教場

伊藤 遥

作者によるコメント

新型コロナウイルスの流行により教育の現場が家庭になることで、子どもたちにより影響を与える「家庭の問題」をテーマに制作。
従来より子どもの環境はあくまで保護者に依存している。そのため、家庭に問題を抱えていたとしても子どもは保護者から離れることはできず、事態を解決することは大変困難である。
厚生労働省が発表した”昨年度18歳未満の子どもが親などの保護者から虐待を受けたとして全国で児童相談所が対応した件数”は19万3780件超であった。しかしそれはあくまで通告され対応した数である。実態としてはそれ以上あるだろう。学校の先生ですら見えていない問題がそこには存在する。
この作品が改めて、あなた自身の身の周りにいる子どもたちとその家庭にきちんと目を向ける良いきっかけとなりますように。

担当教員によるコメント

本作は家庭における子供の虐待という深刻な社会問題に、正面から向き合ったという点だけでなく、映像インスタレーションとしての工夫に満ちた、とても刺激的な作品である。学校側の机では、先生による授業が写し出されるが、いっぽう家庭側の勉強机には家庭内の音と虐待を受けている子供の声なき言葉が刻印されている。さらに勉強机にはそこに座った自分の顔や他の机で眺めている顔も映し出されて、実に奇妙な「リアルタイム」感が生じてくる。とりもなおさず、これはビデオ会議システムが蔓延した今日の状況だが、そのなかで大人からは見えない子供の虐待が続いているという、暴力の不可視性が示されているとも言える。什器とメディアを組み合わせ、それを批評に転換する力技を高く評価したい。

教授・港 千尋

  • 作品名
    教場
  • 作家名
    伊藤 遥
  • 作品情報
    インスタレーション
    技法・素材:プロジェクター、メディアプレイヤー、黒色無双(塗料)、MacBook Pro、その他
    サイズ:W5000×D3000×H3500mm
  • 学科・専攻・コース