企業の人事担当者・卒業生に聞く/建築・インテリア・ランドスケープ

多摩美の同級生二人で起業。国内外のブランドショップなど平面から空間設計までシームレスにデザイン

株式会社モーメント

写真左から卒業生の渡部智宏さん、平綿久晃さん。東京・港区の同社ミーティングスペースにて

ファッションブランドやレストランなどの店舗設計を中心に、グラフィック、パッケージ、ブランディング、プロダクト、インテリア、建築まで多岐にわたりデザインワークを展開。

http://www.moment-design.com/

2024年6月更新


平綿久晃さん
平綿久晃さん

1999年|建築卒 ※現・環境デザイン学科

株式会社モーメント
代表取締役

渡部智宏さん
渡部智宏さん

1999年|建築卒 ※現・環境デザイン学科

株式会社モーメント
代表取締役

(渡部)基本的にはグラフィックデザインと空間デザインの2軸を持ち味に会社を経営しています。二人とも多摩美の建築科(現 建築・環境デザイン学科)の出身ですが、いまの仕事はそれ以外のフィールドまで広がっています。

(平綿)例えば、最近手がけたパティスリーのPAYSAGE(東京・代官山)では、店舗ロゴ、お菓子のパッケージ、店員のユニフォーム、ショーケースの中の値札、そしてお店の内装など、当社で一気通貫したコンセプトでデザインを担当しました。同じアイデンティティをもって、平面から空間設計までシームレスに行うことで、クライアントにとってもお店に来るお客様にとっても、統一された世界観を提供できるよう心がけています。社内には空間設計をするメンバーもいればグラフィックデザインを行うメンバーもいて、隣合わせの席で仕事をしています。「こういうサインつけたいけど、どう思う?」など、日常的にリレーションが生まれているので、 ノイズやギャップのない空間設計が可能になっています。

学生時代から多数のコンペに応募し、やり切ったことが起業マインドにもつながった

(渡部)多摩美での学生時代に、いろんな視点を持つことや多様な価値観があることに気づけたことは、入学して良かったなあと思うことの一つです。同じキャンパス内に絵画や彫刻などに没頭する人がいて、そういう人たちと交わることで、自分にはない視座が持てたように思います。校内を歩いているだけで油絵具の独特の匂いを感じたり、立体の大きな作品が見られたり。

(平綿)社会に出れば、自分と違う価値観の人がいるのは当然なので、大学時代にそうした多様な人間に接することができ、感受性を養える気づきを経験として得られたのは大きかったですね。

(渡部)実は受験のとき、美術系の大学を受ける気はありませんでした。父が建築家だったので、自分も建築を学ぼうと思い、工学系の学部を受験するつもりだったからです。 あるとき雑誌を読んでいたら、美大の人が面白い建築を作っている住宅特集を見て、「面白そう!」と思って、多摩美を受けることに方向転換しました。当時はコルビュジエ も知らなかった(笑)。

※ル・コルビュジエ・・・ 20世紀を代表する近代建築理論家の巨匠

在学中の皆との議論も学びになりました。普通に工学部に入っていたら、数学や構造など建築の理論を学ぶことから入ると思います。でも、多摩美は1年生の時にリアルスケールのものを作ることから始まる。ダンボールで椅子を作ったり、光のインスタレーションを作ったり、座学ももちろん受けますが、体を使った課題も多くありました。

(平綿)僕らは2年生の時から「新建築」や「JID(株式会社日本環境設計)」などの学生公募コンペにも参加していました。「やろう、やろう」と口で言う人は多かったけど、実際にかたちにしてコンペに提出するのは大変なこと。そんなときに「提出」というゴールまでやり通す人が渡部でしたね。最後まであきらめないで、やり切る。これが起業マインドにもつながっていると思います。頭だけじゃなくて、手を動かす。「とりあえずやってみよう」の精神です。自分がいいと思うものを世の中に出すためには、自分で作るしかない。

教授の話で、住む人・使う人にとって最高な場所を生み出すことの大切さに気づく

(渡部)起業する前、社会人になってからも、常に自分たちの腕を試したくて、仕事が終わった後や休日に2人で集まって作品を作ったり、それぞれの所属会社の了解を得たうえで、方々に提案を持ちかけたりしていました。配って回る名刺も、そのときから「モーメント」として作っていましたね。  

(平綿)当時、あるコーヒーショップの空間設計を手がけることになったのですが、多摩美時代に教授が話してくれたエピソードがデザインのヒントになりました。北向きの部屋は日が入りづらく、一般的にネガティブな印象を持たれますが、その教授は母親の家の改修にあたり、あえて北向きの部屋を居間にしたんです。すると、庭に植えたたくさんの花が南向き になって、縁側に座る母親のほうを向いてくれる。そこで過ごす人にとっての最高な場所を生み出すことの大切さに気づかされ、「建築って奥が深いな」とあらためて思いました。

(渡部)僕たちの仕事は依頼を受けた空間やグラフィックが完成して引き渡したら終わりではなく、その先のストーリーまで追いかけます。5年後、10年後にお店を訪ねて「すごく大切にしてくださっている」「想像していた以上に魅力的に使ってくれているな」というのが感じられると、この仕事をしていてよかったと実感しますね。

三宅一生さんの服作りについて丁寧に解析し、そこからの着想で「ISSEY MIYAKE」のための店舗設計をする

(平綿)「ISSEY MIYAKE」の店舗設計は、モーメントにおける道標となっている仕事といえるかもしれません。もともと新卒で入社した会社でも担当させていただいていたのですが、モーメントを立ち上げて1年半経った後、「お店のイメージを変えたい」とご依頼をいただきました。ところが、先方から店舗設計へのリクエストは一切なく。店舗作りの基準やコンセプトをどうするか、僕たちは多摩美の大先輩でもある三宅一生さんの服作りについて丁寧に解析し、そこから着想を得て「ISSEY MIYAKE」のための店舗設計をしました。その仕事を評価いただき、その後もコンスタントにご依頼をいただけるようになりました。

クリエイティブとは何かといったら、つまるところは「洞察力」だと思うんです。対象となる店舗やデザイン、そして依頼いただくクライアントに対して、いま何が起きているのかを冷静に見られるか。相手がいる仕事である以上、ときには自分のアイデアや価値観を一時的に抑えないといけないこともあります。逆に、抑えた方がうまくいくこともあります。そうして洞察していくことで、課題や違和感が浮き彫りになり、それを乗り越えるためにデザインを駆使していくわけです。

(渡部)クリエイティブを磨くには、好奇心を持ち続けること。これは何も仕事のときだけに限りません。例えば、町の中を歩いているときも、僕は割とキョロキョロしながら歩いているので、いろんなところにぶつかります(笑)。道路標識でも縁石でも「どうしてこの高さなのか?」「なぜ、この大きさなのか?」と考えていくわけです。どんな物も「誰かが決めている」わけで、世の中にある物はすべてデザインされているからです。いろんなことに好奇心をもってやっていくと、どこかで何かにつながっていく。

「僕は建築だけ」「私はインテリアだけ」なんてもったいない。好奇心をもって首を突っ込んでいくと、思わぬところでつながっていき、学びも広がります。そういう意味では、多摩美での4年間は、好奇心も洞察力もゴロゴロ転がっていた貴重な時間でした。世の中に出て、常に問いを立てながら考える。そうして「あれはこれとこうやってつながるのか」と実感したとき、大学で学んだ経験がパズルのようにはまっていく瞬間が訪れるのだと思うんです。

ISSEY MIYAKE(韓国・ソウル)