『世界のエリートはなぜ 「美意識」を鍛えるのか?』著者 山口 周2018年ビジネス書大賞4Yamaguchi Shu コーン・フェリー・ヘイグループ シニア・クライアント・パートナー、著作家。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?−経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)など著書多数。山口 周(2017)『世界のエリートはなぜ 「美意識」を鍛えるのか?』光文社新書準大賞 課題解決に向けて進んだ結果ビジネスとして成立するケース、課題に関係なく作りたいものを作った結果ビジネスになるケース。ビジネスにはこの2つのケースがあると思っています。前者の典型は、昭和30年代頃に豊かさの象徴といわれた、テレビ・洗濯機・冷蔵庫という家電の三種の神器。後者の典型は、日本の製品でいうとソニーの『ウォークマン』。内発的で、「こういうものがあったらいいな」の発想から生まれて世界的に大ヒットしました。家電を例にするならば、かつては分かりやすい形で不満や不便という声があったために、その課題を解決する製品が生まれました。 では現代はどうなのかといえば、課題を見付けることが難しくなってきている。「豊かな暮らしの象徴は何ですか?」と聞かれても答えるのが難しい時代といえるでしょう。その結果、特に日本の家電産業は衰退の状況を迎えてしまったわけです。世の中に提示された課題をうまく解決するのは、生真面目で実直な人に向いているビジネスだったと思うんです。明確な課題の解決に向けて長い時間働いた人が勝つ。結論を言ってしまえば、これまでの日本企業は、そのスタイルで成長し勝ってきたわけです。しかし、それだけでは生き残れない時代になってしまったのです。 欧米のグローバル企業では、幹部社員にMFA(美術学修士)教育を受けさせるケースが増えています。また、ビジネスエリートが自主的に学ぶケースも多いようです。その背景にあるのは、今の時代、これまでのようなMBA(経営学修士)教育に代表される分析・論理・理性だけに軸足を置いた経営では、ビジネスの舵取りができなくなってきたことが挙げられます。 先に説明しましたが、課題を見付けにくい中で、誰も課題だと感じていなかったところに課題を発見し、解決するための提案を行うには、ある種のものを見る力、アーティスティックな能力が必要だからです。これは、もともとデザイナーが得意としていることで、デザイナーの思考だと思うのです。MBAが得意とする思考のスキルだけでは現状を打破することができない現実を、欧米の経営者やビジネスエリートは認識しているのだと思います。 残念ながら日本はまだMBA神話が根強いと思います。ただ、すでに気付いて動き始めている企業や経営者もいますので、あと4〜5年ぐらいすると国内においても状況が変わってくるのではないでしょうか。 今後、AI時代が本格的に到来すると、決められたルールのもと、記述し計算してチェックするようなホワイトカラーの仕事はAIが人間に代わって行うようになるでしょう。なぜなら、それはAIが最も得意とすることだからです。では、人間でなければできない仕事とは何か。それは先述した、まだ誰も気付いていない課題を見付け、魅力的な形で提案することだと思うのです。そういう時代になったとき、本当に大学でやっておかなければいけないこと、鍛えなければいけないことは何なのかが問われる。企業がまさに求めている能力とは、全体を直感的に捉える感性や、それを創出する構想力や創造力。従来の「役に立つ」という発想ではなく、「意味」や「価値」を付与するような発想力と言ってもいいかもしれません。この「意味」や「価値」を付けていく作業とはコンセプトワークなんですね。まさにアーティストやデザイナー、キュレーターたちがやっている仕事です。要するに、一般大学ではなく美術大学で鍛えられる能力が重視される時代になってくると思うのです。明確な課題を長時間労働で 解決する時代は終わった 今後はものを見るアーティスティックな能力が必要とされる 美術大学で鍛えられる力がビジネスで重視される時代へ AIが人間に代わって仕事を行う時代が到来 AIが人間に代わって仕事を行う時代が到来したとき、求められるのは、まだ誰も気づいていしたとき、求められるのは、まだ誰も気づいていない課題を見付け、アーティスティックな思考でない課題を見付け、アーティスティックな思考で『新たな価値』を提案できる人材『新たな価値』を提案できる人材
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