SCENE

正田 七恵

作者によるコメント

私は物語を考えながら描いています。
私の家は砂浜の近くにありますが、コロナ禍で外出自粛を呼びかける中、普段はほとんど人がいない砂浜には、多くの人が訪れていました。そこには見かけない痕跡がのこされており、この出来事の前後に興味を持ちました。
砂浜の足跡や、残された日用品、誰もいない風景を様々な視点で描いたものを一つの大地に見立て、そこに物語を生じさせるようなアプローチをしました。一つの物語ではなく、見る人によってたくさんの解釈を生む可能性のあるものが、物語を表現するにあたって大切なものだと考えています。
何かが成された後も物語は続いていることから、これらの作品を「痕跡から生まれる物語」と呼んでいます。

担当教員によるコメント

正田の作品は誰もいない。青い空と荒野、雲と何かの噴煙、岩場と湧き水、車輪の轍と捨て去られた蛍光灯などが、小さな画面に分割されて配置される。それらの画面はマンガのコマのように物語の関係性を作るが、求心的な意味があるわけでもない。1つ、1つの画面は、各モチーフを単純に描写し、それ自体で完結しながらも、別の画面へと繋がり始めていく。まるで目を瞑り、頭の中で回想するかのような体験でもあり、切断と連続で編集される映画のモンタージュを見るかのようでもある。鑑賞者は複数の画面を彷徨いながら、そこで「不在」を巡る様々な物語を紡いでいくのである。1点物の作品ではなく、複数のショットでなる映画のような絵画。新しい形式への更なる挑戦を今後も期待したい。

教授・大島 成己