TAMABI NEWS 87号(日本画の伝統を超えて自由な発想が生まれる理由)|多摩美術大学
11/20

 2000年、『タマビDNA』第一世代の中野・米谷両先生が、時代の変化と学生の要望に応えクラス制から学年制へとカリキュラムを改編。現在の本学日本画専攻は、■タマビDNA■を受け継ぐ武田先生、加藤先生、八木先生、千々岩先生に、宮先生、岡村先生がもたらす新たな遺伝子が異種配合され、ハイブリッド化が進行する新時代を迎えています。 「現在の学生たちは非常に優秀です」と語る武田先生。学力も高く、理解力に優れた学生が多いと化しています。そして優れた作家ほど変化することを恐れません。多様性が問われる今こそ、次なる新しいものを生み出すチャンスでもあります。日本画を自分なりの解釈で追究し、多摩美らしさを武器にチャレンジしてほしい」と加藤先生は語ります。 作家はまず自分で手を動かすことが大切だと考える宮先生。学生へのメッセージにも自身の思いがこもります。 「今の学生は、iPadで下図を描いてくることもあるのですが、日本画の素材を粘り強く使い続けてみると、発見と驚きを実感できると思います。日本画は手作業が多く、デジタルのように光の3原色では表し切れない複雑で奥の深い芸術です。粒子がこぼれ落ちて消えてしまうことのない日本画の技法を使い、面白くなるまでとことん手を動かしてみてください」いいます。 「その強みを生かし、専門性の高い日本画の世界で粘り強く、新たな領域を目指して作品を作り続けてほしいと考えています。学生時代は、壁にぶつかり、思い悩むことも多いでしょう。しかし、千年途絶えることなく受け継がれてきた日本画の知恵の中には、迷いに対する答えが必ずあるはずです。行き詰まった時には、深い森に包まれた八王子キャンパスの風景にも目を向けてみてください。そこにある豊かな自然と向き合い、対話してほしい」と語ってくれました。 学生の時にこそできることがある、というのは千々岩先生。 「学生たちは、日本画を学びながら身に付けた技法を用いて、斬新な作品を次々と生み出しています。 「絵を描くために大事なことは、心を空っぽにして自分を見つめること、それを素直に眺めることにあると思います。今は、絵画への付加価値などが求められ、社会が若い作家たちに求めることも多くなりがちな時代ですが、自分なりの判断で切り捨てていかないと、新たな絵は生まれません。人類は何万年も前から絵を描いてきました。社会のためではなく、食べたり寝たりするのと同じように、生きるために絵を描いてきたのです。悩んだときにはこの原点に立ち返り、よく食べてよく寝ること。健康であることは、学生の創作のスタート地点です。自己肯定感を持ちながら、豊かな気持ちで創作に向かってほしいと思います」と岡村先生はエールを送ってくれました。また、八木日本画の伝統を超えて自由な発想が生まれる理由日本画の技法には制約があるからこそ、創意工夫が生まれるのだと思います。日本画の基礎を身に付けながら、その枠を超えようとする力を養い、ゆっくり手間をかけ、丁寧に思考を重ねながら慌てずに描いてほしいと考えています。時間のある大学時代にこそ、表現者としての自信を培ってもらいたいのです」 「多摩美生は迂闊(うかつ)とよくいわれますが、それは長所でもあります。失敗を恐れないフットワークの軽さは、多摩美生の大きな魅力です。日本画の歴史は今も時代の流れの中で動き、常に変先生は、加山・横山時代の情熱は、変質しながらも今の世代に受け継がれている、さらに美術とは「純粋さ。そして熱中する力」であるといいます。 「かつて学生だった時代に僕たちが受け継いだもの。それは、一言でいえば、作家としての情熱や絵画に対する誠実性です。それを伝承した者だけが残り、次の世代へと意思を伝えていくのだと思います。何かを熱心に描く姿や、言われた以上のことをやっている学生の作品に惹かれますね。バランスは悪いかもしれないけれど、何かに真剣に取り組む構えは、熱意となって作品ににじみ出てくるんです。そういうことが人を感動させる原動力になる。芸術とは、名誉や売り絵を描くこと以上に、大事なことを世の中に伝える役割があるんです」2021年6月25日に行われた講評会の様子11■タマビDNA■新時代へ制約があるからこそ創意工夫が生まれるさらに超え続けるために自分なりの判断で新たな絵を生み出す失敗を恐れないフットワークの軽さが、多摩美生の大きな魅力TAMABINEWS

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る