TAMABI NEWS 89号(世界基準を、超えていく。)|多摩美術大学
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 Pacific Rimは、両校の学生が未知の世界を自身の五感で体験し、多国籍の人間関係の中でいかに自分の個性を発揮できるかを試す場でもあります。2006年のプロジェクト開始時から運営に携わり、多摩美側のリーダーを務めるプロダクトデザイン専攻の和田達也教授にお話を伺いました。 「Pacific Rimの最重要ポイントは、日米の学生が混ざり合い、国・文化・言語、そして専攻の違いを超え、協働してデザイン研究を行うことです。いわば『交換留学の団体戦』。仲間と協力しながら最後までやり抜くことが、このプロジェクトの大きなテーマです」(和田教授)過去15年のプロジェクトでは、アメリカと日本だけではなく「環太平洋地域」に属する国々の社会課題解決に取り組んできました。『Future Craft』をテーマとした2012年のジャパンステージでは、東日本大震災直後の東北地方で人々の生活に根を下ろした伝統工芸職人の業(わざ)を学びつつ、地域社会の復興とデザインの可能性を追求しました。2016年には本学を拠点にタイ・チェンマイでの活動を展開。現地で大量廃棄されるバナナの茎やウォーターヒヤシンスの繊維の再活用について提案し、持続可能な社会の実現とデザインの役割について考えました。2017年のアメリカステージでは『ECO-RESEARCH LAB』をテーマに、コスタリカの大自然を体験。動植物の生態系や生物模倣から得られる観測結果をもとに、生物保護や社会的貢献を目指すデザインを多数提案しました。「Pacific Rimでの3カ月間の異文化体験は、学生たちの将来において困難に打ち勝つ強い力になります。自分の殻を破り、枠を超えて飛躍的に成長できる絶好の機会です」(和田教授)Pacific Rim初の試み日米をつなぐオンラインプログラム2021年度はPacific Rim初のオンラインでの開催となりました。学内選抜の結果、本学からは油画・グラフィックデザイン・プロダクトデザイン・テキスタイルデザイン・情報デザインと幅広い領域の学生・大学院生8名が参加しました。 プログラム初日は自己紹介と、事前に通知されていた制作課題「人と自然を結びつけるお守り」についての発表がありました。「持つと魔法の力が湧いてくるようなもの」という条件で、両校の学生一人ひとりがさまざまな素材を用いて、このテーマからインスピレーションを受けて制作したお守りを発表しました。その後、両校の学生をミックスして2〜3人で1チームを編成し、「LIGHT × NATURE」という課題に対するデザインによる解決策を探る研究がスタートしました。 アートセンターのあるアメリカ・カリフォルニア州と東京では約17時間の時差があり、両校の学生たちがオンラインで無理なくつながれるのは日本時間の午前中のみです。チームの仲間と共にリサーチや実験を重ね、パソコン上で設計したプランに沿い、3Dプリンターをはじめとする学内の最新機材を利用し、試作品(プロトタイプ)の制作に取り組みました。各チームの制作状況の進捗を詳細に、かつ俯瞰して確認するため、オンラインホワイトボードツールの「Miro」を導入。ビデオチャットを組み合わせることで、離れていても円滑なコミュニケーションを実現することができました。最終日には、1つ弱ると群全体に影響するという珊瑚の生態の特徴をコンセプトにした3種類の照明や、床に流氷の模様を投影するグラウンドライト、砂漠の植物をモチーフにしたペンダントライト、氷の世界を旅して暖かさと快適さを体験できるミニチュア照明など、チームごとに作品を提示して研究成果を発表。両校の教授陣による講評が行われました。「LIGHT x NATURE」をテーマに3日間行われたオンラインプログラムの様子。写真左下はアートセンター環境デザイン学科長のデヴィッド・モカルスキ教授、右上が和田教授社会的貢献を目指すデザインを多数提案Pacific Rim 2021の様子がわかる動画はこちらからご覧いただけます。08異文化体験が困難に打ち勝つ強い力に2017ECO-RESEARCH LABコスタリカの大自然を体験し、生物保護や国・文化・言語の壁を越えて挑戦する「交換留学の団体戦」

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