TAMABI NEWS 97号(多摩美の建築)
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■身体から想起する多摩美のインテリアデザイン空間を与えられるのではなく、内から空間を捉えて発想を広げる上:「The Okura Tokyo」宴会場「平安の間」、中:藤棚をイメージしたシャンデリアが特徴の宴会場のエントランス、下:古今和歌集を題材とした壁面装飾のアート試作 私が学生たちへ最初に伝えているのは、インテリアデザインとは単なる室内装飾ではないという考え方です。 構造物の内部環境をデザインするには、例えば窓や柱の形だって重要です。それらは構造物が完成してから考えるのでは間に合わないでしょう。人間が空間の中でどのように快適に、よりよく存在していられるのか、身体に近いところから空間を想起するのがインテリアデザインなのです。何もない土地にを排除し、ホテルを想起する照明や温かみのある素材や色調を採用。病室のベッドから目に入る天井を木調の仕上げとしたり、医療ガスなどの設備を隠せる仕様にするなど、常に患者さんの視点を意識しています。また大部屋のベッドを仕切るカーテンは、それまでパステルカラーしか選べなかったので、メーカーに呼びかけアースカラーの医療カーテンを開発するなど、前例のない挑戦にも取り組みました。医療行為の気配を消すことに重点を置き、優しく心地よい空間に仕上げました。1969年生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン学科卒業、1993年大成建設入社。「ジョン・レノン・ミュージアム」「メディカルトピア草加病院」「The Okura Tokyo」宴会場など、オフィスや病院、ホテル、商業施設などさまざまな用途のインテリアデザインを手がける。 その中でも私がデザインを担当した「平安の間」を含む和の宴会場では、平安時代の国宝「巻子本古今和歌集の序」を題材とした壁面装飾を新たに制作。日本伝統の網代と光幕を融合させた天井や、藤の花を模した「光の藤棚」、オークラロビーに置かれていた「長方形花台と石草流生花」など和の文化や自然を取り入れ優美かつ品格のある宴会場を創り上げました。創建当時からの伝統装飾の再利用、再現、リデザインを各所にちりばめ、和の伝統美を再構築した空間となっています。 素材の選び方から色の使い方、ディティールにまでこだわり抜いたデザインの設計では、多摩美時代に培われた審美眼が役立っているように感じます。ただ既製品を組み合わせるのではなく、ゼロから新しい意味や価値を生み出そうと思えるのも、美術大学で学んだ経験があるからこそでしょうね。 過去に多摩美の学長も務めていらっしゃった髙橋士郎先生には、学生時代に「君はデザイン(プランニングや形態、色使い)は大丈夫だから、コンセプトを突き詰めなさい」とご指導いただき、その言葉は今もなお胸に残に残っていて、自分が仕事において今後も向き合い続けるテーマになっています。これからも妥協することなく、クライアントだけでなく自分自身も納得できるような空間づくりに取り組んでいきたいと考えています。があります。館内では木材やコンクリートなど、素材をそのまま剥き出しにしました。これが室内装飾のデザインであれば、壁紙で美しく彩るという発想になるでしょう。しかし、私は表面だけを取り繕うことはよしとせず、そのまま本質が見えるように設計しました。学生のみなさんにもインテリアデザインを正しく志向し、視座を広げていくことを願っています。東京駅前の商業施設KITTE内にある「インターメディアテク」エントランス構造物を建てる建築デザイン、地球環境や生物多様性など外部環境から考えるランドスケープデザインなど分野はさまざまにありますが、これらは空間を考える起点の差異でしかありません。皮膚感覚や身体感覚などを駆使して、内側からの発想で空間を捉えるインテリアデザインは、一般的に思われているよりも遥かに大きなスケールを持った分野です。 内から外を考えるのがインテリアデザインであるのだから、私が構造物のプロジェクトに参加するときは、企画段階から携わることが多いです。構造物ができあがってからではなく、そもそも何を創るかという時点で、内側からの発想で意見を出していきます。床を抜いたり、柱を変えたりといった大胆な提案をするには、建築士相手に通用する言葉でないといけません。スケールの大きな構造物へと領域を拡張していきたいという思いから、一級建築士の資格も取得しています。 デザイン・設計を担当したなかには、JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」09より大きなスケールで本質的なデザインを志向する多摩美の建築細部にまでこだわり抜き、新たに価値を生み出していく これまで手がけてきた仕事の中でも印象に残っているのが、「The Okura Tokyo(ホテルオークラ東京)」の建て替え計画です。オークラ東京は、まだ日本に西洋式ホテルが流入してきたばかりのころにも関わらず、「海外の模倣ではなく、世界に通じる日本独自のホテルを創造する」をコンセプトに、日本独自の文化や自然の美しさにこだわって建設されていました。昭和の名建築として世界中のクリエーター達から愛され、建て替えに際して反対運動まで起こったプロジェクトでした。 そこで建て替えでは、徹底的な既存調査を裏付けとした「伝統と革新」を開発コンセプトに据え、創建時からの精神と歴史を受け継ぎながらも、より洗練されたデザインを目指しました。現代的な手法を取り入れつつも、昔からの常連のお客様に「これはオークラらしいね」と言ってもらえたらという想いで取り組んでいました。湯澤幸子先生 環境デザイン教授 

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