セルフプロデュース力を鍛える授業展覧会の企画から実施、運営までを 学生たちが自ら行う授業学を卒業したなら、もう相談する相手がいないわけです。個展を開くにしても、基本的に全て自分一人でやらなければいけないんですよ。そんなことを教えてくれる人はいません。普通は大学でも教えませんからね(笑)」 「あなたは一体何者ですか?」を 自らに問う授業を展開2019年は日本画、油画、グラフィックデザイン、工芸、芸術学科の学生が受講。Noda Naotoshi 学芸員。世田谷美術館 学芸部 企画担当主査。95年に大学院芸術修了後、サントリー美術館、草月美術館の学芸員を経て、2003年から世田谷美術館の学芸員として勤務。2013年より芸術学科非常勤講師。2018年の「アーティスト・トーク」の様子※PBL授業…PBL(Project Based Learning)。所属学科や学年の枠を超えて、横断的研究や社会的課題に取り組むプロジェクト型授業のこと。6 全学科生が受講可能なPBL授業※『文化演出の現在』。普段はさまざまな学科で学んでいる学生たちが全員で、企画立案から印刷物の作成、広報活動や作品設置の方法などを考え、展覧会を実施する実践的な授業です。 この授業を担当しているのは世田谷美術館の学芸員でもある野田尚稔先生。展覧会を開くことが目的なのではなく、『自分の作品は、こう見せる』というセルフプロデュース力の本質を身に付けてもらうことに力を注いでいるという。 「前期15週の授業の中で展覧会を実施するところまでを指導するのですが、そこで終わりではありません。報告書を作るまでが授業なんです。報告書には、どのぐらい費用がかかったのかという明細付きの会計報告も添付します。奨学金を受けるにしても留学するにしても、最後は自分で報告書を書いて提出しなければいけない。大 後期では『プレゼンテーション演習』の授業が行われる。名称通りに受け取るのなら、プレゼンテーションのノウハウを学び、スキルを身に付ける授業に思えるが、野田先生の授業はそうではないという。 「授業名と授業内容にはギャップがあるかもしれないですね。『あなたは一体何者ですか?』を主題にした授業を行っているので。どうやって自分を見せるかを考えるにしても、まず自分が何者か分からなければ見せようがない。でも、行うのはいわゆる自分探しではないんです。例えば、自分の好きな美術作家を3人挙げて、共通点は何かを考える。おそらく、その共通点の延長線上にあるものが自分の好きなものだよと。そこから3人のラインと自分がどう関係しているのか、自分の作品の主要な部分とどうつながっているかを考えながら、自分自身のことを言葉で説明する訓練を行い、ポートフォリオを作ってもらうんです。他の学生が作ったポートフォリオと自分のポートフォリオを見比べて、違いは何か? 自分の作ったものが見劣りする理由があれば、それはなぜかを考えさせています」 ここまでで後期全15回の授業の半分。残りの授業では、ポートフォリオをベースにしながら自分の作品を使い、『アーティストブック』と呼ばれる本作りを行うという。 「作品は物でポートフォリオはその人の情報でしかないんですが、作品よりもポートフォリオのほうが、よりその人を表現しているケースもあるんです。では、物体と情報の差は何かを考えていくと、そこに自分の作品の大事な部分が見えてくるはずなんです」 自分の内に持つテーマと作品を客観視し、他者に説明するための言葉を見つける。これぞプレゼンテーションの本質に迫り、セルフプロデュースの方向性をつかむ授業という印象を受ける。 「そうだと良いんですが(笑)。学生にしてみれば初めての体験ですし、もともと言葉を使うのに慣れていないので、最初から上手くはできないんですよ。しかも、どんどん授業が進むので、完成度を求めるのは正直難しいところではあります。ですので、まずはセルフプロデュース力を身に付けるために何をやるべきか、ということを理解してもらえればと思っています。僕が行っているのはプラモデルの設計図のように、完成までの順序を教える授業ではないんです。あくまでも自分で考えさせる。自分で考えれば、次に考える時の糧になるはずだと思うのです」PBL※(全学科対象)野田尚稔芸術学科非常勤講師 95年大学院芸術修了世田谷美術館学芸員のもと「誰に向けて作品をつくるか」を問う過程を他学科生と経験
元のページ ../index.html#6