林 AXISの宮崎光弘さんが教授でいらっしゃったのも大きかったですね。1年生の時からよく話しかけに行ってました。三原 そういう活動能力があるんだよね。林 いやいや。でも僕が多摩美に入りたいなって思ったのは、バスを降りて坂を登って、緑の中にコンクリートの塊がいっぱいあるのを見た瞬間。「ああ、ここめちゃめちゃいい感じだな」って思ったのをすごく覚えています。図書館も含めて。三原 きれいになって良かったですよね。僕らの頃はプレハブの建物が茶畑みたいに連なってた(笑)未来への一歩を踏み出す時、友達や先生が背中を押してくれた―― 学生時代はどう大変だったんですか?三原 まず、大学に入ること自体が大変だった。僕らの世代はベビーブームで、50人に1人しか受からないような、浪人するのが当たり前の時代だった。福岡の画塾っていう美術予備校に通っていたんだけど、二浪が確定してからはもう本当に毎日が修行だったね。ほぼひとりで絵を描き続けてた。林 ものすごい倍率だったんですね。三原 入った後も、周りはみんな絵がうまいやつばかり。どいつもこいつも天才だった。びっくりするくらいうまかった。でも、いくらうまくても、独自性がないとどんどん潰れていっちゃうから。それで切磋琢磨できたかな、4年間。林 多摩美を選んだ理由とかあったんですか?三原 当時、多摩美の染織デザインには粟辻博さんがいたんです。僕にとってはデザイン界の唯一無二な存在の人。粟辻さんや田中一光さん、三宅一生さんは憧れの巨匠でした。しかし、僕が3年生の時に粟辻先生は亡くなられてしまって、残念なことに粟辻さんの授業は受けられなかった。それで「代わりになる人は世界中のどこにもいない」存在にならなければと思いました。―― 林さんはもともと映像志望だったんですか?林 いえいえ、全然。僕も一浪して情報デザイン学科に入って、2年生の時にたまたまクラブのVJをやっている友達ができて、面白そうだなと思ったのがはじまりです。三原 おしゃれだなー。―― おふたりの世代のギャップってどれくらいあるんですか?三原 僕が今48歳で、林くんはいくつ?林 31歳です。三原 平成生まれ! だからこそなんですよ。平成3年ぐらいにバブルが崩壊して、大人たちが世の中に暗い話題を流しだした後からしか生きてないから、林くんはある意味「被害者」なんです。林 ははははは! そっかそっか。三原 それまでは学歴社会で、良い大学に行けば良い就職先があって、終身雇用っていう虚像があったの。バブルの崩壊で本当に虚像だったことが露見したんだけどね。僕は運が良かったことにちょっとひねくれていたところがあったから、「終身雇用なんてありゃしねえだろ」ってどこかで思ってて。それで大学3年で自分のブランドをはじめたんだ。林 そうだったんですね。三原 今もコロナ禍で学生のみんなは本当に大変だと思う。でも、それも長い人生から見たらほんのちょっとのことなんだよ。「自分はこれから何を作って生きていくのか」っていうことを考えたら、良い会社に就職できたとかできなかったとか、そういうことで自分の力が決まってしまうってことはないんだ、絶対。林 うんうん。三原 僕は学生の時に独立して良かったって思ってるけど、でも、自分の意志だけで決め切れたかというとそうじゃない。やっぱり当時の友達とか先生、周りの大人たちが背中を押してくれて、勇気を与えてくれた。あの時多摩美で出会った人たちの誰か一人でも欠けていたら、今頃どうなっていたか。林 人との出会いは僕もそうですね。友達も教授陣もみんなそれぞれの価値観を持ってるから、いろんな刺激を受けられた。三原 意外と学科を越えて仲良くなりますよね。勝手に他のところの授業を聴きにいったりとかあったでしょ?林 ありましたありました。僕はもともとグラフィックデザイン学科志望だったから、グラフの友達に授業内容を聞いて図書館で調べたり。三原 そうだよね、大学に行っていちばん良かったなって思うのは、アートやデザインが好きな同世代の子たちが日本中から集まる環境だってこと。とにかく熱量がすごかったよ。蜷川実花ちゃんもラーメンズも、ラーメンズと一緒にやっていたニイ今回のコレクションは三原さんが美大生だった自身の学生時代を思い出しながら、創造力で世界を明るくしたいという思いを込めて作ったもの。『Good Inspiration』というテーマやメッセージがデザインに盛り込まれているほか、ペンを差せるポケットやIDカードのケースなど機能性のある仕掛けが遊び心をくすぐります。14「美大生」がモチーフならではの機能的なデザイン Interview新しい表現や戦い方を見つけて、時代のその先を提示する人にスピーチを聞いて、改めてすごい先輩だなって思いました。三原 「GU×MIHARAYASUHIRO」のデザインを考えていた時は自粛期間で、ひとりでアトリエにいることが多かったせいか、プライベートなコレクションにしたいという気持ちが強かったんです。もっとポップで軽いテーマの方がいいのかなと思ったこともあったんだけど、こんな世の中でも大人たちはちゃんと若い子たちを見ているし、応援しているよってしっかりと伝えたかった。林 なるほど。三原 特にクリエイションをやる子たちって、どこかで自分の力を見限ったりする時があると思うんですよ。誰もが自分の才能の無さをどこかで感じながらも努力していくっていう。それの繰り返しじゃないですか。僕自身も学生時代は大変だったけど、多摩美で過ごした4年間があって、今の僕がある。恩返しがしたいという気持ちで、あの場を借りて自分の思いを伝えさせてもらいました。
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