卒業制作優秀作品集2018
芸術学科

論文イメージ

阿部 まり花

暴力と恍惚 花村萬月について

本論考では、小説家・花村萬月が虚構の中で何度も提示する「宗教と依存と愛の近似性について考えること」を根底に置き、彼の描き出す人間のすがたを見つめていく。なぜ類似した主題を繰り返し、説明しようと試みるのか。代表作『ゲルマニウムの夜』を始めとした一連の作品群である『王国記』を中心に、萬月が宗教を通して他者、そして自身をどのように問うてきたのかを論じていきたいと思う。

担当教員によるコメント

阿部まり花さんの卒業論文『暴力と恍惚 花村萬月について』は、副題にある通り、小説家の花村萬月の作品、特に芥川賞を受賞した『ゲルマニウムの夜』からはじまる連作長編『王国記』に描き出された暴力性と宗教性を、文学的のみならず哲学的にも分析した論考である。花村は、凄絶な少年期を、カトリック系の福祉施設で過ごさざるを得なかった。聖職者による性的な虐待を目の当たりにし、その腐敗に憤りながらも、聖書に描き出された強烈なヴィジョンに深く引き寄せられてもいた。そして、自らの体験をもとに、身体的な暴力と薬物的な陶酔、宗教的な神秘体験が一つに融合するような独自の作品世界を築き上げていった。そのような困難な作品に挑み、流麗な文章で、見事にその核心を描き出すことに成功している。

教授・安藤 礼二

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