ブーシェの神話画における表現について

草野 明日香

作者によるコメント

本論文では、フランソワ・ブーシェの作品、芸術を再評価することに大きな目的がある。教養人の中にはロココを軽薄な文化として嫌う者もおり、ロココの代表者ともいえるブーシェもまた批判の対象となっている。彼の芸術をただ軽薄短小とみなしてしまってもいいのか。その疑問を、時代背景や画家の人生を含め、ブーシェが最も活躍したジャンルである神話画における表現の分析を通して考察した。

担当教員によるコメント

ブーシェは18世紀フランスの、いわゆるロココ美術の巨匠である。とはいえ表現が装飾的にすぎる、軽薄だということから彼の評価は評論家の間では必ずしも高くはない。草野さんはそうした評価にとらわれず、自身の目でブーシェを見直し、自身の言葉で再評価を試みた。まずブーシェの生きた時代背景やパトロンとの関係に触れながら、ことにディドロの酷評を分析し、それに反論する形でブーシェ作品が画家自身の感覚を重視して生まれたものであることを明らかにする。次に対象作品を神話画にしぼり、他のロココの画家の同主題作品と比較することでブーシェ芸術の性格を浮き彫りにした。まさに美術史の基本をしっかりと押さえた論文である。と同時に、見事な再評価だといえよう。

教授・諸川 春樹