企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

デザイナーが開発の初期段階から関わり、チーム内のアイデアを結集してデザインに落とし込む

株式会社本田技術研究所 デザインセンター

写真左から卒業生の岩崎麻里子さん、佐々木敦さん。埼玉県和光市の同社デザインセンターにて

ホンダの研究開発機関。四輪・二輪・パワープロダクツなどの技術・商品の研究開発を行う。デザインセンターでは「人生を楽しく、生活を豊かに」の志を胸に、“コト・モノ”を通して、お客様の生活を豊かにするデザインの創出を担う。
https://global.honda/jp/RandD/

2024年6月更新


描いた絵が人の心を動かし、その想いが伝染し、自分の想像を超えることが起きるのが楽しい

岩崎麻里子さん
岩崎麻里子さん

2013年|プロダクトデザイン卒

株式会社本田技術研究所 デザインセンター
テクニカルデザインスタジオ
CMFデザイナー

ホンダのカーデザインは大きく4つの専門領域に分かれています。パッケージング、エクステリア(外装)、インテリア(内装)と、私が担当する、カラー(Color)・マテリアル(Material)・フィニッシュ(Finish)の頭文字をとった「CMF」と呼ばれる領域です。外装の色や内装の素材でクルマ一台分のコーディネーションをつくることに加え、バリエーションの展開を考えるのも重要な役割のひとつです。販売される地域や国によってニーズや嗜好性も変わってくるので、いろんなお客様に届けられる商品にすることがCMFの力の見せどころであり、面白いところだと思っています。

デザイナーが開発の初期段階から関わるのもホンダの特徴です。チームで話し合いを重ねてコンセプトが決まったら、各専門領域のデザイナーがそれを具現化していきます。実際に絵を描いたりモデルを作ったりして、皆のイメージを合わせながら完成形まで仕上げていくという流れです。直近では2024年春にマイナーチェンジした「VEZEL(ヴェゼル)」に携わりました。開発期間はコロナ禍の真っ只中だったので、このクルマがデビューするころには「好きなときに、好きな人と、好きなところに行ける暮らしが戻ってきてほしい。そんな時に、新しい自分や景色に出会い、生活や人生の可能性を拡げてくれる。そんな一歩を気軽に踏み出すきっかけになるクルマをつくりたい。」と思いながら、チーム内のアイデアを結集してデザインに落とし込みました。

「クルマ」という商品を皆で作ることにも楽しさを感じています。VEZELの開発のときに、最初に出した絵を見たメンバーが「なにこれ面白い!これやろう!」と言ってくれて、私に代わってどんどん仲間を増やしてくれたんです。1枚の絵を見た誰かの心が動いて、その想いが伝染し、それぞれのエキスパートたちが良い商品をつくるために工夫を凝らし、ひとつのかたちになる。すごくスケール感のある仕事で、多くの人が関わることで自分の想像を超えることが起きるのが楽しいですね。お客様にダイレクトにアプローチできない仕事だからこそ、開発や販売に関わる人たちに「このクルマつくりたいね、この商品をお客さんに届けたいね。」と思ってもらえるようなコンセプトや表現を出していくということを心がけています。

こうした思いの原点は多摩美での学生時代にあります。当時私が最も力を入れていたのが「グッドデザイン賞」のイベントに出展するプロジェクトだったのですが、1年生から3年生の有志が集まるなかで、相手の意見を聞いたり自分の思いを伝えたり、難しさも感じつつとても楽しかったことが今の仕事につながっています。プロダクトデザイン専攻のチームワークの良さだったり、年齢や立場に関係なく自分の意見を言える雰囲気は、ホンダのデザインセンターとよく似ています。ホンダのカーデザイナーだった岩倉信弥先生(現 本学名誉教授)が2001年に学科長に就任され、ホンダで培ったことを多摩美の教育現場に落とし込まれたことが受け継がれているのかなと思います。

ホンダのデザイナーが授業に来てくれて、ものづくりの考え方を教えてもらったことも大きかったです。そこからまっすぐホンダを目指し、思いがかなって入社してからも、多摩美時代と変わらないスタンスで働けているのは、多摩美がいろんな価値観の人と出会える恵まれた環境だったからだと思います。後輩の皆さんにもその環境を十分に生かして、自分が「面白い」と思うことを大事に、表現し続けてほしいと思っています。


教授や他の学生たちと日々鍛錬しながら
「クルマの美しいかたち」を追求できた

佐々木 敦さん
佐々木 敦さん

2018年|プロダクトデザイン卒

株式会社本田技術研究所 デザインセンター
プロダクトデザインスタジオ
デザイナー

クルマのエクステリア(外装)のスタイリングデザインを担当しています。ボディをはじめフロントグリル、バンパー、ミラーなど、目に見えるパーツをデザインするのが仕事です。直近ではジャパンモビリティショー2023に出品した電動スペシャリティスポーツモデル「PRELUDE Concept(プレリュード コンセプト)」に携わり、「どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめき」というコンセプトを表現するデザインを描いて提案しました。自分が「こういう感じのクルマが良いのではないか」と考えて出した回答を世の中に提示できること、それを達成するためにはどのような表現が適切か日々模索することに大きなやりがいを感じています。「こんな人に乗ってほしい」とか「こんな風に走ってほしい」など、自分がイメージしていたものにピタッとはまったときは、すごくうれしいなと思ったりしますね。

物心がつく前からずっとクルマの絵を描き続けていました。周囲から見ると努力のように見えたかもしれませんが、ただただ楽しかったんです。学生時代も一晩中、寝る間も惜しんでクルマの絵を描いていましたね。カーデザイン、特に外装のスタイリングは専門的で、あまり世の中に知識として出回っていないので、多摩美で教授や他の学生たちと日々鍛錬しながら「クルマの美しいかたち」を追求できたのは大きかったです。会社に入ってもそのまま生かせるような技術や知識を身につけることができました。コンセプトやストーリーを作り、ちゃんと「商品」として送り出すというプロダクトデザインをするうえで根本となる考え方を、入学当初からしっかりと教えてもらえたことも、多摩美で良かったなと思うことの一つです。

社会人になり、プロとして働くようになって、クルマに対する「カッコいい」の基準は大きく変わりました。単純な見た目だけではなく、ちゃんと人の気持ちや生活に寄り添ったデザインになっているものを「良いデザインだな、カッコいいな」と思うようになりました。開発メンバーの皆でいろいろと案を出し合ってデザインを決めるのですが、皆が「これ良いね!」と一致するのは、やっぱりそういった「理にかなっている絵」になりますね。これからもその時代の価値観や未来に対して自分が良いと思えるものを、ひたすら創っていきたいと思っています。