TAMABI NEWS 98号(描くという生き方)|多摩美術大学
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ポスター、新聞広告、ウェブ広告など、広告ビジュアルも多数手がけている。左から:サンケイビル「LEFOND」、「BAT japan」、「ZOZOCOSME 3rd ANNIVERSARY」03クライアントワークでは言語化し伝える力も重要 大学時代から今まで、イラストの描き方はほとんど変わっていません。ただ唯一、顔の塗り方や表情の描き方は何度も調整を繰り返してきました。自主制作を始めた当初は、人物の顔も背景も全てアクリルガッシュで描いていたんです。アクリルを使うと鮮やかでパリッとした表現ができるのですが、その分、顔の表情の柔らかさが出せないという悩みがありました。そこで陰影を出しやすくかつ温かみのある画材として使い始めたのが、当時課題で使っていた水彩絵の具です。顔部分には水彩絵の具を使用することで、生き生きとした柔らかい表情を描き出せるようになりました。人物の表情をいかに魅力的に描くかは、今も意識しているところです。 作風が変わらないがゆえに、周りからは「よく飽きないね」と言われることもあります。でも、これが全く飽きないんですよね(笑)。同じ作風でも長い年月をかけてより精緻に、より洗練されてきた感覚があります。デザイン次第で見え方が変わることも、飽きが来ない理由です。人物の顔と厚塗りの背景というミニマムな表現は、実はデザイン面でかなり応用が利くものでもあります。装画、屋外広告、web広告など、媒体に合わせた調整がしやすいので、自分の絵がさまざまな形で世に出ていくのが面白いですね。こうした自由にデザインしやすい作風という、デザイナーさんにとっての使い勝手の良さが、イラストを採用いただける理由のひとつになっていると思います。 イラストレーターのなかには、自分の絵についてあれこれ言われるのが苦手な方もいるかと思います。その気持ちもよくわかるのですが、僕の場合、ディレクターやデザイナーの素朴な疑問や意見を反映していくことで、装画を手がけた書籍、文芸誌。左から:林真理子『下衆の極み』(文藝春秋)AD:木村弥生、『相棒 season19 上巻』(朝日新聞出版)、『別冊文藝春秋(2021年9月号)』(文藝春秋)より良い絵になっていく手応えを感じています。その意味で、自分はクライアントワークが向いているタイプだと思いますね。ひとりで描くよりも楽しいと思う瞬間があるくらい、みんなで一緒にものづくりをしていく過程が好きです。僕の役割は素材となるイラストを提供することなので、自分の表現にはそこまで固執しません。仕事では常に、求められている機能や役割におけるベストな絵は何かを探ることを大事にしています。また、クライアントワークでは、自分の絵を言葉で説明し、伝える力が求められます。ラフを説明するのに「なんとなくこう描きました」では、提案は通りませんよね。「このターゲットをイメージして描き、このテーマに合わせてこの色を選びました」と、わかりやすく意図や思いを伝えることを意識しています。 自分の作品を言語化して説明するスキルは、多摩美時代の課題発表で培われたように思います。今学生のみなさんにとっては「なぜこれをやる必要があるんだろう?」と思う課題や発表もあるかもしれません。僕自身もそうでしたが、卒業して仕事をするなかで点と点だった学びがつながっていき、重要な基礎力になっていると気づきました。必要な学びは課題に取り組むことで自然と得られるはずなので、自分には必要ないと切り捨てずに取り組んでもらえたらと思います。イラストレーターを目指すなら、自主制作に取り組みつつ、自分なりの戦略を考えておくことも重要です。腹をくくって最初からフリーランスとして活動するのもありですが、一度就職してみるのもいいかもしれません。例えばデザイン会社に勤めてみると、イラストが実際にどのように使われるのかを知ることができます。納品する側ではなく、される側の視点を持って描けることは、イラストレーターとして大きな強みになるはずです。 大学卒業後は、今以上に時間がないと感じるようになるものです。ぜひ今のうちに自分とじっくり向き合う時間をつくって、心からやりたいことや、楽しく続けられそうなことを見つけてみてください。1994年、北海道生まれ。2018年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業し、広告や書籍を中心にさまざまな媒体にイラストレーションを提供している。2017年に「第17回グラフィック1_WALL」にて審査員奨励賞を受賞。個展・企画展にも多数開催・出展している。東京イラストレーターズ・ソサエティ会員。

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