稚魚をのせたさかな/さかさまのコチョウラン/かぼちゃのある静物
山口 彩紀
作者によるコメント
コロナ禍において去年の4月から5月にかけて大学が閉鎖していた期間、私は一人暮らしのアパートの中で静物画を描き始めました。狭い空間の中で長い時間モチーフと対峙することにより、ものの本質を探ろうとする意識や物事が変化していく様子を肌で感じるとこができ,普段何気なく使っている日用品や食べ物の存在感が変化していくようでした。卒業制作では、そのような自粛期間中に描いていた静物画をより展開させていこうと、モチーフに自身の記憶の中から溢れ出たものを重ね合わせたり、立体ドローイングを続けたりしたことで、自身の内面の無意識な部分を取り入れました。出来上がった立体物を目の前にし,心象的な視点を通して描くことで,内面に浮かぶイメージと現実世界の双方を行き来して,新たな世界を探っています。
担当教員によるコメント
不思議な絵だ。画家は物を見て描くのではない、物がみずから光を放ち始めるのだ、それを見続けるだけなのだと言わんばかりではないか。「わたしの実家の近所には川があり、そこには毎年秋になるとサクラマスが川をのぼってくる」。久しぶりに実家に帰った作者が見たのは、干された鮭がくるくると寒空を舞い、まるで空へのぼっていくかのような景色だった。東京に戻りすぐに作ったのがこの粘土の鮭だった。そして生きているのか死んでいるのかわからなかったあの鮭に、彼女は枕を作ってあげたのだという。この静物画は、ただの卓上の景色ではない。ロートレアモンの解剖台のような優しいまな板。その布の広がりはまるで雪のシーツ。そこでカボチャや桃も、静かに腐りはじめるのを画家は見続けていたのだ。
教授・石田 尚志
- 作品名稚魚をのせたさかな/さかさまのコチョウラン/かぼちゃのある静物
- 作家名山口 彩紀
- 作品情報素材・技法:キャンバス、油彩
サイズ:H194×W130.3cm、H162×W130.3cm、H130.3×W162cm - 学科・専攻・コース
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