TAMABI NEWS 96号(問いを立てる力)|多摩美術大学
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第43回中原悌二郎賞を受賞した「デコボコの舟」(2022)日常の問いから生まれた『デコボコの舟』04 今年8月、「デコボコの舟」で第43回中原悌二郎賞をいただきました。2年に一度、国内で発表された彫刻作品が選考の対象となり、彫刻に与えられる賞としては日本で最も長い歴史があります。これまで私が制作してきたなかでも今作は特に彫刻性が強く、造形で表現することを強く意識した作品だったので、心からうれしく思いました。 作品はまず原型となる舟を石膏で制作し、型取りします。その雌型の内側に粘土でさまざまなモチーフをレリーフ状に制作し、内部を埋め尽くしました。それを再び石膏取りをすることで、粘土の原型が舟の雌型と入れ替わり、凹凸を反転させたような仕上がりになります。今度は粘土のモチーフが雌型になり、それまで雌型であった舟が再び姿を表し、舟の身体はモチーフによって蝕まれているようにも、輪郭が消えていくようにも見えるようになります。不在となったモチーフを通して船の中心から放射線状にエネルギーが広がっているのは、完成後の予期せぬ発見でした。モチーフとなったのは「協働と拒絶を繰り返しながら何かから逃げている人たち」です。何かから逃げる人々を粘土で200体くらい制作しました。その着想にはウクライナ情勢のニュースを聞きながら描いていたドローイングがありました。不安や■藤、怒りを抱えながら逃げていく人たちの姿を後退と考えたくなかったこともあります。いつの時代も戦や闘争から逃げて生き延びた人たちが命をつなぎ、新しい場所で新しい文明を築いてきたのではないかと、考えていました。逃げる中でも、日々の労働があり、助け合い、反発し合い、子供たちは遊び、守るべきものがあります。複雑なものを複雑なまま表現するには群像が必要でした。いくらイメージがあっても、手を動かさなければ形になりません。イメージをドローイングとしてアウトプットし続けることは、私にとってライフワークです。ひたすら外に出していくことが大切で、それが面白いか、つまらないかはその場で判断しません。後からドローイングを見返し、これは何なのか、何がしたいのか、どんな技法なら彫刻として実現できるか、問いかけを重ねていきます。手を止めずにイメージを流し続け、どんな方法があるかを探り続けることは、制作においてとても大切ではないでしょうか。 人間の言葉というのは揺れ動いてしまうものです。私の場合、作品が完成しても言語化できないことが多く、いつも展覧会の半ばくらいになってようやく、「私はこういうことがしたかった」と人に伝えられる言葉が生まれるような気がします。ただ、そうして言葉にできたとして、10日、あるいは1年もすれば、私はきっと変化しているかもしれない。しかし、彫刻は物質として動きません。揺れるの彫刻家/彫刻准教授究極の真実である物質との対話新たな表現方法に至る常識を疑う力日常から問いを立て、対話から自己を問い直す中谷ミチコ 05年彫刻卒業

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