多摩美生が持つ「傾聴」「協調」の姿勢は、公共メディアのクリエイティブには必要不可欠
NHK(日本放送協会)
公共放送事業体。全国にあまねく放送を普及させ、豊かで良い番組による放送サービスを行うことなどを目的に設立。国内のテレビ・ラジオ放送のほか、国際放送を行う。
https://www.nhk.or.jp/
2024年6月更新
NHK自体のブランディングや経営広報、SDGsなど、
さまざまなフィールドでの活躍を期待
深尾高行さん
NHK
デザインセンター
映像デザイン部 チーフ・リード
第1制作センター 新領域
チーフ・プロデューサー
インターネットやデジタルメディアなど、IT技術の進化により情報の伝達手段や選択肢は増えるばかりです。フィルターバブルと称される状況下で、「公共メディア」としてのNHKの役割は、基本精神を維持しつつ変化に対応した質の高いコンテンツや価値あるサービスを提供することにあります。そうしたなかでデザイナーの役割も日々変化し、これまで以上にその重要性が高まっています。放送を介した従来の番組デザインにとどまらず、コミュニケーションデザインやUI/UXデザイン、近年の大河ドラマやNHKスペシャルなどの番組に見られる「インカメラVFX」という3DCGを用いた高度な撮影技術、メタバース・VRなど新たなプラットフォームで使用する空間デザインなど、多岐に渡る業務を担っています。
現在、NHKの映像デザイン部には約50名の職員が在籍し、そのうちの約10名が多摩美の卒業生です。多摩美生に共通して感じるのは、「傾聴力」や「協調性」の高さ。番組はじめコンテンツやサービスの制作現場ではチームで作り上げるのが基本なのですが、ディレクター含め個性の強いメンバーが集まり、それぞれの意見をぶつけ合うなかで、多摩美生の傾聴と協調の姿勢が、うまくチーム内のバランスを取ってくれていると感じています。ディレクターが番組制作を指揮して方向づけする一方、デザイナーは番組のコンセプトやプランをビジュアルを介してメンバーと共有するという役割に優れている。公共的価値をもったコンテンツやサービスのクリエイティブには、まさに必要不可欠な能力です。
また、方向性が見えてからの「推進力」や「統率力」も高い印象を受けます。スケジューリングや必要な事項を共有するなどして、チームを先導する能力に長けている。どちらも大学でのプロジェクト型の授業などの賜物なのかもしませんね。番組の制作現場を中心に、視聴者とのコミュニケーションはもちろん、NHK自体のブランディングや経営広報、SDGsなど、さまざまなフィールドでの活躍を期待しています。
番組の美術デザインにとどまらず、
環境問題への取り組みからワークショップの実施まで幅広く活動
清 絵里子さん
2007年|環境デザイン卒
NHK
デザインセンター
映像デザイン部 チーフ・リード
デザイナーとして入局し2024年で18年目を迎えました。近年、担当した主な番組は、出演者の多様性をアパートの部屋で表現した「阿佐ヶ谷アパートメント」、幼児に向けた教育番組「いないいないばあっ!」などです。日々の業務では、環境にやさしい素材を採用したり、廃棄量が少なくなる仕様を心がけたりと、NHKの美術は今後どうあるべきかを考えながら臨んでいます。
2022年に、テレビセットの廃材を利用して、子どもたちにアップサイクルを学んでもらう「テレビのカケラでなにつくる?」というワークショップを企画しました。開始から約2年で全国20か所ほどで開催。お子様のいらっしゃるご家族を中心に参加された多くの方々に喜んでいただいています。
2023年から管理職となり、統括業務やデザイナーの労務管理、全国の放送局の広報を支援するプロジェクトなどを担当しています。また、現在5歳の娘の子育て真っ最中です。このような公私の経験が活かされ、広い視野を持って人や組織を支える意識が高まりました。目まぐるしい毎日ではありますが、楽しく充実した日々を送っています。
幼少期からテレビっ子だった私は、この業界を目指して多摩美を志望しました。憧れのテレビ局で仕事ができるようになったのは、多摩美での学生生活や課題を通して得られたコミュニケーションとプレゼンテーションの力が影響していると感じています。
プロジェクトを進めるためには、相手の話に耳を傾け、自分のことを伝えながら信頼関係を築くことが大切です。また、相手を退屈させないよう、見せ方や話す順番、話し方などを工夫したプレゼンをすることで、意見やアイデアの説得力が高まります。これらは就職活動時の採用面接を皮切りに数々の仕事で効果を発揮しました。
そして、多様な個性を持った多摩美の仲間とフォローし合いながら一つの作品を創り上げていく体験は、ディレクターやカメラマンなど数々の職種による番組制作において非常に役立ちました。また、班長や世話役としてマネジメントを担当したことが、現在の管理職という役割においても力となっています。あの頃、共に学んだ同級生たちは現在、国内外で賞を取るなど華やかに活躍しています。卒業後もお互いに刺激を受けながら切磋琢磨できる関係が得られたのも、多摩美だからこそだと思います。
今の目標は、「子どもと環境に優しいデザイナー」です。NHKの番組やサービスを通じて、視聴者に喜ばれ周囲の方々から頼りにされる人物になっていきたいと思いながら、これからも精進していきたいです。