沈没と再見

堀井 野の花

作者によるコメント

人々の手で作られたものが崩壊する時、見えなくなるのは物質だけではない。人の記憶、社会の記憶、解釈や、その土地の記憶までもが同時に沈んでいく。そして、再び人々の前に姿を表す時には、現在の解釈が折り畳まれた状態で浮かび上がってくる。つまり、ものを復元する際には人の想像力で穴埋めする作業が必ず含まれており、そうして復元や崩壊を繰り返してきたものは、その時代に人々がそのものをどのように受容していたかを現在の我々に見せてくれる。あるものが作られた理由や手段、来歴をリサーチする際、現在の価値観に依拠した物質的な調査に偏重しがちになってしまうことに対して、この作品は制作という手法から思考を試みている。

グレート・ソルト・レイクには何が「沈没」しているのか、東京湾に沈んだ海堡は何を「再見」させたのか。

約1年半のフィールドワーク、リサーチ、制作を通して、人が何かを保存しようとする意味や、そのものがなぜ存在するべきなのか、アーカイブの手法、大規模な芸術作品の受容のされ方について、あらゆる分野を横断して思考を続けた。今作品は、その形跡を辿るようにして様々なメディアというフィルターを通し、展示という形式に書き出されたものだ。

担当教員によるコメント

ロバート・スミッソンによる「スパイラル・ジェッティ」と、戦時中に海上要塞として作られた人工島である「海堡」を取り上げ、それらに共通する「消える/現れる」という構造に着目して制作された作品だ。実際の海堡でのフィールドワーク、googleストリートビューを通じての調査、身の回りの素材と場所で行われたスパイラル・ジェッティの再制作、リサーチを元に執筆された小説など、多層的なリサーチと思索から構成されている。この作品は、人工的に作られた構造が風景の一部となり、風化や老朽化によっていったんは消え去り、再び発見されるというプロセスが中心として語られている。これは、人工物がもつ記憶のあり方とも言えるだろう。人工物の機能や、建造に携わった多くの人たち、社会の中での位置付けや、歴史の中での意味の変化など、多くの要素が複雑に作用し、個人や社会といった単位を超えて変化し続ける、ダイナミックな記憶のあり方が、この作品を通じて見えてくる。

講師・谷口 暁彦

作品動画

  • 作品名
    沈没と再見
  • 作家名
    堀井 野の花
  • 作品情報
    インスタレーション
    技法・素材:テキスト、映像、写真、3Dプリントされたオブジェクト、スクラップブック
    サイズ:H3000mm×W5000mm×D7000mm
  • 学科・専攻・コース