捨象

石井 藍子

担当教員によるコメント

「面影」とは美しい響きである。しかし石井藍子にとって、ある衝撃を伴った経験が記憶に残っているという。その折の面影が、その後の彼女の振る舞いに大きな影響を与えたようだ。衣服を身に付けていない肌、他者から向けられた視線への忌避である。しかしこのことを表現の動機とし、人の存在の不確かさ、気配を感じさせる仕事として現れている。緩やかな曲線を持つ人型は、一つ一つ丹念に仕上げられた陶片で覆われている。おぼろげなシルエットと肌の質は、アノニマスではなく、彼女自身であると同時に彼女に視線を向ける者でもある。彼女が作り出したものは、見られる者と、見る者が交錯反転する「境界」である。目にした者は、瞬時に鑑賞者から見られる者へと変容される希有な仕事である。

教授・井上 雅之