塩田教授の集中ワークショップは「Shaping y/our fears」と題し、COVID-19の状況の中で、院生それぞれが持つ「恐れ」を顕在化して作品化することに取り組みました。院生との個別面談やゲスト講師を招いての特別講義、グループディスカッションなどを経て、各々のアプローチと成果物のプレゼンテーションを行い、建畠学長や大学院の松浦弘明研究科長らも参加しました。塩田教授も《不確かな旅》(2016/2019)などの代表作で使用している「赤い糸」を使ったインスタレーションを教室の一角で制作し、院生と同様に講評を受けました。「塩田先生は院生たち全員を、自分と同じアーティストとして考え、尊重していました。院生たちも先生の制作に興味を持ち、積極的に声をかけていました」(ムーニー助教)塩田教授のインスタレーションにコメントを述べる建畠学長(写真右)研究領域を超えた院生たちの交流はその後も続き、連絡を取り合いながら、お互いの展覧会に行き批評し合ったり、最近考えていることを共有したりするようになった塩田クラスで大学院グラフィックデザイン2年・倉本大豪さんの作品についてディスカッション。「EWSは自分の制作プロセスやアウトプットに大きな影響をもたらした」(倉本さん)オンライン個別面談は世界的アーティストと1対1で語り合える貴重な時間オンラインでも時間と空間を超えたコミュニケーションが実現した。集中ワークショップの最終日にアピチャッポン教授を囲んで。写真後列左端にムーニー助教、後列右端に久保田教授05世界基準を、超えていく。TAMABINEWSEXPERIMENTAL WORKSHOP世界的アーティストとの個別面談で創造性を広げるきっかけをつかむ 「Visions from Chaos」をテーマに行われたアピチャッポン教授の集中ワークショップは、毎日メディテーション(瞑想)から始まります。教授のリクエストによりリビングルームのように模様替えされた教室で、自分自身と心穏やかに向き合う時間が設けられました。その後、教授の制作プロセスをベースにしたさまざまなエクササイズを行い、そこで感じたことを全員でディスカッションします。午後は教授と院生との個別面談というプログラムで、院生たちは日々新しいアイデアと出会いながら、各々の作品制作に取り組みました。 「普段とは違う開放的な雰囲気の中で、アピチャッポン教授は院生たちに、新たな気づきのきっかけとなるような言葉をたくさん投げかけてくれました。今日の、分断化した競争社会に流されがちな状況に対して、批判的にブレーキをかけるメッセージもあり、学生たちは自分にとって『本当に必要なことは何か』を、常に問いかけられていました」(久保田教授)EWSでの経験が創作活動の新たな原動力に 2人のワークショップに共通していたのは「なぜ作品をつくるのか」「なぜその素材を選ぶのか」といった、創作の根幹に関わる議論を重ねるところです。院生たちは教授との対話を通して、自らを見つめ直し、これまでの創作に対して、批判的な再考を促されます。個別面談の待ち時間などには、院生たち同士が議論を行い、夢のような、しかし非常に現実的な2週間を過ごしました。 「瞑想や物語の創作を行うことで、自分の外側から来る情報を取り入れて自分の内側にあるものと混ぜ合わせていくことの練習になった」(大学院油画2年・岩崎奏波さん)「グラフィックデザインの考え方から少しアート的なアプローチに変わってきた」(大学院博士後期2年・ワン チンさん)「もやもやした思考やドローイング段階のものを他の人に打ち明けるというオープンなプロセスへの変化が大きかった」(21年大学院油画修了・吉山明恵さん) 「制作のターニングポイントになった人や、作品そのものを大きく進化させた人もいます。EWSでの経験が自らのバリアを超えるきっかけとなり、創作活動の新たな原動力になることを願っています」(ムーニー助教) EWSは今後も「実験」し続けるための場として、常に異なることにチャレンジしながら、その成果を日常の教育に落とし込んでいきます。 「国際的、学際的でオープンなプロジェクトを大学院に根付かせることで、大学教育全体のクオリティーを少しでも高めていきたいと思っています。まずはEWSのような、仮設的であっても横断的な環境を、多摩美で機能させることが必要です。アートやデザインを取り巻く環境も日々変わっているので、日々アップデートしていくことが大切です。そのためにもEWSの活動を、末長く続けていきたいと思っています」(久保田教授)
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