TAMABI NEWS 84号(技術が開放する個性)|多摩美術大学
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 テクノロジーを活用するメディア・アートの世界では、美術公募展での受賞を足がかりに、若くしてアーティストとしての地盤を築く人が少なくない。ドローイングマシンや自律型装置を用いた作品で知られる、やんツーさんもその一人。大学院での修了作品が、2009年に文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出され、2011年には同芸術祭の新人賞を受賞するなど、数々の受賞歴をもつ。 「僕が所属していた研究室(現在のメディアラボ)では、展示やライブパフォーマンスなどの活動、そしてコンペでの受賞など、大学の外で精力的に活躍し実績を残している先輩が多く、教授たちもコンテストに応募することを勧めていたり、そういう雰囲気の中、自然と自分も早い時期からコンペに応募していました。大学院を修了した年にメディア芸術祭で入選したことをきっかけに、どんどん発表の場が増えていったという実感があります。何よりメコンペでの受賞が、発表の場を 得る契機になった新たな領域だからこそ、若くして飛躍するチャンスも広がっています。活躍の場をつかむことができた理由と、その評価について伺いました。yang02 美術家。デジタルメディアをベースに、書やグラフィティなどの文字による表現、ストリート・アートなどに影響を受けた作品を制作。ホテル「ザ ノット東京新宿」や原宿の「ユナイテッドアローズ」店内などにも作品が飾られている。『未来ノ貨幣 新壱万円紙幣試験印刷工場』。 工場で使用するトローリーと農業用噴霧器を用いて、ゆっくりと巨大な新一万円札を描いていく巨大なドローイングマシン。日本橋のコレド室町テラスで行われた東京ビエンナーレ2020プレイベントで展示された。©Tokyo Biennale 撮影=池ノ谷侑花(ゆかい)『鑑賞から逃れる』(2019年) 撮影=木暮 伸也可能性を見出される場②文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業幅広いジャンルのメディア芸術における若手クリエイターの創作活動をサポート 文化庁メディア芸術祭の受賞作品や審査委員会推薦作品に選ばれた若手クリエイターをサポートする「メディア芸術クリエイター育成支援事業」。やんツーさんのみならず、デジタル・アートやアニメーションなどの分野で作家活動を行う他の多摩美卒業生も、ディア芸術祭は圧倒的に多くの人が見に来るのが良かった。そこから味をしめて、可能性がありそうなコンペには全て応募していました。卒業したての時期でお金が無かったということもあり、貸画廊を借りるなど身銭を切って展示をするというような発想は毛頭なかったです」無自覚にテクノロジーを 使わないこと 現在は必要に応じて自身でプログラミングや電子工作を行うが、在学中はメディア・アート自体にそこまで関心がなかったという。 「学部時代、技術はほとんど身につかず、プログラミングには何度も挫折し、メディア・アート向いてないと思っていました。卒業制作でやっと技術が少し身に付いたので、このまま卒業するのはもったいない。もっと何かできるんじゃないかと思い大学院に進みました。学部の頃はなんとなくモラトリアムを感じていましたが、大学院の2年間は非常に濃密でした」この事業の採択クリエイターとして創作活動のサポートを得て、活躍のチャンスをつかんでいる。選出者には総額150万円を上限とする制作費の支援が行われるほか、専門家からのアドバイスが受けられるレベルアップサポートや作品の発信サポートなどが提供される。また、育成を目的に、国内の第一線で活躍するクリエイターとの交流機会も設けている。12月14日には久保田晃弘教授と採択クリエイターを招き「時代をサヴァイヴするメディアアーティスト」をテーマにしたトークイベントが開催された。現在はアーティスト活動と並行して、大学で講師も務めるやんツーさん。授業では自身の経験も踏まえて、学生たちに思いを伝える。 「批判的になるというか、何に対しても懐疑的になる。当たり前なことほど疑う。これは自分の作家としてのスタンス、引いては表現全般において基本的な態度だと思っています。メディア・アートであれば扱うメディア自体にまず意識的になる必要があります。大学で教えていると、若い世代の発想や感覚に驚かされることが少なくありません。一方で、自分の方法論を少しも疑うことができない頭が固い学生も多いと感じます。新しいものに対する鋭い感性と、柔軟な発想で未開の地平を切り開いてほしいですね」7メディア・アート文化庁メディア芸術祭から多くのチャンスをつかむやんツー09年大学院デザイン修了 メディア芸術コース非常勤講師たち

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