毎年9月にオーストリアで行われている「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」は、国際的な新しいメディア表現を発信する場として世界的に影響を与えているイベントだ。1987年に創設された「アルスエレクトロニカ賞」ではインタラクティブ・アート部門で2006年に卒業生の毛利悠子さんが栄誉賞を、2008年に平川紀道さん(07年大学院情報デザイン修了)が優秀賞を受賞。和田永さんも2018年に『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』で栄誉賞と、科学、テクノロジー、アートを融合した作品を表彰する展覧会などを通じて若手作家の バックアップを積極的に展開日本のメディア・アート黎明期から、さまざまな評価と発信を行ってきたICC。学芸員から見た過去、現在、そして未来について伺いました。 科学技術と芸術文化の交流を目的とした文化施設『NTTインターコミュニケーション・センター(略称=ICC)』。最先端テクノロジーを用いた数多くのメディア・アート作品、メディア・アーティストの企画展を実施するなど、日本におけるテクノロジー・アートの拠点ともいえる存在で、日本の若手作家のバックアップも積極的に行っている。そこで現在学芸課長を務めているのが、芸術学科出身の畠中実さんだ。 「90年代の終わりころに日本の大学にもメディア・アート学科などテクノロジーを用いた作品づくりを学べる環境ができたことで、2000年代に入るとそこで学んだ人たちが作家として登場するようになりました。その状況を受け、ICCでは2004年に『ネクスト:メディア・アートの新世代』という展覧会を企画ICC内会議室の壁には、これまでに開催された企画展のポスターがびっしりと掲示されて、ICCの歴史を物語っている。海外でメディア・アートを発信する場と多摩美とのかかわりアルスエレクトロニカ・フェスティバル40年の歴史を持つ世界最大の国際科学芸術祭ICCで過去に展示された実験的な取り組み多摩美術大学×東京大学 「ARTSAT」しました。2006年からは、年度ごとに開催される長期展示の中に新進作家を紹介するコーナーを設け、年3回程度若手作家を紹介しています。もうすぐ40回目を迎えるのですが、多摩美出身の作家も数多く登場しています」 新進作家コーナーでは大学生の卒業制作作品をピックアップすることもある。 「2018年に出した本の中で、メディア・アートは、まだ芸術とは呼ばれていない手段を芸術表現として使用する『例外芸術』と呼んでいます。だからこそメディア・アーティストとして活動することは、新しい領域を切り開くことに似て、難しくて大変なことですが、だからこそICCでは、若手作家の発表の機会を増やしていくことで、いろいろな試みに挑戦できるようになれたらと考えています」 最後に、大学講師の立場から学生へのメッセージを伺った。「STARTS PRIZE」の2つを受賞し、記念ライブを行うなど話題となった。2019年には卒業生ユニット『正直』の小林椋さん(17年大学院デザイン修了)、時里充さん(12年メディア芸術卒業)も栄誉賞を受賞し、パフォーマンスを行っている。ほかにも、2012年にアキバタマビ21で行われた展覧会「多摩美メディア芸術祭ミスコンバージョン」でコラボ企画を行った実績や、上記の芸術衛星1号機『ARTSAT:INVADER』が2015年にハイブリッド・アート部門で優秀賞をチーム受賞するなどの快挙もあった。このようにアルスエレクトロニカと多摩美とのかかわりは多岐にわたっている。 「メディア・アートがどういうものかを学んだうえで、自分が習えなかったものに目を向けてほしいですね。そこで自分なりの表現が見つかるはず。大学には贅沢なカリキュラムが用意されているので、そのシステムを活用しながら『何になりたいか』を自分で考えてほしいですね」芸術目的の超小型衛星や、造形作品としての宇宙機を2014年に打ち上げた「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」の実験プレ展示をICCで2012年に行い、約10ヶ月にわたって宇宙環境と衛星、衛星からのデータやシステムに関する展示が行われた。11NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 国内外のメディア・アート作品を発信し続ける文化拠点畠中 実 ICC 学芸課長91年芸術卒業メディア芸術コース非常勤講師Hatanaka Minoru 1996年の開館準備よりNTTインターコミュニケーション・センターに携わり、学芸員として多数の企画展を担当。国内外の作家の個展も数多く担当している。先端表現を評価する場の広がり
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