TAMABI NEWS 94号(映像で魅せる力)|多摩美術大学
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09左上:三重県鳥羽市「海の博物館」(1992)、右上:高知県高知市「牧野富太郎記念館」(1999)、左下:島根県益田市「島根県芸術文化センター」(2005)、右下:東京都渋谷区「東京メトロ銀座線渋谷駅」(2020)いう強い意志で団結し、隣国ロシアと向き合っています。世界を見渡せば、私たちの住む東アジアの情勢も決して安定してはいません。この混迷の時代だからこそ、われわれの文化やアイデンティティを見つめ直し、アート・デザインに対する日本人の意識を再構築していくべきだと考えます。──内藤先生は、建築家として世界を舞台に活躍しながら、東京大学副学長なども務められました。建築家、教育者として、今の多摩美術大学をどうご覧になっていますか? 今は以前と比べて、学びの多様性を感じます。ひと昔前は、油彩を学んだら画家か教員になるしかないというのが一般的なイメージでした。それが今では、油画専攻を出て、VRのプロになる人もいる。アート・デザインを志す人にとって、本当に自由な世界が広がっていると思います。 私は多摩美の学生に世の中を元気にしてほしい。ポジティブなエネルギーをアートやデザインで表現してほしいと思います。私が学長になったからには、キャンパスをとにかく明るくしたい。多摩美の学生は明るいね!と言われるような雰囲気をつくりたいですね。 私の専門である建築の考え方でいうと、ここはハウスではなくてホームであるべきなんです。「ホームタウン」はあっても「ハウスタウン」というのはないですよね。多摩美は学生のホーム、つまり心の拠りどころでありたいと思っています。──多摩美術大学の学生たちにメッセージをお願いします。 この場所で人と出会ってほしいと思います。気の合う仲間はもちろん、「この人は!」と思える師を見つけられたら、これほど幸せなことはないでしょう。私もできるだけ学生たちと話す機会を持ちたいと思っています。 教育者としては、自分を超える人間を何人つくれるか──。そこが問われると思っています。自分の80%縮小のコピー人間をつくっても仕方がない。世の中を変えてしまうような自分以上の人間を在任中にどれだけ育てられるのか、自分でも楽しみです。 気候変動、ウクライナ情勢、国内の人口減少など、学生の皆さんは大きな希望とともに大きな不安も抱えているでしょう。ただ、不安は大きなエネルギーにもなります。いつの時代も優れたアートやデザインは、不安な世の中から生まれています。今こそ自分を見つめ直し、仲間と語らい、不安を大きなエネルギーに代えて、新しい何かを生み出してほしいと思っています。内藤廣学長の仕事ンの力で支えていける人材をここで育成したいというのが私の願いです。──現代の日本人に足りないのは、具体的にどのようなものとお考えでしょうか? 固有の文化やアイデンティティのようなものだと考えます。今の日本人は丸裸になったとき、何を語れるのか? お金の話じゃ悲しいですよね。「年収はいくらです」なんて言ってみてもGDPは世界3位から下がっていくばかりです。 本来、日本には文化コンテンツが豊富にあります。実際、京都は外国人に大人気だし、和食はユネスコ無形文化遺産に登録されています。しかし、現代の日本人はあまりそれを意識して来なかった。やはり、国家的な危機などが起こると人々は自らのアイデンティティを見つめ直すのかもしれません。 例えば、強国スペインとドイツに挟まれたフランスは、侵略に対する危機感の中で、国民のアイデンティティとして美しい言葉や料理を守ってきました。1917年のロシア革命後、独立したフィンランドもフィン人の文化とは何かと真剣に考えたと思うんです。だから、アルヴァ・アアルトの建築やイッタラの食器には、民族のアイデンティティがベースにあるのがわかります。 今、ウクライナの人々は大変な状況にありますが、まさに「ここは私たちの土地だ」と多摩美の学生たちに世の中を元気にしてほしい

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