統合デザイン学科は、8月20日から22日の3日間、都内の中学生を対象としたサマースクールを開催しました。
同学科は、従来のデザイン領域の区分を取り払い、統合されたデザインを起点に社会や産業の複雑な問題に取り組む新しいデザイン教育の場として2014年に設立されました。今回のサマースクールはデザインやもの作りに関心を持つ中学生に、創造力を育むワークショップを通じて、デザインの楽しさや美術大学で学ぶことの魅力を体験してもらうことを目的としています。また、社会に新たな価値を生み出す力を養うことも目指しており、12名の中学生が参加しました。この取り組みは、これまで高校生を対象として実施してきたもので、本年度初めて中学生を対象に実施されました。
社会でのデザインプロセスを経験し、論理的思考力を磨くことを目的とした、3日間のデザイン探求プログラム
今年のワークショップ「新しい文章の読み方」では、はさみやスポンジ、ペットボトルなどの日用品を使って『新しい読み方』を創り出しました。
受講生は、かなづちで釘を打つ、はさみでモノを切るなどの「何気ない動作」のどこに着目し、どのように新しい文章の読み方のアイデアにジャンプするのかを丁寧に探ることから始めました。人間の行動や動作とものの構造、ものと人との関係性などをこれまでにない視点から細かく観察するという、普段とは違ったワークに戸惑いを覚えた受講生もいましたが統合デザイン学科の学生のサポートを受けながら熱心に取り組みました。
つぎに観察から気づいた道具と人間の動作の関係性を新しい文章の読み方に落とし込むプロトタイプ(試作)の制作を行いました。プロトタイプ制作の材料は厚さの異なる白い紙がメインです。受講生たちは新しい読み方を創り出すために、はさみ、メジャー、クリップなどの動きや構造を紙に置き換えるという制作に挑戦し、プレゼンテーションで披露するプレゼンボードや動画の制作も行いました。受講生たちは3日間をかけ、観察・試作・考察を繰り返して創造的なアイデアを探求して、最終的にそのプロセスと成果をプレゼンテーションしました。
3日間のワークショップを終えた受講生は「大学での授業は初めてだったので初めは緊張した。もっと座学が多いと思ったけれど、作る時間の方が多かったのに驚いたが、楽しかった」「大学の先生はもっと厳しいのかと思っていたが、みなさんとても優しかった。わからなかったり難しい所はサポートしてくれる大学生の方がアドバイスしてくれたので最後まで作ることが出来てよかった」と感想を寄せました。
統合デザイン学科が考える中学生対象のデザイン教育が示す新たな「美の探求」「創造性と可能性」
長崎綱雄学科長:
デザインは少し前は美術大学、一部の理系の大学で学ぶような少し特別なことでしたが、最近では理系、一般、多くの大学でもデザインについて広く学ぶことが出来ます。デザイン教育の一般化が進み、その裾野や解釈が広がりを見せる中で、「美」の探究や創出を基礎とする美術大学、私たち統合デザイン学科が目指すデザインの姿や考え方を高等教育以前の義務教育期間の子供たちの感性に触れてもらうこと、実際にデザインや創造の体験を提供することが大切なことであると考え、今年は初めて中学生を対象としたサマースクールとしました。いきいきとした最終日の講評会での作品発表は魅力的で、しっかりしていて頼もしく、参加者や私たちにとってもとても手応えのある充実した機会となりました。
菅俊一准教授:
これまでのサマースクールは高校生が対象になっていました。今回初めて中学生対象ということで私たちもどうなるかわからない未知な状態で実施したのですが、私たちの期待を大きく超えた素晴らしい視点とアイデアに溢れた発表となりました。このことは、私たちがこれまで研究・実践してきたデザイン教育を、今後中学生など(従来より低年齢の層)に向けて取り組んでいくことで、より多くの人々に創造性や美への新しいアプローチを提供することが可能であることを示しているのではないかと考えています。今後も継続して、統合デザイン学科では新しい教育の取り組みを実践し、社会に還元していくことを目指していきます。