inside-forever--

鈴木 梨乃花

担当教員によるコメント

3mを超す目のない巨大な怪物は口を広げて鑑賞者を覗き込む。繰り返すがこの生物は目を持っていない。作者はこの生物の向かいに同じ色のクッションを配置している。鑑賞者の一人は、作品を見上げる形でクッションに座り対峙する様に仕向けられている。その大きく開いた口腔に飲み込まれるか、それとも説教を聞かされるのか。その生物の背面には傷跡が痛々しくもぱっくりと開く。どうやら作者にとって彼(もしくは彼女)はもう一人の自分らしい。それまでどうしても受け入れられず、大嫌いだった自己の中に渦巻く欲望、不満、時に辛辣で、時に道化の様な自分の内面を表すために、このドロドロと溶け出す造形物を作った。自己の内面から漏れ出る醜悪な流言を憎み、シニカルに批評しつつも、その滑稽さを愛すべく存在へと変換する。また、クッションに座り怪物に飲み込まれそうになって対峙する鑑賞者という構図も、作者の葛藤から生まれた必然的な光景であるならば、その光景こそが作者の作り出した作品と呼べるのではないだろうか。『「自己を観察する自己」を観察する作者の目』の存在があってこそ、この光景がやっと作品になり得たと言って良いだろう。あくまでも内省的なテーマに踏み留まる様ではあるが、それがあれだけの大きさに肥大化し、無視できない様相を呈した事を考えると、ただひたすら己の中に目を向け続ける事さえも、社会に対する批評と成り代るのではないかと、小さな希望を抱いた。

講師・中谷 ミチコ

  • 作品名
    inside-forever--
  • 作家名
    鈴木 梨乃花
  • 作品情報
    技法・素材:発泡スチロール、石粉粘土、ペンキ、アクリル絵具、黄色いクッション
    サイズ:H250×W150×D150cm
  • 学科・専攻・コース