P. Bleha "ILAビデオプロジェクター" テレビジョン学会技術報告 vol. 17
(3) 三好忠義 "高輝度・高精細ILAプロジェクター" 応用物理学会 日本光学会 微小光学研究グループ 1994.10/17 Vol. 12
(4) W.P.Bleha "Image Light Amplifier (ILA) Technology for Large-Screen Projection" SMPTE Journal, 0ct. 1997
(5) A. Nakano et al "Reflectiv active matrix LCD D-ILA" Photonics West 98 Projection display IV Proceedings of SPIE volume 3296 (1998)
(6) H. Kurogane et al "Reflectiv AMLCD for Projection Displays : D-ILA" SID 98 (1998)
(7) F. Tatumi et al "Optical System Using 3 Pieces of D-ILA Panel Module" IDW '98 (1998)
(8) 辰巳扶二子他 "D-ILA パネルモジュールを用いたプロジェクションディスプレイの光学系" 映像情報メディア学会誌 vol. 53 (1999)


§6 エレクトリックシネマとプロジェクターについて

日本ビクター(株)大津忠保氏発表より

 現在いろんなタイプのプロジェクターが出ているが、大きく分けると、この3種類といえます。

 1. DMD方式

 TI社のDLPはICのミラー駆動で、そのON−OFFを使って画を変調するタイプであります。駆動ミラーの間隔が制限され、開口率89パーセントぐらいであります。ただ、DLPシネマ用は工夫されていて、もうすこし良くなっているようであります。ミラー反射なので、光りの粒子が良い反面、コントラストがとりずらいと言われます。シネマ用プロトタイプだと1000対1ぐらいまで取れているものもあります。デジタルの階調によって、γ特性を選定するのが苦しいところもあります。

 2. D−ILA方式

 D-ILAはピクセルの形はありますが、開口率93パーセントで、明るく出来ています。IC技術なので、どんどん解像力が上げられ、高解像力を得られ特徴がある。研究所レベルでは、4000×2000まで出来ている。垂直配向液晶を使用しているので、コントラストが高くとれる。よって、Eシネマに有効と言われます。素子段階では、2000対1が出ています。信号なしで、ノーマルブラックとなるので、黒が作りやすく、液晶を使っているので、アナログの階調表現、γ特性をとりやすいなどの特徴があります。

 3. TFT-LCD方式・一般液晶タイプ

 安価、量産方で、開口率は40から60パーセント位で悪い。解像度を上げれば上げるほど、明るくできない。この辺の技術改良は進んでいますが、解像度を上げると、輝度がとれない。どちらかにするということとなります。SXGAクラスだと、ちょっと解像度を落として輝度を上げている。ノーマリーがホワイトなので、圧縮を与えて黒をつくるので、コントラストがとりずらい。

今後のD-ILAとEシネマ

 D-ILAプロジェクターの動作原理は従来のILAプロジェクターはCRTでの光学書き込みだったが、変換素子のICドライバーにビデオ信号でドライブする形となっています。一般液晶は信号なしの時は白となり、黒は白から黒をおとしこむので、コントラストが、つくりずらいということがありますが、垂直配向液晶を使用のD-ILAは、信号なしの時、ブラックとなります。つまり、ノーマリーブラックとなります。よってコントラストが大きくとれて、Eシネマなどに向くと考えられています。
 今回使用のプロジェクターDLA−M4000Lは、SXGAクラスにあり、1365×1024で、コントラストはスペック上では350:1となっていますが、出力では500:1は出ています。現在、発売しています。今後商品化のQXGAパネルタイプですが、映写解像度の2000×1000に相当し、2048×1536で普通のハイビジョンが写し出せます。Eシネマとしては、今後いろいろな形で、出て来るでしょうが、また実写レベルではこの辺ではないかと考えています。
 さらに、QSXGAパネルタイプではフィルムの解像度4000×2000、8.2MByteの画素数まで、限りなく近づけたいと考え、実験レベルでは完成しています。これらは、バーチャルな世界、リアリティのある世界再現目的ということで、研究しています。
 日本ビクター(株)の考える今後の商品としてのロードマップは、来年度にはQXGA汎用タイプを販売し、要望をとりいれながら、2002年頃には映画用の専用プロジェクターを作りたいと考えています。

注:フィルムコントラストは1800:1ぐらい
注:TI社のDLPシネマ用は、Eシネマ用に世界的に注目されており、30台近くのプロジェクターが劇場可動している。現在日本には2台可動している。まだ市販されておらず、貸与の実用研究にある。





§7  HDTVのハードディスクレコーダーを使用して

(株)新輝   橋本誠治氏発表より

 この機械はもともと、ハイビジョン用の信号レコーダーとして、開発され、入出力はハイビジョンのSDI信号で、内部の記録・再生はすべて、非圧縮で、これが特徴です。使用ボードはコンピューターワークステーションの64bit PCI-BUSに差して使用します。これ一枚で入出力のRGB/YUBの信号マップで入出力することが、リアルタイムでできるようになっています。記録媒体は、いずれもハードディスクで行い。9GB、18GB、36GBなどを使います。36GB、12枚を組み込むことで、1080/60i、8bit、40分の記録が可能となります。これ以上の記録時間延長はディスクを増やすことで、対応できます。図16のラスターフォーマットの下の4っは、映像がないなどの理由でオプション扱いとなります。上の24については標準で対応し、TVのハイビジョン信号に対応しており、SMPTEに対応するように規定しています。

 注:パソコンのDVを想定した安価なビデオボード・ハードディスクレコーダーの転送レートでは、HDクオリティで24フレーム/秒の動画像は送れないことから、ドイツDVS社のHD Station PROハードディスクレコーダーを使用しました。


■ドイツDVS社 HD Station PRO HDビデオボード
(図15)


■使用可能ラスターフォーマット
(図16)

§8  あとがき・まとめ

●研究動機

 この研究発表を通して考えていたことは、コンピュータに支えられた技術進歩は、すごい速さで、かつて空想でしかなかったことが、夢のように実現してしまう現実があるということです。今日のスクリーン映画は、その100年の歴史にあって随時、潜在的時代の要求・またはイメージへの挑戦に向かいあって、時代・時代の表現・技術・経済を軸に、刺激的に進歩・発展してきました。現在の映画形態をみると、広く映像環境の中にあってのフィルム記録・映画は、その安定した表現媒体・確立したシステム性によって画像音響視聴環境を含めた最高グレードの品質を提供しています。映像環境は、主に社会性より、広域波及マス・多目的・迅速性・制作経済性をますますメディア成立の前提条件としてきました。電気・電子媒体・産業発展は、テレビ・ビデオ文化を成立させ、さらに、磁気および光メモリーの発展、アナログからデジタルへの環境変化に沿い、現在では、それらが一般家庭にも普及したコンピューター文化という社会環境も揃い出しました。メディア産業はビデオ・デジタル情報文化時代へと急速に進化・波及させて来ています。そして、今日、さらに映像環境は、画質でのフィルム記録の映画を頂点に置きつつも、一部では、デジタル記録がその可能性において映画頂点へ向かう力を蓄えつつ、Eシネマというある動きを示しています。
 その辺を調査・体験をしたく始まった研究でしたが、様々な方面よりの関係協力を得て、デジタル映画システムの一端をデジカメによる映画で、まとめることが出来ました。

●映像技術の流れ・産業の融合

 今回ような映像表現媒体研究は、手法的に、その時代時代の最新技術を前提に作られていくので、すぐに古く過去のこととなってしまいます。考え方としては、未来的な方法として、コンピューターで映画が出来る、とか、机上で映画制作、など考えられる訳です。が、そのための確認調査となっていても、今考えるところの、未来のCG映画の研究ではありません。また、現在、コンピューターで映画が作られていることも事実ですので、単に60秒のコンピューター映画でもしょうがありません。ここにまとめるにあたり、動機・目的を手中より、的確にもっと細かく絞り、微細に各専門家との打ち合わせ、経過と報告を見ることと、その一端を共に体験することに力点をおいています。つまり社会・時代の節目的なものと、スクリーン映画100年の歴史を、方法・技術として、デジカメとパソコンを持ち出して、映画というフィルム文化からどうしても感じる、映像から画像への質的環境変化。それのもたらす、人間と情報、失われた感性と生まれてくる新しい感性、そしてコミュニケーション文化、それらの感じ・考えを、映画メディア・映画産業は受け取ることが出来るのだろうかを考えてみました。
 今日、メディアのグローバル化と情報整備がおこなわれ、IT革命と名づけられた情報社会の変革に、コンピューターが一役買っています。今日の映画産業を振り返ると電気産業との関係を見過ごすことは出来ません。アメリカ、ヨーロッパにおける1930年頃のトーキー時代には、音の記録・再生と言うことで、電気産業が映画産業に資本を投下し・参入して来ました。これらは映画市場から見れば、アメリカ対ドイツの利害の絡んだ、第二次世界大戦中のプロパガンダ戦争となり、ドイツの降伏とともにハリウッド映画市場の世界制覇となりました。戦後日本は民営化をすすめ、通信電気産業はトランジスタラジオ・テレビ産業として登場します。戦後渇望した、映像はカラー映画として登場します。今に続く映画のスタートです。郵政指導のもと、テレビ産業は順調に伸び、テレビ文化をつくりました。その初期、映画産業は大画面・ワイド映写で差別化を計りましたが、テレビ文化の隆盛により、しだいに衰退の途をたどり、映画がかつての力をなくした現在へと続きます。さらにテレビ技術の進展は、ビデオ文化となりました。1985年頃、政府の示した、高品位テレビ・INS計画は今日の情報化時代の始まりであります。そして1990年頃は情報網ファイバー整備、HDTV・衛星・コンピューターの登場となり青図は実現の方向を示しました。しかしながら、液晶テレビ実用化の遅れにはじまり、バブルの崩壊とともに、それらはともどもメディア産業にとっての大きな痛手となってしまいました。
 その中にあって、高品位テレビより発展した、HDシステムの合成処理を目玉にハリウッド入りしたソニーは、技術だけでの参入に対する、ソフト産業の厚い壁の前に、コロンビア映画社を買収、ソフト制作に乗り出しました。この頃ハリウッドでは、積極的にCG制作、デジタル映画制作が進み、CG制作ならではの表現を世界的に商品化していきました。その中心となったコダック社のシネオンシステムは、大型画像処理コンピューターとあわせて、フィルムによるデジタル映画制作を具現化したものと言えます。映画制作ならばハリウッドで、という感すらあった時代です。思うほどふるわなかったHDシステムを有するソニーは、それを映画用として、1999年、HD-24P映画制作システムの発表を行いました。これはビデオカメラによる、映像撮り込みデジタルシネマカメラとして位置づけることができます。そしてフィルム映写の代わりに力を付けてきた、液晶などのプロジェクターによるデジタル映写が試みられました。このような状況下、TI(テキサス・インスツルメンツ)社は、フィルム映写に迫る高性能なエレクトリックプロジェクターとして使用できうるミラーデバイスを提供。それにより、今日話題のEシネマの登場となりました。
 今後、それら液晶デバイスとミラーデバイスを使ったプロジェクターが、映画産業・興業に売り込みをかけ、従来のフィルム映写のスタイルを変えるだけではなく、衛星などを含めた、配信システムとして、興業及び映画制作・形態を代えようとする時代となっています。そして情報世界の端末では、テレビ文化を向こうに廻し、映像を手にし、インターネット上を駆けめぐろうとしています。
 これらはすべて、100年かけた、ベル、エディソン、イーストマン、ルュミエールに始まる、映像産業のマルチメディアな融合形態とみえるのです。

●まとめとしての本研究のポイント

 フルモーションのビデオ動画像を圧縮し配信している今日にあって、動画性能7.5フレーム/秒のデジタルカメラ(産業用コンピーターセンサーカメラ)により、静止画像だが、ビデオカメラによる映像取り込みと異なり、インターレース方式によらず、ちょっと良い、プログレッシブスキャンによる画像取り込みを行い、非圧縮で直接MOかパソコンハードディスクに記録できた。画像処理専用大型コンピューターによらず、汎用パソコンと既製ソフトで処理、高グレード画像処理をおこなってみた。エレクトリックプロジェクター・デジタル映写を通して、従来のフイルム映写で同素材を比較してみた。

本研究の結果

○画像情報のデーターとしては、フィルムの範疇域の下には入ったこととなるが、かなりのところまで、解像度、色再現、質感がよく、フィルム映写・データー映写ともに驚いた。予想した、スクリーン映写での画像のデジタル感は薄らいでいたし、思っている以上にデジタル映画の可能性はあった。パソコンでもハードディスクレコーダなどのサポート機器使用により、動画映写が可能となってきた。

○パソコンによるデジカメ映画・データー映画の誕生なのだが、このデーターこそは従来のフィルムネガのマスターとなることとなり、みせる媒体の違いとなるが、制作体制に大きく関係してくることに気づいた。
 たとえば、今回のアニメなどの場合、撮影フィルムがいらないと言うことは、制作経済に関係してくる。当たり前だが、コンピューターでフィルム仕上げの直前まで持ち込めることにある。それは、製作者、スポンサー、バイヤー、クライアントなどの判断を待つことができるということにある。内部試写会などはこの方法での可能性がでてくる。従来の映画産業・制作判断にとっては、‘映画は企画’と言う入口だけでなく、‘映画は出来上がりそのもの’となり、評価判断がつき、刺激となることが想像される。ただ、いまの段階では、一般的な撮影では、映像カメラが高価か、または安価なデジカメでは圧縮画像での記録がせいぜいであろう。将来、スティルフィルムフルサイズ版まで画質性能を、非圧縮で上げてくるタイプがあることだろうから、以後、デジカメ補完ソフト、安価で高性能なコンピューターなど増々、可能性が近い日にそろうような方向、勢いを感じずにはいられない。スティルデジタルカメラは連写枚数を上げてくるとなれば、機能としてのスティルデジタルカメラとデジタルビデオカメラとの区分は薄くなる。現在でもそれぞれの一部の特徴機能を持つデジタルカメラが登場している。秒24・30フレーム記録が困難な場合はフレームの補完の出来るソフトなどが登場するだろう。やがて、机上にパソコン、引き出しにデジカメ。この研究をきっかけとした、デジカメ映画制作。なとどいう人が登場する予感がする。

○映画産業として、Eシネマは徐々に拡大していくだろうし、そこではフィルムレコーダーは重要な働き手となってくる。ラボ業界は高度なフィルム産業をベースに、メディア産業へと質的に変わっていくだろうと考えられる。映画文化のメディア性、先駆性は国際化・グローバル化の波に洗われ、方法として期待されるだろう。そして、映画作品の国際化がさらに叫ばれることとなるだろう。


 今回のデジカメ・映画研究にご協力いただきました多くの方々に、あらためて紙上をかりてお礼を申し上げます。


デジカメ映画製作
  檜山茂雄 村穂秀児

制作・関係協力
 岩井天志、近藤勇一
 山内共栄、木村栄二、古山 正、平井宏侑、山田健一、
 北村敏彦、今井 良、梅木みどり、大平勝弘

日本ビクター(株)
 大津忠保、
 河野景三、田辺康和、山浦 毅、吉原重和、
 中村陽一、南迫厚志、長石 渉、早川 充、
(株)東京現像所
 手塚辰保、大熊久雄、木下良仁、浦野健二

アオイスタジオ(株)
 松島洋之、利沢 彰、

(株)新輝
 新谷秀雄、塩川克雄、橋本誠治、陳育偉、林 譲、

音楽  宮崎尚志