TAMABI NEWS 81号(ゼロからイチの発想力特集)|多摩美術大学
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術を広く伝えたいと思うようになりました。ただ、職人には頑固な人もいて、今までのやり方を変えたくないと言われてしまうこともあります。そこを説得するのも僕の仕事。そんな経験から、ものづくりだけではなく、提案やプロジェクトの進め方も含めてデザインなのだなと思うようになりました」  上智大学理工学部物理学科を 卒業後に多摩美に入学した理由 清水さんは上智大学理工学部を卒業してから多摩美の夜間学部(当時)に入学した。「内定をいただいた企業もあったのですが、果たして本当にやりたいことなのかと。もともと、ものづくりや表現することに興味があり、『ものをつくるとは何か』を勉強し直してもいいのかなと思ったんです。ただ、絵で勝負しても周りに勝てない。入学した時から自分が勝てる領域を模索していましたね。その意味では情報デザイン学科に転学部したのは正解だったと思います。ノンジャンルで、いかに誰も手を付けていないものを見付けるか、という視点が重視されていたので。プロダクトデザインを専攻したわけではないのに、ものづくりの中でプロダクトに携わることができているのは、何を作るかをゼロから考えさせる情報デザイン学科の教育方針が今に生きているからではないかと思っています」7作品完成までのプロセスも 含めてデザインと考えている 多摩美の同期生ら3人が所属するデザインユニット「coneru」をはじめ、さまざまなクリエイターとユニットを組んで作品を発表し、「2018年度グッドデザイン賞」や「2018年度東京ビジネスデザインアワード」では優秀賞を受賞。『SAMURAI BLANKET』は「bud brand 2019」の準グランプリに輝き、世界最大のデザインイベント「ミラノ デザインウィーク」に出展されるなど、清水さんはヤフーで働く本業とは別に、プライベートの時間を使って精力的なものづくりに取り組んでいる。「クライアントのオーダーではなく、純粋に自分が本当に作りたいものを作る。そんな同じ思いを持つ仲間たちと組んで活動しています。僕自身はプランナーとして、伝統的なものに新たな価値を付加する作品を多く手がけているのですが、そのきっかけがデザインユニット「coneru」による『浮世絵ぷちぷち』でした。江戸時代、浮世絵は陶器などを包む緩衝材として利用されていて、それが西欧に渡って文化的な作品として評価された話をヒントに、現代の緩衝材としてポピュラーな「プチプチ™」を当時の浮世絵が果たした役割と融合させて発表したのです。そこから伝統工芸や日本の職人の技段ボールアーティスト島津 冬樹12年情報デザイン卒coneruプランナー清水 覚14年情報デザイン卒上=「浮世絵ぷちぷち」 川上産業株式会社との共同開発により商品化に成功。2018年度グッドデザイン賞、クールジャパン マッチングアワードを受賞。デザインユニット「coneru」による作品。下=「香りの魅力を楽しく学ぶプロダクトの提案」 「2018年度東京ビジネスデザインアワード」にて優秀賞を受賞。この作品づくりのためのユニットを組み、清水さんがプランナーを務めた。Shimizu Satoru 上智大学理工学部物理学科卒業後、多摩美術大学造形表現学部に入学。美術学部情報デザイン学科を経て、2014年電通ヤング・アンド・ルビカム株式会社に入社。2017年よりヤフー株式会社にてクライアントワークのプランナーとして従事。Shimazu Fuyuki 2015年、大手広告代理店を経てアーティスト活動を開始。2009年より路上や店先で放置されている段ボールを使い、財布を作るプロジェクト「Carton」をスタート。世界35カ国を旅しながら段ボールを集め、財布やカード入れなどを製作している。昨年、島津さんの活動に迫ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』も公開され話題を呼んだ。©川上産業「不必要なものから大切なものへ」をコンセプトに、世界35カ国を旅しながら街角で集めた段ボールを使い、デザイン性・機能性を兼ね備えた財布やカード入れなどを製作する、段ボールアーティストの島津さん。国内外で展示会やワークショップを開催するなど精力的な活動を行っている。3月9日・10日にアーツ千代田3331で開催されたワークショップも各回満員の大盛況。注目度の高さがうかがえた。 そもそも段ボールを使った財布作りを始めたのは、多摩美時代の課題制作がきっかけだったという。「2年生のときに空間デザインでミュージアムを作るという課題があったんです。建築模型を作ることが課題のゴールだったので、素材として段ボールを集めていくうちに、グラフィカルできれいだなと思うようになったんです。そのとき、たまたま財布がボロボロになっていて、1カ月もてばいいかなと思い段ボールで作ったのがきっかけでした。自分自身『段ボールで財布が作れるんだ』という驚きもありましたし、実際には1年もったのも驚きでした。卒業後、アーティストになろうと思って先生に相談したところ『1回就職して世の中を経験しろ。それからでも遅くない』と。結果、そのアドバイスに従って良かったと思っています。些細なことではありますが社会人経験や仕事を通じて得た人脈が、今の活動にすごく役に立っています。間違いなく自分にとってプラスとなる経験でしたね」捨てられてしまうものから情報を読み取り、価値を生み出す世界中を旅して集めた段ボールを世界中を旅して集めた段ボールを材料に財布などを作品化材料に財布などを作品化グッドデザイン賞をはじめ、グッドデザイン賞をはじめ、独自のアイデア作品で独自のアイデア作品で数々の賞を受賞数々の賞を受賞「アイデアは古い物との組み合わせ。 ある種、物理学のようなものだと思うんです」

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