みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその1/みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその2

江上 夏希

作者によるコメント

最初にビデオカメラを持ち出し、街を歩きながら動画を撮り出したのは、後で見返すとなんか面白かったという単純な理由からだった。
そこから、オタクゆえ常日頃アイドルのライブ動画を視聴していること、生活の中で集中力がふと切れた瞬間に視覚的な記憶が立ち現れること、表面的な情報のみをなぞるビデオ撮影の性質と自分が物や人に対し考えてきたことに通ずるものがあることなど、これまでの経験と動画を撮っているという行為に強い繋がりを感じ、自分と自分の目の前に広がる動画の海の関係性を示す代替案として今回このイメージを提示した。

担当教員によるコメント

卒業制作の2点の絵画は、一つの景色に複数の異なった景色が重ねて描かれている。その重ね方が独特で複雑なため、一見してその状況が掴めず、いくら見ても捉えきれない、そういう魅力がある。江上さんは日常的に数秒間の短い映像を撮り溜めており、そこから切り取ったイメージが画面の至るところに描き込まれている。独創的なのはそれらが画面上で平面的に構成されるのではなく、描かれている風景の起伏に沿って覆いかぶさるように、立体的に構成されている点だ。こうしてできあがった風景は現実を映像が侵食しているようで印象深い。画面は複雑に入り組んだ構造であるにもかかわらず、軽々とした手つきで描かれていて濁りがない。重ね塗りや描き直しの跡がなく、一層だけで描かれていることがタッチの際に残っている下地の白からわかる。薄い映像の膜で包まれた景色を絵具一層で描き上げる行為は、絵画の本質に迫った表現だと思う。

准教授・日野 之彦

  • 作品名
    みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその1/みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその2
  • 作家名
    江上 夏希
  • 作品情報
    『みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその1』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H112×W145.5cm

    『みるとみえないがみえる、みようとするとみえるがみえないその2』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H162×W260cm
  • 学科・専攻・コース