Utakata

氏家 実咲

作者によるコメント

シャボン玉の儚く美しい魅力を共有するためのインスタレーション。

細い真鍮の先からシャボン玉がゆっくりと膨らみ出し、やがて自重により落下する。
落下したシャボン玉は水面を漂い、シャボン玉の膜が薄くなると同時に虹色の光の干渉が発生し、まもなく割れていく。
その破裂は水面に影響を及ぼし、水面を映し出す周囲の空間に、その時生まれ落ちたシャボン玉のみが作り出すことのできる、無二無三の表情の変化をもたらす。

誰もが見たことのあるものを使い、今までと別の視点からそのものを捉えた事による美しさの再発見と、新たなインスピレーションの創出を鑑賞者の心に促す作品を目指し、制作した。

担当教員によるコメント

泡の発生から消滅するまでの刹那な時間を経験するための繊細な装置である。泡は、空気を包む水の表面張力によってつくられる「平衡」の象徴と捉えられる。ほどよい泡にたどりつくまでに、理科的な実験を幾度も繰り返し、時には、脱線し、迷走し、科学マジックのようなユニークな試みもあったが、最終的に空間表現に回帰し得たことは、本人の持つ創ることへの強い意志によるものだと思う。この作品は、「平衡」から、「而今」(じこん)を意識させるインスタレーションであると思う。変化する時間の中で、過去や未来に囚われずに、今に集中して、ただ精一杯生きようというメッセージを受け取ったのは、私だけではないだろう。

准教授・湯澤 幸子