TAMABI NEWS 74号(上野毛キャンパス特集)|多摩美術大学
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 舞台芸術を学ぶ場は他にもありますが、演 者と美術家を⽬指す者が意⾒を交わしながら共に学ぶのは、まったく新しい試みです。劇場美術デザインコ ースで は、1 、2 年 次に空間デザインに必要な基礎的知識を徹底的に修得します。3 年次では舞台美術・映像美術・照明・⾐裳など、それぞれの志向に合わせた演習を履修し、演劇舞踊コースとの上演制作実習を⾏って実践⼒を⾝に付けます。私が専⾨とする「映像美術」では、美 術セットの⼒で観賞者の感情を揺さぶるような、⼈の⼼に刺さるもの が求められます。デザインの基礎に加え美術⼒や表現⼒がないと、その空間は薄っぺらいものになってしまいます。その⼒を総合的に養うのが劇場美術デザインコースです。 劇場美術デザインコースの⼤きな特⾊として、現場で学ぶ「体験型授業」があります。例えば劇場では、ゲネプロ(本番同様に⾏う総稽古)や観劇後のバックステージ⾒学。テレビや映画では、オープンセットの装飾の⼿伝いや、⼦供番組の美術デザイン提案から参加して、アイデ アが実際に番組内で使われたこともあります。プロの仕事を間近で⾒ながら、楽しさや厳しさを肌で感じて学びます。また、課 題の題材には、実 際に上映されたドラマ や番組を⽤いることもあります。「プロはこういう発想をしたが、⾃分とはどこが違うか」と同じ⽬線で⽐較検証するなど、より実践⼒を⾼めるのです。映像美術は、演 出 家としての視点も必演劇舞踊デザイン学科/劇場美術デザインコース ⼭下恒彦教授インタビュー演者と美術家が意⾒を交わしながら共に学ぶという、まったく新しい 試 みテレビ局スタッフも語る「こんな 教 育 機 関を 待っていた」⼦規庵 スペシャルドラマ「坂の上の雲」スケッチ画と美術セット。正岡⼦規、終の棲家「⼦規庵」。晩年は病床で「⼩園」と呼ぶ庭の植物を⾒ながら句を詠んだり画を描いたりした。そんな庭をデザインの中⼼とした美術設計。要です。トーク番組も⾳楽番組もドラマも、⼈間がメイン。⾐裳やメイク、照 明をトー タル で考え、実際に撮影し、カット割りして編集するなどの演習からそれを学びます。基礎課程で⼒を付けた学⽣は、3 年 ⽣にもなると技術はもちろん、確 実に意識レベルがあがり、「プロ⽬線」が⾝に付きます。 この業界は、就職後数年かけて技術を覚えていくの が常道でしたが、当 学 科のように、現 場レベルでも実践し学べる学校は他にはないと思います。テレビ局スタッフからも「こんな教育機関を待っていた。いい⼈材が育つのを期待している」と⾔われています。現場では、即 戦 ⼒になるスキル、さらに表現⼒と創造⼒を持つ⼈材が強く求められているということです。我々教員は近い将来、教え⼦と現場で再会することを楽しみにしています。 劇場美術デザインに必要な素質は、何よりもまず美術デザインが好きであり、作 業を楽しめることです。また、共 同 作 業が多く、時には100 名以上のスタッフと現場を共にする世界ですから、⾼度なコミュニケ ー ション能⼒も求められます。ハードル が⾼いと思うかもしれませんが、「好きだ、将来これがやりたい」という強い気持ちがあれば、臆せずチャレンジしてほしいですね。 2017 年度から、⾃⼰推薦⽅式の推薦⼊学制度を取り⼊れました。情熱とやる気を持った、ユニークな個性の学⽣が集まり、今 後を期待しています。本気の思いがあるなら、仮に今、画⼒がなく躊躇している⼈がいても、あきらめずに劇場美術の世界をめざしてほしい。我々教員は、それを全⼒でサポートする⾃信があります。ドンと任せてください。必要なのは「好きだ」という強い気 持ち2016 年度課題作品「ひみつのアッコちゃん」 美術監督=前⽥巴那⼦ 3年前期、映像美術ゼミの学⽣が作品のプレゼンテーションを⾏い、コンペ形式で教員が最優秀作を選定して映像化した作品。セット製作だけでなく、特殊⼩道具、ポスターやグッズ等の制作も学⽣たちで⼿掛けた。⼭下恒彦(演劇舞踊デザイン学科教授) 1981 年、多摩美術⼤学デザイン科⽴体デザイン専攻インテリアデザイン専修卒業。1981 年、⽇本放送協会(NHK)デザインセンター⼊局。⼤河ドラマ「独眼⻯政宗」、「武⽥信⽞」、 「秀吉」、「新選組!」、朝ドラ「はね駒」、「京、ふたり」、「ちゅらさん」などを⼿掛ける。主な受賞歴に、1992 年「われら新⾳楽⼈」伊藤熹朔賞・新⼈賞、2012 年「坂の上の雲」MPTE AWARDS 美術賞、2013 年「負けて、勝つ」伊藤熹朔賞・本賞など。10鑑賞者の⼼を揺さぶる美術セットの⼒

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