空の祭壇, たゆたう

加藤 麻梨華

作者によるコメント

感情が抑えきれない瞬間があります。器から溢れ出して色んなものにぶつかって流れていくかのような。私にとっての絵画はそういったものを昇華する唯一の手段です。好きな絵の具の色や膨らみ、そこにふさわしいかたちを見つけていく作業をしていると、私自身の穏やかな記憶や未来へのときめきで心が落ち着きます。
卒業制作の大きなテーマは「祈り」でした。生きていると本当に目に映るものが目紛しく変わっていって、時折全てを丁寧に見ることができなくなったりもします。そんな時、家族のことや周りの人々のこと、先のことや今あるものについて静かに祈ることのできる場があればいいなという願いを作品に込めて制作をしました。私にとってとても大切な作品になりましたが、見てくれた人にとっても何か意味のあるものになれば良いなと思います。

担当教員によるコメント

加藤の卒業制作は平面作品と祭壇のような形式の立体作品だ。平面の作品は複数枚を構成したもので、自然を彷彿とさせる伸びやかなストロークと淡い色彩で描いている。色彩の淡さと複数枚での構成は、光が混じり合い白くなるように、またさまざまなイメージと空間が過ぎゆく時間となって混ざり合った結果なのだろう。具体的な事物が見えないのは、変化してゆく存在をそれ自体として正直に描こうとしたのだと受け取れる。
加藤は以前から立体物にペイントを施すなど、絵画の可能性を広げる制作をしていたが、卒業制作のそれは絵画の持つ原初性に立ち返る制作になったといえよう。それは何か大切のものをそこに留めようとする心情、それができなければせめて記憶に留めようとする願いかも知れない。

教授・菊地 武彦

  • 作品名
    空の祭壇, たゆたう
  • 作家名
    加藤 麻梨華
  • 作品情報
    『空の祭壇』
    素材・技法:ミクストメディア
    サイズ:H90×W55×D55cm

    『たゆたう』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース