自分の芯を持ちながら、周囲の意見を柔軟に吸収し、新たな視点で考えられるマインドを持っている
セイコーエプソン株式会社

1942年創業の電気精密機器メーカー。時計部品の組立工場をルーツとし、本社を長野県諏訪市に、本店を東京都新宿区に置いています。現在は時計の製造で培われた「省・小・精」の技術をベースに、プリンター、プロジェクター、産業用ロボット、水晶・半導体等の製品をつくっています。
https://www.epson.jp/
2025年2月更新
柔軟にアンテナを張って、幅広いデザインに取り組むデザイナーに

下田脩平さん
セイコーエプソン株式会社
人事部
セイコーエプソンの製品で、みなさんが真っ先にイメージするのは、プリンターやプロジェクターだと思いますが、実は、非常に幅広く事業を展開しています。ロボットやウオッチもつくっていますし、完成品だけでなく、製品に組み込まれる半導体や水晶デバイスなどマイクロデバイスの製造も行なっています。創業の歴史をたどると、時計という非常に精密な機器の製造の中で、いかに無駄を省いて小型化し精度を高められるかという意思で技術を培ってきました。今もこの「省・小・精」の技術は我々の会社のベースにあります。
「ペーパーレスの時代で、プリンターの会社は大丈夫なの?」とよく質問されますが、我々の技術の強みは、紙以外のさまざまな媒体にデジタルデータを印刷できることです。代表的なものとしては、布に印刷する捺染機という専用のプリンターが挙げられますが、高い技術力でプリンターの用途を広げることで、「ペーパーレスすなわちプリンター不要」というイメージからの脱却をはかってきました。プリンターの技術を紙以外への印刷にも進化させたことによって産業向け用途が増え、会社としてもBtoBの領域にシフトしてきています。

現在、多摩美の卒業生は8名在籍し、プリンターやウオッチ、プロジェクターのデザインに携わっています。経験を積まれた社員では、経営戦略に関わっている方もいます。多摩美の卒業生には、自分の強みを生かしながらも、周りの意見や市場動向などを把握、吸収し、課題解決に向けてデザインの視点で取り組んでいる社員が多い印象を持っています。チームワークを発揮しながら取り組むことは、会社のキーワードでもあります。自分の芯はしっかり持ちつつも、他の人からの意見を踏まえながら、新たな視点で物事を考えられるマインドを持ち続けてほしいと思っています。
また、我々の会社は事業領域が広いので、1つの製品のデザインだけに携わり続けることは、あまりありません。それぞれの製品の利用用途、販売する地域などによって、求められるデザインの要素は変わってきますから、柔軟にアンテナを張って取り組む姿勢が大切です。デザインのスペシャリストとして、あるいはリーダーシップを発揮してマネジメントに携わるなど、それぞれの方が志向や個性を生かしたキャリアを積んでいくことを期待しています。
それぞれのゴールに向けて仲間とともに取り組んだことは、今の仕事に通じる貴重な経験だった

神長聡さん
2016年|プロダクトデザイン卒
セイコーエプソン株式会社
Pデザイン部
入社以来、広範囲のプリンターのデサインに携わり、現在は、産業系大判プリンターのデザインを担当しています。僕はもともと、ものづくりにすごく興味があり、特にプリンターは身近な存在でした。プリンターは、デジタルに存在する色や形を、手触りのある現実にアウトソーシングする道具である点に魅力を感じています。プリンターには多くのジャンルがあり、お客様も用途も操作方法も全く違います。効率を重視しなければならないし、利便性や安全性の確保も重要です。そうした複雑な条件を1つ1つ方向づけし、お客様か使いやすい製品をつくっていくことにやりがいを感じます。
最近、発表された産業用大判プリンターのデサインには、入社4年目から携わりました。印刷を行う作業場の環境をよりきれいで働きやすい環境にできないかと考えてデサインしたものです。当初は産業用プリンターを使ったこともありませんでしたが、製品やお客様への理解がないと細かな部分に配慮した良いデサインはできないと考えました。そこで、1、2年の間かなり勉強して、自社の産業用の様々なジャンルのプリンターをほとんど全て、自分でも使えるようになりました。そういう努力を続けながら、4年間携わって完成したこの製品には、とても思い入れがあります。

業務用のラベルプリンターを担当した時には、サンプルを印刷する中で、粘着性の強いラベルが本体外装に貼りついてしまう課題に気づき、解決にあたりました。ラベルの貼り付きを防止する特殊な加工を施したシート材を外装に採用し、さらにそのシート材に意匠性を与えることで、デサイン性と機能性を兼ね備えた製品を実現しました。結果的IFデサイン賞やレッド・ドット賞など海外のデサイン賞を受賞でき、自身のデザインを世の中にも認めて頂けた、とてもうれしい経験てした。
デサイナーはデサインだけすればいいのではなく、企画や設計など多くの部門がそれそれの視点で関わっている中で、良いものをつくっていかなければなりません。多摩美では、グループワークや学年全体での行事の中で、今の仕事につながる良い経験をしました。尊敬できる友人たちと、時には意見が対立することもありましたが、それぞれが思い描くゴールに向けて共に切磋琢磨した日々は、設計や営業など様々な分野の方々と一緒に働く現在の環境と少し似ている部分もあると感じています。デサインやアートについて真剣に語り合える仲間を得て、濃厚な時間を過ごした学生時代は、僕の人生にとってかけがえのないものです。
多摩美時代の講義プリントや教授からの言葉が現状を打破する手がかりをくれる

菊地美紗妃さん
2020年|プロダクトデザイン卒
セイコーエプソン株式会社
WP事業戦略推進部
私の部署は主に腕時計のデザインを担当しており、現在はORIENT STARとORIENTというブランドの商品デザインを手掛けています。基本的に腕時計のデザインは、推進担当がひとりでデザインを考え、進めていきます。うれしくワクワクする反面、大変なこともありますが、先輩方に相談しながら、実践を通して学んでいます。
私たちの会社は「マニュファクチュール」、つまり自社で一貫して腕時計を生産する考えのもと、腕時計のムーブメント機構からケースや文字板、バンドなど腕時計に関わるすべてのデザインに携わることができます。お客様への商品提案から始める、いわば、0から1を生み出すことが求められ責任は重大ですが、その分大きなやりがいと魅力を感じます。

ORIENT STARの商品では60周年記念モデルとしてダイバーズウオッチのデザインを担当しました。ダイバーとしての機能性を考慮しつつ、限定モデルならではの特別感がしっかり伝わるように意識しました。腕時計は特にデザインが重要といわれる商品のため、実際に発売後販売営業からは好評だと聞き、いくつか時計雑誌にも掲載されたことは良い経験になりました。また、Moving Blueシリーズのモデルでは国内外で人気があり、実際に店頭や海外の展示会でお客様に褒めていただくこともありました。こうした自分のデザインに対するお客様の反応を直接感じることができるのも、大きなやりがいにつながっています。
学生時代では、元々メモを良く取るタイプだったのもあり講義や教授からのコメントをよくメモに残していました。先日、実家で荷物を整理していた際にそのメモ帳を見つけ改めて見返してみると、当時は重要だと感じなかったことが、今になって非常に意義深く思えたりして、面白い気づきを得ることができました。今でも時より業務で行き詰った時には、当時のノートやプリントを見返して勉強し直すこともあります。特に「概念を一旦忘れてみる」という教授からのアドバイスは、固定概念にとらわれがちな私に、新たな視点で考え直す姿勢を思い出させてくれました。
実際のデザイン業務の中では色んな視点を持って考えられる力、また人にわかりやすく伝えられる力が重要になります。多摩美には講演会やワークショップなど専門外の分野を学べる機会も多いため、視野を広げてさまざまなことに興味を持ちながら、ぜひ楽しんで学んでいってほしいと思います。