時間の共存

LEE Haeun

作者によるコメント

私は、遺跡や遺物を見ることに関心がある。なぜ自分が遺跡や遺物の古くて色が褪せた様が好きなのか、それはどのような意味を持つのか考えた。
遺跡は過去の痕跡がある場所として現在に存在し、見ることができる。今の時間と昔の時間が共存する時間と空間の痕跡である。
時間は流動的なもので、記憶に残る時にぼやけていきながらもはっきりと記録される。過去と現在の時間のつながりについて表現したいと考え、
旅行で撮影した遺跡や遺物の写真をもとに薄れた記憶を滲み染で、刻まれた時間の跡を型染技法で表現した。

担当教員によるコメント

日本においての「染」は、芸術的・絵画的表現への道が切り開かれたことで、世界に類を見ない独特な発展を遂げている。母国で絵画を学んだというバックグラウンドと日本の絵画表現としての染色文化が見事に融合したことから生まれた化学反応は、自在にコントロールするまでに膨大な実験と経験を要した。私には、イ ハウンという人間のみが知りえた見えない世界を視覚化するための探求の時間こそが、この「時間の共存」という作品そのもののように思えてならない。「今の時間と昔の時間が共存する時間と空間の痕跡」とご本人が述べている通りに、どこまでも深くどこまでも広く続いている世界を見事に染で表現しきったことで、鑑賞者にいつまでもここに佇んでいたいと思わせるほどの心地よい力強さを感じます。

教授・小林 るり