デザインの専門性と関係構築力の高さを生かし、社内外に活躍の幅を広げる
キヤノン株式会社
祖業であるカメラを出発点にして、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの4つの産業分野で新たな価値を創造し、世界初の技術、世界一の製品・サービスを提供することで社会課題の解決に貢献することをめざしている。
https://global.canon/ja/
2024年7月更新
関係する人を巻き込みながら、
自分のクリエイションを出せる力を持っている
島村順一郎さん
1995年|プロダクトデザイン卒
キヤノン株式会社
総合デザインセンター
部長
当社は近年、カメラやプリンターなど従来からの製品に加えて、医療機器や産業機器など、よりプロフェッショナルを対象にした製品開発が増えています。なかでもCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの医療機器は、自身がユーザーにはなり得ませんが、ユーザーである医師や技師の方のワークフローや現場の課題を分かったうえでデザインしないといけないため、リサーチメンバーから客観的な状況やキーポイントをヒアリングしたり、実際に医療現場に同行したりして、早い段階でユーザー理解を深めることが大事になってきています。また、サイズの大きな機器は原寸のモックアップが頻繁には作れない、でも医療にかかわることなのでデザインの失敗は許されないというなかで、MRやVR(仮想現実)でデザイン検討できるような環境も整え、より価値の高いデザインを実現できるようになりました。さらにその価値をお客様に届けていくことも重要で、デザインを自ら語り発信力を高めることにも取り組んでいます。
私も含め多摩美の卒業生は数多く在籍しており、製品の主要なデザイナーとして活躍するだけでなく、デザインの成果を軸足に、活躍の場を広げています。関さんは語学力を活かしてオランダにあるグループ会社のデザインチームとの架け橋役となったり、世界的な「iFデザインアワード」で審査員を務めたりしています。松木さんと大野さんも、それぞれ手掛けた映像やUX・UIデザインの実績を取材やオンライン配信を通じて公開し、デザインの価値を発信しています。
こうしてあらためて考えてみると、多摩美生は社会性が高いな、と感じます。仕事を進めるうえで協働する相手の信頼を得るのは不可欠ですが、彼らは周囲の人たちを巻き込みながら、関係を構築することに非常に長けている。例えば医療機器の事例でお話ししたリサーチャーのような、同じ製品を違う視点で手掛ける人と一緒にデザインをすることで、さらに良いものが生み出せていると思います。「共創」することをポジティブに捉え、自分のクリエイションに反映できる人は、これからも求められていくはず。相手の話も聞きつつ自分の意思もしっかりと伝えられ、1+1を2ではなく3にも4にもできるような人が、これからも長く活躍していくのではないかと思います。
多摩美で得た可視化する力は、
すべての領域をつなぐ翻訳作業
関 尚弘さん
1997年|プロダクトデザイン卒
キヤノン株式会社
総合デザインセンター
室長
デザイン部門の室長としてオフィスに置かれる複合機から、印刷工場で使用される巨大な印刷機まで多岐にわたるプリンティング製品のデザインに携わっています。自分の背丈よりも大きな機器をデザインする場合には、製品の完成度を高めるために初期段階から仮想現実空間を活用したデザイン検討を行うなど、最新のプロダクトデザインのワークスタイルは私の学生時代の頃からは想像もつかないような変貌を遂げています。
私は小学生時代にルイジ・コラー二氏がデザインしたミニカーに魅せられ、プロダクトデザイナーを志しました。インターネットも無かった時代なので、自分で一つひとつ調べながらの受験を経て念願の多摩美に入学することができました。目的を持たずに別の大学へ進学した友人には、「早くからやりたいことが自分でわかっていていいなあ」とうらやましがられたことを覚えています。卒業後、いったんはデザイン会社に就職しましたが、世界に出たいという思いが拭えずロンドンの美術大学院に留学し、卒業後に現地で就職してデザイナー経験を積んで、今に至ります。留学中は海外の学生のアグレッシブさに多くの刺激を得ました。
多摩美時代、「A先生には絶賛されたが、B先生には酷評された」といったことが日常的にありました。一見戸惑いますが、世の中においては当たり前のこと。何に対し評価されているのかをよく突き詰め、自分の意図を伝えきれているか、次に進むにはどうするのか、それらを考えることが重要なのです。多摩美では表現力に加え論理的な思考力、伝えることの重要性、そして徹底的に考えて自ら答えを出すことを学びました。海外や多岐に渡る専門分野との共同プロジェクトを遂行するたびに、可視化する力はすべての領域をつなぐ翻訳作業だと実感しています。これから多摩美で学ぶ皆さんは、答えはひとつではない世の中で、何を選択しどう答えを導き出すか自分なりのスタイルを見つけてほしいと思います。
根気強く作り込む姿勢が、
入社後の「精緻なものづくり」につながった
松木愛華さん
2014年|グラフィックデザイン卒
キヤノン株式会社
総合デザインセンター
パッケージやロゴマークのデザイン業務を経て、2018年からCGを用いた新製品のプロモーション映像などを手掛けています。多彩な経歴やスキルを持つメンバーによるチームで、アナウンスフォトと呼ばれる3DCGの製品画像や動画制作、2Dのモーショングラフィック、最近では映像のプランニングなども担当しています。社内の事業担当者と話し合いを重ね、協力してコンテンツを作っていきます。チームで動くことが多いので、プロジェクトごとに役割が変わり、ディレクター、CGデザイナー、プランナー、プロダクションマネージャーなど自分のスキルを増やしながら柔軟に取り組んでいます。また、グラフィックデザインスキルを活かして制作したカメラやプリンターの映像が目に留まったことで、Adobe blogの取材を受け、チームの活動や自身のキャリアを紹介する機会にも恵まれました。
大学3年生の時、先生に「これだけは誰にも負けないというものを見つけ、それを形にしてから持ってきなさい」と言われました。50〜60人いる優秀な学生たちの中でそれを見つけるのは本当に難題です。でも、学生時代はトライアンドエラーを重ねる時間はありましたので、とにかく自分と向き合い、「これだけは」を見つけることができました。私は人よりも緻密なものや造形を作り込む作業が得意だと気付き、それを追求し自分の強みとして形にすることができたのです。このように自分の強みや弱みを理解し、洗練させることができたのは、多摩美で得た一番の力です。他にも、情報集約のさせ方、視点、優先順位、アウトプットの手法や伝え方など、仕事のふとした瞬間に多摩美で学んだことや先生方の言葉を思い出します。
就活を始めた時は代理店や制作会社を考えていましたが、先生の勧めで参加した当社の説明会で、多摩美OBの方のお話がとても魅力的に感じられて心が決まりました。キヤノンでは「精緻なものづくり」という姿勢を大切にしているのですが、根気強く作り込む姿勢は、多摩美で培い得意とするところです。後から習得できるスキルと違って、描く力や観察力、表現力といった基礎力は、それに没入する時間がある学生時代でしか得られません。私はそうした環境と先生方の教えの中から、基礎力をつけ、自分の支柱を見つけることができました。ぜひ後輩の皆さんにも、そういった支柱となるものを見つけてほしいですね。
コンセプト重視の課題のおかげで、
入社1年目から積極的にアイデアを出せた
大野真由さん
2016年|情報デザイン卒
キヤノン株式会社
総合デザインセンター
お客様にキヤノン製品を便利に楽しく使っていただく「体験」を提供するデザイン設計と、そのタッチポイントとなるUIデザインを担当する部署で、「担当製品とお客様を幸せにする」をモットーにカメラやプリンターなどのUX・UIのデザインを行っています。2021年に発売された自動撮影カメラ「PowerShot PICK」は、カメラに操作画面がなくアプリからすべての操作をします。専属カメラマンがいるような体験を創出するために、アプリにキャラクター化した製品が登場します。ユーザーと楽しくコミュニケーションできるようにキャラクターやモーションのデザインを担当しました。現在はオフィス向けのプリンターと家庭用のプリンターのUX・UIデザインを統一して、家でも職場でも同じ使い方ができるようなユーザー体験を目指して取り組んでいるところです。
どうデザインすればお客様に優れた体験を提供できるのか、操作しやすいか、見やすいのか。GUIデザインとして表現する際は、アイコンの配置や文字の大きさの1ドットにまでこだってデザインしています。また私も実際に製品が使われる現場に行って、操作性の検証や実ユーザーのニーズの調査を行っています。緻密なデザイン作業とフィールドワークからデザインコンセプトを創出する両輪がキヤノンデザインを支えています。
多摩美ではビッグデータを1枚の大きなポスターにしてビジュアル化するインフォグラフィックスを勉強していたので、UIデザインについては業務を通じて入社してから学びました。ただ、たくさんの情報をわかりやすいように1画面にまとめるという根本は同じですし、「人間中心設計」の考え方で課題に取り組んだこともアウトプットだけではなくコンセプトを考えることを重視するという点も、キヤノンの「お客様に寄り添ったデザインを考える」ということと共通しています。学生時代からの積み重ねがあったので、入社1年目から積極的に意見やアイデアを出すことができました。
それからゼミで培った「巻き込み力」も、今の仕事で大いに役立っています。基本的には個人での制作だったのですが、皆で作品を見せ合って、悩みを打ち明けながらブラッシュアップしていくなかで、「グラフィックならこの人」「プログラミングについてはこの人に聞こう」など、皆の得意分野を知っているからこその有益なコミュニケーションが取れるようになりました。今の仕事でも、より良い製品デザインを目指して、開発や営業、企画の方などとの連携を大事にしています。多摩美でコミュニケーション能力が磨かれたおかげで、会社に入ってからコミュニケーションで苦労したことは一度もありません。