新しい案件やビジョンの考案に携わるとき、専門以外で学んだスキルも活用できている
株式会社日立製作所
データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進。DXを支援する「デジタルシステム&サービス」、エネルギーや鉄道で脱炭素社会の実現に貢献する「グリーンエナジー&モビリティ」、幅広い産業でプロダクトをデジタルでつなぎソリューションを提供する「コネクティブインダストリーズ」という3セクターの事業体制のもと、ITやOT、プロダクトを活用するLumadaソリューションを通じて社会の課題を解決する。
https://www.hitachi.co.jp/
2024年10月更新
柔軟な対応力と絵というアウトプット力を武器に
多岐にわたるデザインを担う
中島一州さん
株式会社日立製作所
研究開発グループ デザインセンタ
UXデザイン部 リーダ主任デザイナー
日立製作所には家電のイメージを持つ方が多いと思いますが、現在、ITやエネルギー、産業機器、公共交通システムなど、社会全体をサポートする事業に領域を広げています。デザイン部門はこれらほとんどの商品・サービス全般に関わっています。家電のプロダクトデザインから始まり、しだいに情報、サービスのデザインへと領域を広げてきました。デザインというと、UI UXデザイナーやプロダクトデザイナーが思い浮かぶかもしれませんが、扱う範囲やデザインの対象が広がるにつれ、さまざまな研究者や技術者が一緒になって、チームとしてデザインに取り組んでいるのが、現在のデザインセンタです。
デザインセンタの業務はとても幅が広く、それぞれが複数の仕事に関わっています。多くの多摩美卒業生が在籍していますが、彼らはこうした多岐にわたる仕事への柔軟性が高いと感じています。多摩美の教育の特徴は、1つの専門分野という軸を持ちながら、幅広く学んでいることです。学内でさまざまなデザインの領域や、それを学ぶ人たちと直接関わる機会が多いことが、この柔軟性につながっているのではないでしょうか。また、多摩美ではアートを追求するなかで、研究的態度も培われているように思います。
多摩美卒業生のひとりである安村くんは、ユーザーインターフェースのエキスパートですが、その軸をしっかり持った上で、新しいサービスをゼロから考えるプロジェクトに関わったり、お客様がこれから始める事業のリサーチに取り組んだりと、次々に領域を広げて活躍しています。彼は、そのデザインを研究に変え、高めていくことにも注力しています。また、伝わりにくい価値や概念などを絵にして表現できるので、チーム内で、あるいはお客様との意思疎通のために、大いに力になります。絵にしてアウトプットできる力は美大出身者の強みではないでしょうか。今後も、社会変化や会社での新たな業務に柔軟にマインドセットでき、絵というアウトプット力を持つ方たちが、デザイン部門で活躍することを期待しています。
多摩美の学びからつながる
人の気持ちに寄り添い行動を促すデザインの制作
安村透さん
2017年|大学院情報デザイン修了
株式会社日立製作所
研究開発グループ デザインセンタ
ストラテジックデザイン部 デザイナー
現在は、行動変容デザインのチームに所属しています。人の行動に着目して、人々がやりたいと思っていることを後押ししてあげる、そのUXのデザインに近い部分を担当しています。いま、メインで関わっているのが、社内HR(※)向けのアプリケーションの開発です。たとえば、従業員がPCを起動するとポップアップが表示され、「きちんと業務報告をしてください」などの内容を伝えるものですが、単純にポップアップをつくっているわけではありません。従業員にはさまざまな働き方のパターンがあり、それぞれの人に特質があります。その人に応じた内容を、補佐してほしいタイミングでポップアップし、効率よく仕事をしてもらうのが目的です。サポートすべき点や適切なタイミングは、直接のインタビューやアンケート、データ分析を通じて見つけ、アプリに反映させていくのです。このように、人の気持ちに寄り添って行動を促せるようにデザインし、効果の検証まで行い、学会発表もさせていただきました。
私は多摩美の情報デザインの中でも経験デザイン領域の出身ですが、この人々を中心に考えるという思考は、いまの仕事に直接活かせています。たとえば、今回のアプリ開発でも、どのようにアプローチすればいいのかリサーチを行い、試しにデザインをつくって反応を見ながら、適切なデザインを探っています。まさに大学3、4年から大学院を通じて学んできたことでした。
もちろん、社内向けの業務だけでなく、他社や自治体と連携した業務に携わることも多いです。医療と介護が連携しサービスを提供する地域包括ケアのソリューションにも関わりました。介護者向けの情報共有のプラットフォームを構築する上で、根幹となるサービスの将来像をつくりあげることに参画しています。
多摩美では情報デザインコースでも、プロダクトにも触れ、製品デザインをしたり、インタビューをしたりと幅広い授業がありました。新しい案件やビジョンの考案に携わるとき、専門以外で学んださまざまなスキルも活用できています。特に、ストーリーテリングの授業で、人の話を傾聴する大切さや、人の気持ちをつかむにはどうしたらよいかを学んだことは、いまもコアスキルとして役立っています。
私が大学説明会のとき、先生からかけていただいた言葉の受け売りですが、デザインだけを学ぶのでなく、映画や演劇、小説、街の中の様子などに幅広く興味を持ってみてください。そうしたこと全てがデザインにつながっているのだと、いま仕事をしているなかで実感しています。
※「HR(Human Resources)」
人的資源全般に関係する業務。人材を単なる労働力ではなく企業にとっての資産ととらえ、人の能力を引き出し、活用して、事業に貢献してもらうことを目指すのが主な目的です。