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柴田 真歩

作者によるコメント

この作品は実際のニュースをロトスコープし、文節ごとに切り離した上で、リアルタイムにランダムに並べ替え新たなニュースを再構成するという映像インスタレーションである。「自身の目の前で起こっていない」出来事を伝えるニュースは正しいのだろうか。逆に、ニュースを自分勝手に編集したものは正しくないのだろうか。私たちは、自分の知覚外で起きた事件を自分の感覚を通して得ることができない。「自身の目の前で起こっていない」情報を伝えるニュースを信じることは、この作品を信じることと似た意味を持つのではないだろうか。

担当教員によるコメント

ポストインターネット時代とオンライン広告の象徴であるフェイク・ニュースは、SNSが産んだ分断と不寛容の社会を加速する。この作品は、普通の人であれば、日々疑問を持たざるを得ない、テレビのニュースの輪郭を手書きでトレースすることで、空気以上に希薄化し、意味のなくなった今日のニュースを視覚的に体現する。もはや、現実は輪郭以下のものであり、その輪郭でさえ、ふわふわくるくると浮遊し消滅していく。さらに作者は、そうした消滅間際の真実を、コンピュータのアルゴリズムというもう一つの時代の象徴によって再構築し、フェイクのキメラを作り出す。マイナス掛けるマイナスがプラスになるように、このコンピュータが再構築したキメラフェイクニュースの方がリアリティーを持ち得るとすれば、それこそがこの作者が意図していたことだ。

教授・久保田 晃弘