小さな街で起きる大きな事件

石井 祐里佳

作者によるコメント

この街は一見、それぞれ穏やかに過ごしているように見える。しかし、カメラを通して見た街は血まみれの恐ろしい街となっている。どちらが本当の街なのだろうか。近年、撮影することが行動の目的となることが多くなっている。カメラの枠に収められた世界ではなく、その場所にいる自分だから出来る体験や自分の目で感じたことを大切にしてほしいと思う。

担当教員によるコメント

日本の郊外都市ならどこにでもありそうな、戸建住宅の町。平穏無事に見える家並みだが、カメラが覗けば映し出されるのは事件、事件、事件。ヒッチコック流のブラックユーモアを彷彿とさせる、絶妙な仕掛けに舌を巻く。傑作『裏窓』では、アパートの住人の生態を、動けない主人公が望遠レンズで覗く設定だが、ここではゆっくり走る郊外電車そのものがカメラになっている。すべての移動体がカメラになり、それが社会全体を覗いているという超監視社会の到来を予言しているかのようだ。同時に、これは隣家で何が起きてもわからない、超無関心社会の模型でもある。おもちゃの町で遊んだ幼年時代のノスタルジーをうまく横滑りさせて、誰もが心にもっているディストピアへの不安をあぶり出す、批評的かつクールな感性。この才能は本物だ。

教授・港 千尋