企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

「湖池屋プライドポテト」などメインブランドのパッケージデザインに携わる

株式会社湖池屋

写真左から田中美羽さん、人事担当者の齋藤櫻さん。東京・渋谷区にある株式会社湖池屋 原宿本社にて

1953年創業、1967年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した総合スナックメーカー。2016年にコーポレートブランドを再編後、高付加価値型の商品開発に方針転換し、2017年に「新生・湖池屋」の第1弾商品として発売した「湖池屋プライドポテト」が大きな反響を呼んだ。近年はスナックの枠組みを超えた食領域にチャレンジしている。

https://koike-ya.com/

2024年3月掲載


自ら動ける主体性と、自分の考えを表現できる力は、多摩美生の大きな強み

齋藤櫻さん
齋藤櫻さん

株式会社湖池屋
人事総務本部 人事部
人財マネジメント課

2016年に現社長が就任して以降、クリエイティブな思考や発想が、商品開発だけではなく経営面でも重視されるようになり、いろいろな価値観を持った人財が意見をぶつけ合いながら、刺激し合ってイノベーションを起こしていこうという機運が生まれました。そうしたなかで誕生した商品が「湖池屋プライドポテト」です。プレミアム感のある、大人にもちょっとご褒美になるような商品で、多くのお客様から反響をいただきました。

その成功体験から、社内はよりクリエイティブの力を信じるようになり、よりデザイン性を求めるようになりました。さまざまな視点を持った人財を受け入れられる体制になり、失敗を恐れずにチャレンジできる土壌も徐々に整って、2018年からはデザイナーの新卒採用も始まりました。また、トレンドの移り変わりをいち早く取り入れられるよう、2023年には東京・原宿に本社を新設しました。

当社では現在、美大卒の社員の多くがマーケティング部でデザイナーやマーケター職に従事しています。入社後から数年でメインブランドのパッケージデザインを担当するなど、即戦力として第一線で活躍する人が増えてきており、これも美大生の特性のひとつだと感じています。2つの職種に分かれてはいますが、デザイナーがコンセプトから考えることもありますし、マーケターがデザインに関わることもあり、明確な垣根はありません。自分の身の回りにある気になるものや自分の好きなもの、何か引っかかるものを日々ストックし、「これの何が面白いんだろう、なぜ引っかかるんだろう」ということを深堀りして、ときには自分の考えや世界観を視覚的に表すコンセプトボードを制作して企画提案するということが、マーケティング部のいちばん根幹にある仕事です。

また、マーケティング部は対外的な窓口でもあるので、いろんな人を巻き込んで商品づくりを推進していかなければなりません。立場や価値観の異なる人がいるなかでも自分の意見をしっかりと持ち、自分の言葉で述べることができ、課題発見から提案までをセットで、ときにはビジュアルで提示することができるのは、多摩美卒業生の大きな強みではないでしょうか。企画書ひとつとっても「人に伝える力」が非常に長けていると感じます。自ら動ける主体性と、自分の頭のなかにある考えを表現できる力は、当社の全ての業務で求められています。

湖池屋の人気スナック菓子のラインナップ。「湖池屋プライドポテト」「スコーン」のパッケージデザインにグラフィックデザイン学科卒業生の田中さんが携わっている。

スナック菓子で社会をどう変えられるか、商品企画からデザインまで一貫して考える

田中美羽さん
田中美羽さん

2022年|グラフィックデザイン卒

株式会社湖池屋
マーケティング本部
マーケティング部
グローバルデザイン室

学生の頃から「実際に買ってくださる方を想定して、その方に直接届く商品をコンセプトから作りたい」と希望していました。現在は「湖池屋プライドポテト」「スコーン」などのブランドを担当しています。パッケージのみではなく、商品企画から販促用のPOP、ポスター、ウェブサイト、CMなどのコミュニケーションデザインにも一貫して携わっています。どういうものがお客様に求められるのか、トレンドの変化を見ながら、味もデザインももっと良くできないかと日々模索しています。

自分でデザインをすることもありますが、外部のデザイナーのかたと協働することも多く、依頼する際のオリエンテーションでは、コンセプトや商品イメージを言語化することの大切さを感じています。社内とは異なる価値観や視点から生まれる提案を期待して、デザイナーの可能性にゆだねられるような言葉のやりとりを心がけています。デザイナー同士でしかできない会話もあるので、私が企業側の視点をもって伴走するのは、信頼関係を構築していける要素でもあるのかなと思っています。意見がぶつかり合ったり、別の課題が出てきたり、そもそもコンセプトは何だっけ?と行ったり来たりを何度も繰り返すところが、難しくもあり、やりがいでもあると感じています。

新しい意見やアイデアをどんどん商品化していこうという風潮が社内で年々高まっていることも励みになっています。入社してすぐに開催された高知の酒造メーカー「酔鯨」とのコラボ商品の社内デザインコンペに参加し、クジラの尾をモチーフに、ポテトチップスのパッケージ、日本酒のラベル、化粧箱のデザインを提案したところ、採用していただけて。そこから社内の先輩デザイナーにアドバイスをもらいながらさらにブラッシュアップし、その年の11月にオンライン限定商品として販売されました。すごくうれしかったのと同時に、ひとつの商品をつくるために多くの人が関わっているということを知り、デザインにもさまざまな考え方や視点が必要だということを実感しました。

田中さんが入社2カ月目でパッケージデザインを手がけた「酔鯨」とのコラボ商品「鯨乃友(くじらのとも)あわせて旨みが華やぐセット」。オンライン限定販売で、2024.2.22現在、在庫切れとなっている。

多摩美での学生時代に大貫卓也教授から教わった「社会の課題をデザインで、アートディレクションで解決する」ということは、いまも常に私の頭の片隅にあります。時代とともに人々の生活様式がさまざまに変化するなかで、スナック菓子が単なる嗜好品としてだけではなく、生活のなかで何を解決できるか、何かを変えるきっかけになれるか、意識するようにしています。

いま振り返ると当時はビジュアルの強度やクオリティを求めがちでしたが、最初に立てたコンセプトがデザインに反映されているかどうか見直す作業も、もっとやっておけばよかったなと思います。また、大貫先生はじめ実績も経験もある先生方から1対1でアドバイスをもらえることが、どれだけ貴重なことだったかと痛感しています。多摩美のグラフィックデザイン学科は日本一のデザイン、アートディレクションが学べる場所だと思っているので、後輩の皆さんにはその環境や設備を存分に活用してもらえたらと思っています。