TAMABI NEWS 92号(DX・NFT時代のキャリアを考える)|多摩美術大学
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11 今後、技術の発達に伴いAIが高い精度でデザインのパターンを出し、デザイン作業の時間短縮や効率化が実現されるでしょう。その中でデザイナーに求められるのは、役割の異なるチームを円滑にまとめる人とのコミュニケーション力だと考えています。そうした時代の流れを読み対応できるスキルを学生のうちに身につけることが必要です。 また、欧州で仕事をしていて感じるのは、 大事なのはコミュニケーション力 そしてマイノリティの視点アプリ「MERY」のデザインを刷新。情報を減らし、ピンクのイメージから白が基調の洗練された印象に変更したことでユーザー拡大に成功 情報革新によって、さまざまな企業がビッグデータを用いたマーケティングを行うようになりました。しかし、それによって平均的な成果は上げられるものの、逆に「大ヒット」や「革新」につながるサービスや製品が生まれにくい状況になっています。そんななかで飛躍を目指す企業が求めているのは、これまでの常識を覆すアイデアを出せる人材。データを駆使した定量的なものの考え方と違い、意外性のある定性的な感覚のもとで社会が要請する本質を見抜き、新しい価値を生み出すということです。例えば、機能性を追求した車 現在、UI/UXデザイナーとしては企業の新しい体験価値を生み出すプロダクト開発を行っています。直近ではIKEA渋谷にある「Fotobox」というフォトブースのUXデザインを担当しました。タッチ画面、音のUI、照明の具合まで一から設計するというものです。 この仕事を始めて感じるのは、女優のようにユーザーになりきり、どうすればより使いやすいプロダクトになるかを想像する力や体験を可視化する力が求められるということ。さらに言うと、デザイナーが描いた「体験」を実現させるのはエンジニアをはじめとしたチームのみんなです。つまり、チームの力が発揮されなければいい体験は生まれず、デザインも絵に描いた餅のまま。デザイナーは時に経営者やエンジニアと対等に話しながら、チームをリードする必要があります。一からプロジェクトを構築し、開発までを担うフルスタックデザイナーの役割を担いながら、泥マイノリティに配慮したデザインの重要性です。海外に住むと、日本のサービスがいかに外国人からのアクセスを想定していないかがわかります。アプリの設計においては、海外の人や目の見えない人などあらゆる人がアクセスできるように気を配る必要があります。デザイナーは社会を支える仕事。ダイバーシティが進む社会で、マイノリティの存在を想像する力はますます大切になるでしょう。 私は、デザイナーの意義は社会をより良くすることと思っています。だからこそ医者や弁護士と同じレベルでプロフェッショナルでなければならないと考えてきました。国家試も魅力的ですが、美しさや操作性のよさといった感覚的な視点からのデザインが加われば、ユーザーの満足度はさらに高まります。 多摩美が育成しているのは、そうしたこれからさらにニーズが高まると思われる「ゲームチェンジャー」としての力です。生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻の例を挙げれば、プロダクトそのもののデザインを考える前に、まず必要とされるサービスや体験から考えることを重視する授業が増えています。企業ではコンセプトを考えるところから具体的にモノに落とし込む過程をデザイナーひとりに求められることも増えてきているので、そうした社会の変化に対応したカリキュラムになっていると言えます。 キャリアセンターでは、進路ガイダンスや個別相談、資料提供などを通して、学生一人ひとりの将来の「したいこと」が「すること」につながるように、全面的にバックアップしています。求人数の少ない特定の業界による多摩美だけで開催される説明会があることや、一般的な求人情報サイトに載っていない多摩美生に向けた求人が多くあるのも魅力のひとつ。将来の進路に迷いがある学生にこそこうしたものを利用していただき、さまざまな可能性を提示しながら一緒に将来を考えるサポートをしたいと思っています。卒業制作「37.2°C」は携帯電話の着信を通し、大切な人との時間を共有できるというもの。着信すると手形と体温が携帯電話に現れ発熱し、相手のぬくもりを感じられるキャリアセンター長生産デザイン学科田中秀樹教授臭い作業もこなさなければなりません。 それほど大変な仕事ですが、自分がデザインしたアプリやサービスを世界中の何千万ものユーザーに届けられるのは大きなやりがいです。「このアプリがないと生活できない」という声がユーザーから届いたりするとうれしくなりますね。験のために何時間も勉強するように、デザインを勉強するべきと。今、行政や教育、医療といった現場では、まだまだ使いづらい社会サービスやソフトウェアが多くあります。複雑化し続ける現代社会で求められているのは、 そうした問題を解決するUI/UXデザイナーです。私自身、「学習マンガを通して世界の教育水準の底上げに貢献する」というミッションのもと「Aha!Comics」という事業を立ち上げました。ものを消費し利益を得るためにクリエイティブの力を使うのではなく、デザインで社会を変えていこうという危機感を持ったデザイナーが増えてほしいと思います。多摩美の学生に求められているのは「ゲームチェンジャー」としての力社会が求めるのは新しい価値を生み出す力キャリアセンターは学生のあらゆる希望に寄り添うDX・NFT時代の キャリアを考えるデザイナーは社会を支える仕事課題のある場所にこそ必要とされる

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