Approach utilizing natural environment「たとえば、今の流通システムが大量の食品ロスを生み出すという問題に対して、余った食材をいかに活かすかというのが今のSDGsの取り組みの典型例ですが、それには限界があります。そもそも、食品ロスを出さないような社会にしていくという抜本的な社会のリデザインが必要です。そのための未来図を描く。そのための飛躍ができるのが若者のイメージ力で、そのための表現技術が美大生の特技なのだから、特に学生に期待していることです」堀内チームでは、SDGsのゴールとしている2030年よりさらに先、2050年を目標としています。 「今は学生が名付けた“涼都2050”をテーマとして、都市のヒートアイランド現象を低減させるための都市デザインの提案に取り組んでいます。技術革新は重要ですが、このようなビジョン、目標を社会で共有するための価値の創出に向けた多摩美生の活躍に期待したいと思います」環境デザイン学科堀内正弘 教授のカルチャー部門でグランプリを受賞。2012年にはクールシェアが環境省の施策に取り入れられ、2015年からは9都県市の取り組みが始まり、熱中症対策としても注目されています。「学生からは、熱中症予防のための『クールシェアハット』の考案や、からくり人形のアイデアを取り入れた『打ち水自転車』の構想などユニークな提案作品が次々と誕生しています。これらは美大ならではの展開で、地域や行政と協働しながら社会に貢献することで、学生たちに大きな成長をもたらしました」 堀内チームは情報を共有するためのシステム構築にも取り組み、2012年に環境省の委託を受けて『クールシェア・マップ』を作り、2019年からは屋外で快適に涼める場所を検索できる『東京クールスポットマップ』を公開しています。2050年を見据えて社会の仕組みをリデザインする猛暑時のWBGT値(暑さ指数)を測定して涼しい場所を紹介する『東京クールスポットマップ』を作成2012年、細野豪志環境大臣(当時)に学生が『クールシェアマップ』を説明する様子折り紙の「カブト」にヒントを得て、学生らが考案した『クールシェアハット』 江戸時代の「打ち水」から発想した自転車。からくり人形が柄■で水打ちをするというアイデア08“自分ごと”として環境への意識をもつことが大切「環境問題を解決するには、より多くの人が“自分ごと”としてとらえ、すぐできることから行動を起こすことがとても大切です。そのためのきっかけづくりが、アートとデザインの力でできると考えています。『クールシェア』は、2011年の東日本大震災直後のゼミで、東京にいながら我々に何ができるか”という問いかけに対し、学生との対話から生まれたアイデアです」 電力供給が逼迫していることから調査をしたところ、その夏の「猛暑時の電力消費」をいかに減らすかという課題が出ました。家庭のエアコンによる電力消費が突出している、そこで不要なエアコンを消して、街にあるエアコンを皆で分かち合おうという呼びかけです。最初は大学近くのお店や商店街に働きかけて実施したところ、同年行われた環境ビジネスウイメン主催による『エコジャパンカップ2011』環境デザイン学科の堀内正弘教授のチームによって発案された『クールシェア』モデルは、環境省や地方自治体とともにCO2削減と夏の熱中症対策を推進。脱炭素アクションの原点ともいえるこの取り組みを中心に、これからの社会課題や環境デザインのあり方について伺いました。CASE.3自然環境を生かしたアプローチ 未来を見据えて「今」をデザイン想像力を働かせながら環境と共生する
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