TAMABI NEWS 77号(映像特集)|多摩美術大学
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5メッセージデジタルネイティブ、スマホネイティブと呼ばれる、物心ついたころからさまざまなメディアに囲まれたみなさんにとって映像メディアを扱うことは抵抗はないでしょう。ですが、普段に接しているマス映像メディアや多様な映像作品がそもそも成立している背景を分析し、根本的に問い直す視点が必要です。それは、受け手側では無く、作り手側になるわけですから、現在、地球上にどんな映像メディアを使った作品が注目されていて、自分の作品と関連する作品はどんなものがあるのか?どんな映像作品の歴史があったのか?など、その水平軸方向と垂直軸方向の思考の交差点に自分が立脚しながら、創作するのだという意識は持っておいたほうがいいでしょう。その意識を持った創作活動の中で、先駆的であり、見たこともない作品が生まれてくるのだろうと思います。メッセージ映像は、さまざまな情報を動きや変化によって伝える表現です。膨大な情報にあふれ、人間や環境といったさまざまな側面から問題を捉えなければならない現在の社会において、動きや変化をデザインする映像の考え方は、重要なリテラシーの一つになっています。一方で映像を取り巻く技術の進歩はめざましく、わずか1年で基盤となる技術が様変わりしてしまうほどです。このような状況において統合デザイン学科では、単なる制作技術ではなく、概念として映像を捉え教えています。いまも未来も変わらない普遍的な考え方を学び、新しい表現を社会に切り拓いていく人になってください。メッセージいま、■にはさまざまな映像があふれています。テレビはもちろん、YouTubeやtwitter、Instagram などの SNS、街頭のデジタルサイネージなど、至る所で映像を目にします。そうした映像は、常に経済的な価値と、集団の行動原理に基づいて生成され続けています。つまり、より多く、より広く、集団へと働きかける指向性です。そうした映像があふれる現在だからこそいま、逆に極めて個人的な表現が重要であるように思えてきます。私たちは、学校に通う学生であるとか、企業に勤める社会人であるといった集団である以前に、所属先や宛先のない、何者でもない個人であるはずです。そして、そうした何者でもない希薄な個人というのは、社会状況の大きな変化や、マスメディアの中ではいとも簡単に消え去ってしまいます。そうした変化の中で自分の身を守り、個としての危機を表明するためにも映像というメディアは重要に思えます。コンピューターやインターネットは、世界中のさまざまな人と情報を共有し、コミュニケーションできるメディアです。しかし同時に、ネットを介して様々なソフトウェア、プログラミングについて自分で学習し、一人で何でもできるメディアでもあります。つまりそこには、個人的な営みを可能にすることと、それをまだ見ぬ世界の誰かと共有できるという二つの可能性があるわけです。いまの時代において重要なことは、そうした個人的な営みから始まり、広い社会へともつながっていくような複数のスケールを横断すること、そうしたことを継続していくことだと思います。『擦れた音』16年卒 富樫佳奈さん 幼少期に体験した池袋の交差点を行き交う人の様子を再現した作品。池袋の街で観察した人々を3Dモデルにし、それらがさまざまなバリエーションで交差点を歩く様子をUnityというゲームエンジンを用いて制作。本来ゲームを制作するツールでも、こうした極めて個人的な体験の表現へと用いることに新しい可能性を感じる作品です。『xnnニュース』『擦れた音』両作品への評価両作品とも、単にプログラミングやCGが使えるといった技術的なことを超えて、プログラミングやCGを用いるということがコンセプトやテーマと深く結びついている例だと思います。メディア芸術コースではこうした社会へとつながる表現のあり方や、個人的でありながらも、その体験の深さゆえに新しい表現へとつながっていく思考を探究しています。左=シナリオデザイン課題2「悪夢を映像化する REMtv 制作」3年・新妻葵さん 誰もが記憶している、何度も思い返す忘れられない「悪夢」を本人がナレーションで語り、映像化。鳥頭男が自殺を迫ってくる、夢と現実の狭間を卓越したアニメーション演出力で無意識に潜む死の恐怖を描き出した。右=イメージラボI・II 『小さな街で起きる大きな事件』18年卒業制作石井祐里佳さん ゆっくり走る郊外電車そのものがカメラになっている。すべての移動体がカメラになり、それが社会全体を覗いているという超監視社会の到来を予言しているかのようだ。プロジェクションマッピングで学生が功績若手映像クリエイターの登竜門として、東京ビッグサイトの正面に3Dプロジェクションマッピングする国際的なコンテスト、「東京プロジェクションマッピングアワード」。寺井先生指導のもと、2016年3月VOL.0では「でんすけ28号、持田寛太チーム」が、VOL.1では「齊藤公太郎、柴田晨、山口新平、油原和記、高橋明裕、荒木久徳チーム」が優秀賞を獲得しています。 https://pmaward.jp/課題〈ありえない状況〉─「トマトの分解」2年・松尾しい菜 「『コマ撮り』の技術を用いて、トマトを右手で摘まむと、摘まんだところからミニトマトに分解されていくという『ありえない状況』を表現した」。本課題では、既に定着している表現方法のポテンシャルを見いだし工夫することで、どのように新しいコミュニケーションを作り出せるかということを重要視しています。この作品は指で接点を隠しながらミニトマトを挿入することで、「絞り出す」というありえない行為を、自然なものとして表現することに成功しています。課題〈新しい展覧会のデザイン〉─「光の質感を読み換える」4年・渡辺光さん「目の前の封筒に向かってカメラのシャッターを切ると、封筒の中身が「プロジェクション」によって可視化され、じわじわと消えていく」。最初からプロジェクションされているのではなく、「シャッターを切る」という行為を介して光を受容する体験をすることで、単なるカメラのフラッシュではない独特な光の質感を私たちは読み取ることができます。環境・体験・光の関係性が適切にデザインされていくことで、見慣れた物事にも新しい質感を見いだしてしまうのです。映像への入り口があります。そこに共通するのは、単に技術の修得だけを目的とするのではなく、作家としての着眼点や思考力を重視する学びへの考え方です。多摩美には、多岐にわたる映像分野の第一線で活躍する教員陣の下、基礎から本質、先進性まで学べる授業科目や、創作をサポートするメディアセンターなど、多くの表現へ の入り口への入り口

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