TAMABI NEWS 78号(ゲームクリエイター特集)|多摩美術大学
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私は京都出身なのですが、多摩美で学びながら企業のインターンなどに参加して実践の中でデザインを体得したいと考え、入学を機に上京しました。そこで、当時任天堂が週1で実施していたゲームセミナーに、大学1年生の時から参加しました(※現在は行われておりません)。その授業でゲームを作った経験が面白く、大学1年の6月ぐらいには志望先として決めちゃいました(笑)。多摩美では、1、2年生の基礎授業で行った、ひたすら絵を描き講評会で評価されるという修行のような2年間が大きかったですね。品質的に自分で納得いかない状態であっても2週間ペースで出さねばならない、量をこなさねばならないという繰り返しが、何より力になりました。でも練習は好きなので全然苦ではありませんでした。継続して描けばうまくなりますから、単純に楽しかったですね。授業課題以外はセミナーに打ち込む、ストイックな学生でした(笑)。入社後は『街へいこうよどうぶつの森』を担当し、虫と魚のデザイン制作を通してゲームに必要な様々な要素を学びました。その後『ゼルダの伝説 大地の汽笛』で、メニューやアイコン部分のデザインを担当。自分の担当領域以外にも汽車などのアイデアを提案し、採用してもらいました。『スプラトゥーン』もそうなのですが、当社は職種に関わらず随時いろんな人からアイデアを募集しているので、僕はどんどん描いて提案するというスタイルで今に至っています。現在は『スプラトゥーン2』のディレクターを担当しています。イラストレーションやコンセプトアートを描いたり、その世界観やルールを決めるなど、チームメンバーが良いと思う提案をラインを守って決めていくような仕事です。僕はそのとき、「各自が一番こだわりを持っている部分を出して欲しい」と言っています。例えば靴が大好きだというデザイナーがいれば、靴のデザインはその人に任せるのがいい。またゲームは、キャラクターのデザインや設定の魅力も大事ですが、その前に遊びとしての面白さがまずあり、そのための企画自体を考えることがゲーム作りの面白さでもあります。『スプラトゥーン』ができる過程も同じで、世界観として、“イカ”を定義して仕上げていくことは、単に見た目を作る作業とは違って、要素を整理していくようなもの。こうした情報を組み立てる作業も、デザインの本質的なところだと思っています。美的であっても、機能的であったり、ユーモアもなければユーザーはプレイを続けてくれません。ありがたいことに、『スプラトゥーン』に影響を受け入社を希望してくださる人が増えています。その中から突然変異的に“すごい人”が誕生してほしい。アートブックを作ったのはそのためでもあります。僕も高校時代にひたすら資料集を読み込んだ経験があるので、これから出てくる“すごい人”と一緒に何かを作るのは面白いだろうなと、楽しみにしています。ココでも活躍する卒業生他の有名タイトルにも多くの卒業生が!『スプラトゥーン2』に登場するキャラクター「テンタクルズ」をデザインしたのは、本多梨奈さん(15年情報デザイン卒)。他にも、通称“イカフォント”と呼ばれるロゴタイプを作った橘磨理子さん(12年グラフィックデザイン卒)など、多くの卒業生がスプラトゥーンに関わっています。スプラトゥーン以外にも、『Nintendo Labo』のアートディレクター、正木義文さん(05年グラフィックデザイン卒)、『スーパーマリオ オデッセイ』のディレクター、元倉健太さん(00年クラフトデザイン卒※現・工芸)など、任天堂の開発部署では多くの卒業生が様々な分野で活躍しています。4クリエイターを目指す後輩たちへ『スプラトゥーン2』 カウントダウンビジュアル『スプラトゥーン展×タワーレコード渋谷』の様子 7月13日〜8月5日まで開催された展示会。「自分がよく通っていた場所で展示ができるという、そのループしていく感じが心地よかったです」。井上精太=在学中、2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞。卒業後は任天堂に入社し、『スプラトゥーン』に構想時から参加。アートディレクターとしてその世界観を構築する。上=設定資料集の『イカすアートブック』(角川出版)。ゲームの世界をより深く理解できるだけでなく、クリエイターがキャラクターや世界観を設計する参考資料としても使える。 下=公式グッズの『クロッキー帳』 「美大生御用達のアイテムとして、これができたときはちょっと感慨深かったです(笑)」正木義文さんのNintendo Laboのデザイン素材任天堂 井上 精太さん 07年グラフィックデザイン卒『どうぶつの森』『ゼルダの伝説』と経験を積み、全体の世界観だけでなくイラストも手掛ける社会実践と基礎訓練を両立した学生時代どんどん描いてアイデアを提案スプラトゥーンアートディレクター

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