Discomfort

松岡 琴美

作者によるコメント

この作品は現代の肖像画をイメージして制作した。一般的に肖像画はその人らしさを表現した絵画という意味が多い。ルネサンス期に描かれたよく目にする作品の表情は凛々しく薄く口角を上げたすまし顔。しかし実際はどうだろうか。
私は肖像画を写真と映像で表現している。写真は瞬間、映像は時間を切り取るもの。その両方を組み合わせ鑑賞した際に感じる違和感や不気味さを表現している。
写真によって切り取られた『綺麗なすまし顔』が、映像を重ねることによりふとした時に見えるズレによって違和感が生まれ、その人物の印象が変わっていく様を鑑賞する。

担当教員によるコメント

技術の変化とともに目まぐるしく変わる写真表現は、現在もっとも刺激的なフィールドであるが、本作は静止画と動画という区分けをそっと揺らす、実にスマートな作品である。一見するとスタジオポートレートなのだが、しばらく見ていると目が瞬いたり、身体が少し動いたりする。その時に不思議な残像が見える。というのもこの作品は、写真プリントの上に、同位置で撮影された動画がピッタリと重なるように投影されているからである。加えて、RGBを強調したようなビビッドな配色のせいで、人物の表情が強調されて、いわゆる赤青のメガネをかけてみる3D映画のようなポップなノスタルジーが漂う。夜の世界の色合いとも言えるが、決してキッチュに陥ることなく人物像の微妙な揺らぎを表現できているのは、作者の持ち味である上品なセンスによるのだろう。

教授・港 千尋