映像機材やスタジオを、全学生が利用できる多摩美の"メディアセンター"
映像の新たな技術を習得したい、もっと知識を広げたい、イメージをさらに形にしたい。そう思ったとき、全学生が利用可能なメディアセンターには、先進の設備を備える「映像センター」があります。その設備・機能や、ここで学び制作を行っている学生たちの活動をご紹介します。(2018年6月7日発行「TAMABI NEWS77号」より※文中に登場する数字・肩書・学科名などの情報は取材当時のものです)
【1】最新機材でも初めてでも、気軽にサポートが受けられるメディアセンター
多彩なメディアや技術に対応するコア・センターとして2001年に開設されたメディアセンターは、本学全ての学生が利用できる共同施設です。八王子キャンパスには、研究・情報・映像・写真・工作などの施設と設備があり、中でも映像センターには、スタジオや撮影機材の他、3DCG映像編集や3D加工機材の充実、ペンタブレット最大手Wacomより最新情報と製品を取り入れ可能な体制など、業界水準の環境が整い、学生たちは自由にその設備を利用することができます。さらに、経験豊かな技術職員が常駐し、制作をサポートしてくれるのも大きな特徴。単に技術面だけではなく、目的をかなえるための多様な方法や考え方など、気付きを重視したサポートが得られることから、課題制作だけでなく、表現の可能性を広げようという学生たちが日々訪れています。
八王子キャンパス メディアセンター
■「気軽に覗いてみて」...曽根章さん(映像センター技術職員)インタビュー
初めてここを訪れ設備を見た学生は、「すごい!」と目を輝かせます。ここには大画面液晶タブレットやウルトラワイドモニターをはじめ、アニメーションでもCGでも、あらゆる映像制作をかなえる編集ソフトがそろっている。インターンシップに参加する学生のために、その現場と同じ環境を整えることもあります。これらを用意するとき、一応どんな機材やソフトが欲しいかと学生の要望を聞きますが、僕はさらに、一線で活躍する先生や、卒業後もつながっているここのOBたちからプロ先進の情報を得て、それ以上の、日々の進化のその先をゆく環境を用意してやろうと企てます。技術職員として、学生の驚きと期待に満ちた顔を見るのが楽しみなのです。映像センターには複数の技術職員が常駐し、サポートをします。でも、ここはただ教えるだけの場所ではない。自分のイメージを具現化するためにこの設備をどう使うか、それは学生に委ねます。知り合った学生同士で教え合うなど、学科を超えて、技術だけでなく本質的な共感を得られる仲間と出会える交流の場となることもあります。実際、ここから多くの作品が誕生しています。「東京プロジェクションマッピングアワードVol.0」で優勝賞を受賞したでんすけ28号くん、持田寛太くんもそうですし、"デジスタ"で日本代表となった作品なども生まれました。また、「プログラミングを使ったアニメーションをやりたいが、他ではできない」という理由で、3年次に多摩美に編入してきた学生も、よく利用していました。映像センターをいち早く見つけた学生はラッキー。一度気軽に覗いてみてください。授業とはまた異なる学びや発見が得られることでしょう。
上野毛キャンパス メディアセンター
映像、写真、撮影、録音、機材と、スタジオを中心に設備が整う上野毛キャンパスでは、技術職員の林知明さんを中心に、学生の制作支援を行っています。今年、新たに120インチスクリーンやオーディオ環境などを備えたMCシアターも加わり、発表の場としてもより充実しました。
■「映像のこれから」...久保田晃弘先生(メディアセンター所長・情報デザイン学科 教授)インタビュー
いまの時代、映像や写真はデフォルトで、入りやすいメディアです。さらに、自動的に被写体のベストな瞬間を撮影するカメラの登場のように、もはや人間が撮る必要すらなくなってきました。いま重要なことは、例えばAR(拡張現実)をそのまま使うのではなく、新しいことをするためにARをハックするといった柔軟な思考だと思います。それを後押しするために、各学科内の教育はもちろん、学科の関係を超えるメディアセンターがそのプラットフォーム的な役割を果たしています。多摩美の卒業生が映像分野で活躍できる理由は、固有の映像技術だけを学ぶ学科を設けず、多様な組み合わせが生まれる環境にあると思っています。
【2】メディアセンターの施設を使って、日本画・油画・版画の学生も学べる映像の授業
デザイン系の学科だけでなく、絵画学科の3専攻(日本画・油画・版画)でも映像表現の一つとしてアニメーションを学べる授業があります。毎年夏、1・2年生を対象に3専攻共同で開講している「技法講座」の一つ「映像」がそれに当たります。デジタルの時代、あえてfilmによるキネカリアニメーション(手作業による手法のひとつ)やフォトグラムの制作を行うほか、実際にムービーfilmカメラで撮影したものを自家現像するなどして、映像の1コマ1コマの意味について学びます。 さらに、こうして出来たアブストラクト(抽象的)な光によるアニメーションをデジタルで再撮影し、コンピューターで編集。最終的にはプロジェクターでそのイメージをインスタレーションとして作品化させ、アナログからデジタル、二次元から空間へ映像を展開させます。
【3】メディアセンターを利用して活動する「映像演出研究会」
〜竹中直人や大谷健太郎らを輩出した伝統あるサークル〜
■林 万季人部長インタビュー(情報デザイン メディア芸術コース2年)
「映像演出研究会(以下、映演研)は1974年に発足し、以来、竹中直人さん、大谷健太郎さんをはじめ、多くの映像作家を輩出してきました。また、『ABUデジスタ・ティーンズ』など多数の受賞歴もあります。現在の部員は55名ほどで、部員同士で共同制作に取り組む人、一人で技術を伸ばそうとする人など、各自が自由に映像制作に取り組んでいます。
映演研の強みは、OBも含め、先輩後輩の関係が強いことですね。新人が入部する今年4月には、それぞれ得意な部員が講師となって、『Adobe Premiere Pro』『After Effects』『一眼レフカメラ』の使い方について、計3回の講習会を行いました。GWには毎年恒例のキャンプを行い、交流を深めます。映像、CG、実写、アニメなど、みな得意分野が異なりますので、ここでお互いをよく知って語り合うことで、自分がやりたいこと、その力となる仲間を見つけるのです。また、合宿などにOBの先輩も参加し、プロの世界の情報を提供してくださるのも大きな特徴です。部で最大のイベントは、芸術祭。レクチャーホールの大スクリーンで上映できる上、一般の方の評価が得られるチャンスでもあります。
僕はメディア芸術コースで、プログラミングを中心に広く映像について学んでいますが、ここならより深く制作に取り組めると思い入部しました。ですが映演研は、学科はあまり関係ありません。今年は油画専攻の新入部員が目立ちました。アニメーションが作ってみたい、知識豊富な仲間と知り合いたい、普段アナログでしか制作したことがないからデジタルに触れたい、など、動機も技量もさまざまです。そんな仲間が情報交換し合いながら自分のやりたい『映像』に向き合えるのが、映演研の魅力だと思います。
「ABUデジスタ・ティーンズ2015」で日本代表に
学科の枠を超えて一つの制作に取り組むという、サークルならではの利点を生かして結果を得た好実績があります。ABU(アジア太平洋放送連合)の教育プロジェクト「ABUデジスタ・ティーンズ2015」で、当時彫刻4年戸嶋優多さん、グラフィックデザイン3年横山那月さん、メディア芸術2年小野暁旦さんの「昆虫を造る蟲」チームが制作した3DCG作品『The Best Gift for Mom』が日本代表に選ばれ、ブルネイ王国で開催された国際映像フェスティバルに出場。それに先駆け、NHK Eテレで放映された国内大会には、実写作品『ラバー ONLY KNOES』を制作した工芸3年岩澤侑葵さん、情報デザイン2年上妻紘人さん、芸術1年樋口泰造さんの『OTAKU侍』も出場しました。
映像演出研究会メンバーによる作品
刺激し合える場となる部室
部室には、映像撮影に必要な機材が多種そろっています。レフ板やスタビライザー(手ぶれなどを抑える撮影機材)、三脚、水中撮影が可能なGoProほか、アニメーション用のライトテーブルやタッピング機など、実写、アニメ両方の設備が整い、また、モニターとDVD、Blu-rayプレーヤーも完備しているので、作品や映画などの鑑賞会も。部員になれば、誰でも使用が可能です。