【三原康裕×林響太朗】多摩美は「明日」をつくる場所そこからすべてがはじまった
「GU×MIHARAYASUHIRO」のスペシャルムービー制作で人気クリエイター2人のタッグが実現
卒業生のデザイナー・三原康裕さんが主宰する「MIHARAYASUHIRO」が若者に人気のファッションブランド「GU」とコラボレーション。同じく卒業生で映像作家の林響太朗さんとタッグを組み、 八王子キャンパス図書館でのスペシャルムービーの撮影が実現しました。その完成と公開を機に、撮影秘話や学生時代のことなどについてお話をうかがいました。
大人たちはちゃんと若者たちを見ていると伝えたかった
「美大生」をモチーフにした企画で多摩美タッグを結成
―― 今回、おふたりがタッグを組んだきっかけを教えてください。
三原: GUからお話をいただいたのが2020年の3月で、世間がコロナ禍に陥るタイミングでした。その後、緊急事態宣言が出され、大学が休みになったり就職活動に支障が出たりしているといった話を聞くうちに、若い人たちに向けて何かメッセージを発信したいと考えて。僕自身が多摩美の学生だったこともありますが、次の時代を創造する若者のアイコンとして「美大生」をモチーフにしたファッションをデザインすることになりました。そのCMを撮影するにあたり、ぜひ多摩美の図書館で撮りたいと思ったんです。僕がいた頃にはなかった建物ですが、建築家の伊東豊雄さんの設計で、いろんなメディアで取り上げられていて、卒業生として誇らしかった。映像監督も多摩美の卒業生がいいなと思い、林さんにお声がけしました。
林: シンプルにうれしかったですね。三原さんと一緒にお仕事ができることも、学生時代に慣れ親しんだ多摩美の図書館で撮影ができることも。
―― 三原さんは林さんに、どんな風にオファーをしたんですか?
三原: 僕、林さんに3分くらいしか説明していないんです。「グッド・インスピレーション」っていうテーマで、学生に向けたもので、ちょっとサスティナブル。それしか言ってない。
林: あとは図書館がロケ地だってことくらい(笑)
三原: 「こんな映像にしてほしい」っていうのはちょっと言ってみたんだ、素人だけど。そしたら「ちょっと何を言ってるのかわかりません」って言われて。
林: ほんと、わからなかったんです(笑)
三原: 林さんって怖いなあって思って。名前も作品も知っていたけど、けっこう怖い若者なんだなあって(笑)
林: ははははは。まさかそれで怖いって思われてたとは思ってなかったです。
―― どうしてあまり説明しなかったんですか?
三原: これは賭けじゃなくて、僕の中での正攻法なんです。コラボするうえでいちばん良いのは、林くんが「いや、ここだろう」って感じたポイントを優先してくれること。林くんは今も多摩美で講師として学生と過ごしているし、林くんが見ている図書館の風景の方がリアルだと思うから。
林: 実はそれ、さっき初めて聞いて知ったんです。だから最初しばらくはすごく探りを入れながら三原さんのことをじーっと見てました(笑)
三原: 昔、ロシアのバレエ団とイギリスのオーケストラが10分っていう長さだけを決めて、それぞれ別々に練習して後日ひとつのホールで上演するという実験があって。それが本当に素晴らしかったんですよ。まるっきりズレるところもあるんだけど、バチッと合うところもある。コラボレーションっていうのはそういう「化学反応」であって、どうなるかわからないってところが楽しいし、それがいちばんの醍醐味だと思って、あえて伝えなかったんです。
現場での化学反応から「奇跡」が生まれた
―― 出来上がった映像を見ていかがでしたか?
三原: もうね、奇跡。ロングバージョンのほうは特に。
林: ははははは(笑)
三原: 階段で男の子と女の子がすれ違うシーンが、まるでほんとに同じ時間に撮った感じになってるの。林くんがストップウォッチで計りながら人を動かしていったんじゃないかって思うぐらいぴったり。でもそうじゃなくて、歩くスピードも席を立つシーンも全部モデル任せで、急かすわけでもなく、ずーっと一連の動きがあってそこに来る。それはね、ちょっと鳥肌ものだった。
林: あれは本当にたまたまです。でもやっぱり現場のいちばん面白いところってそういうところだなあっていうのはありますよね。たとえば僕があれこれ計算して「あなたは15秒で歩いてください」とか指示をしたら、モデルさんが自然体じゃなくなっちゃう。ラフにそれぞれの感覚でやってもらって、うまくいったなって感じです。
三原: 大げさかもしれないけど、よくあんなムードで撮れたなと思う。まず知的。やっぱり林くんは知性があるんだなと思った。
林: ははは。いやいやいやいや、多摩美は補欠合格でしたよ(笑)
三原: ものすごく勉強家ですよ。モデルの動きも林くんの中ではたぶん最初からイメージがあった。「GU×MIHARAYASUHIRO」を見せるっていうのが最優先でも、空間が意識できる映像で、多摩美の図書館を舞台にしている意味をちゃんとわかって作ってくれていた。すごく作り込まれた感じがあって、強くて上品な映像になっていた。
林: よかった、そう言ってもらえて。
―― 途中で三原さんも登場されていましたね。
三原: 「ここに座って」って言われて。どのぐらいのタイミングでカメラが来るのかわからないから、「まだ来ない? まだ? やっと来た!」っていう感じでそわそわしてた(笑)
林: スタッフみんなでその場で話し合いをして、三原さんの時間をちゃんと作ろうって。
三原: 思いつきなんです。それもある意味「化学反応」ですね。
―― 多摩美の学生有志もエキストラとして参加していて、撮影前には三原さんが学生たちに熱いメッセージを送ってくれました。
三原: (笑)。あの時はちょっと感情的になっていた部分がありました。
林: 確かにとても熱がこもっていましたよね。あのスピーチを聞いて、改めてすごい先輩だなって思いました。
三原: 「GU×MIHARAYASUHIRO」のデザインを考えていた時は自粛期間で、ひとりでアトリエにいることが多かったせいか、プライベートなコレクションにしたいという気持ちが強かったんです。もっとポップで軽いテーマのほうがいいのかなと思ったこともあったんだけど、こんな世の中でも大人たちはちゃんと若い子たちを見ているし、応援しているよってしっかりと伝えたかった。
林: なるほど。
三原: 特にクリエイションをやる子たちって、どこかで自分の力を見限ったりする時があると思うんですよ。誰もが自分の才能の無さをどこかで感じながらも努力していくっていう。それの繰り返しじゃないですか。僕自身も学生時代は大変だったけど、多摩美で過ごした4年間があって、今の僕がある。恩返しがしたいという気持ちで、あの場を借りて自分の思いを伝えさせてもらいました。
作らないことには何もはじまらない
とにかく作って、見てもらうこと
―― 最後に多摩美の後輩たちに、そしてクリエイターを目指すすべての人にメッセージをお願いします。
林: いろんな良いもの、美しいものを見るきっかけになる「遊び」をやってみるといいと思いますね。大学だけじゃなくて、外の世界にもふれてみたり。
三原: 同感です。美しさを勉強すること、本当の意味で。何が正しいかってことがわかるようになると思う。それからとにかく作品を作って、たくさんの人に見てもらうこと。人との出会いがいろんなことに気付かせてくれるし、紹介ゲームみたいに世界が広がっていくんだ。有名になっている人で何もやっていない人なんかいない。僕も学生の時はとにかく必死に作りまくっていた。やっぱり作らないことには何もはじまらないんだよ。
林: 確かに。僕は今のほうが「もっと作らないと!」って思ってる。大学の頃からそう思えていたらよかった。
三原: 僕も今でも、3日も空いたら「なにかやらなきゃ!」ってなる。
林: すごくわかります、その気持ち。
三原: たぶんね、焦ったほうがいいと思うの。テクノロジーとアートの戦いなのか、あるいは共生なのか、僕たちは今、100年に1回の大革命が起きるような時代の変革期の最中にいる。一生懸命勉強して時代についていこうっていうことも含めて、何か新しい表現だったり戦い方だったりを見つけたほうがいいってことを若い子たちにも伝えたいね。モノやコトを生み出せる僕たちは、時代のその先を提示する側にならなきゃいけないんだから。
デザイナー・三原 康裕
97年染織デザイン卒業
1972年長崎県生まれ 、福岡県出身。大学在学中に独学で靴を作りはじめ、1996年に靴メーカーのバックアップによりオリジナルブランド「archi doom」を立ち上げ、翌年1997年には、自身のレーベル「MIHARAYASUHIRO」を立ち上げる。2004年ミラノコレクションに初参加し、2007年からはパリコレクションでの発表を続けており、ウェア、シューズともにデザイン性の高さと素材へのこだわりが国内外から高い評価を受けている。2020年「General Scale」という環境的責任を掲げたブランドをローンチする。
映像作家・林 響太朗
13年情報デザイン卒業
1989年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、DRAWING AND MANUALに参加。映像のみならずインスタレーションやプロジェクションマッピングといったさまざまなクリエイションに関わる。星野源、Mr.Children、米津玄師、BUMP OF CHICKENなど多数のアーティストのMVを監督。2016年「ヴェネツィアビエンナーレ」特別賞、2019年「ADFEST2019」ブロンズ、SSMA 2020 BEST VIDEO DIRECTOR受賞など受賞歴多数。