TAMABI NEWS 98号(描くという生き方)|多摩美術大学
7/16

07他分野への新たな挑戦がアートとの向き合い方を変えた左上:「東京モード学園」CMイラスト、左下:浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)、『ミュージック・マガジン』(ミュージック・マガジン)装画、右上・右下:個展「I wanna talk about my mind」にて発表された作品至ったのは、美醜やルッキズムから離れた絵を描きたいという思いからです。以前は自分の内面に意識を向けて描くことが多かったのですが、最近は外側の社会へと意識が向くようになりました。「あのとき苦しかったのは、こういう社会システムだったからなんだ」と、自分の悩みの根源が見えて腑に落ちる経験が何度かあって。そんな社会への思いも絵に反映するようになりました。今年開催したwatabokuさんとの2人展「分身」の作品では、生きづらい社会で未来に向けて生き延びていくことへの思いを表現しました。 私はずっと「絵で生きていけないのなら死ぬ」と思うほど絵にのめり込む人生を送っていたんです。昔は絵を描きたくてたまらなくて授業中にも落書きしてしまうような、純粋な好きの気持ちだけで絵を描いていました。しかし、大学在学中にお仕事をいただきフリーとして活動を始めてからは、それが難しくなってしまいました。結果、同じ熱量で絵を好きと思えないことに悩んだ時期もあります。しかし、今は制作に対して以前とは異なる向き合い方ができています。あえてアートとは別の活動にも挑戦してみることで、絵を冷静に眺めて、ちょうどいい距離感で付き合えるようになったんです。 ここ数年はファッションブランドを立ち上げてみたり、DJをやってみたり。文章の執筆依頼も引き受けました。以前は「私には絵しかない」と自分で首を絞めているところがあったので、すごく気が楽になりましたね。絵だけでは表現できないことを別の領域でできるのも楽しいです。ファッションブランドでつくったコンセプトがイラスト制作につながるなど、相互作用でいい循環が生まれているのを感じています。 仕事ではありがたいことに私の画風を理解して依頼してくださるクライアントさんばかりなので、一貫して自分のスタイルで描き続けることができています。東京モード学園のTVCMをはじめ、原宿駅の看板で展開したヘア化粧品ミルボンの広告、小説『同志少女よ、敵を撃て』の装画など、多くの人に知っていただける仕事にも恵まれました。たとえ1年後の目標を決めても想像通りの未来がやってきた試しがないので、今後の具体的なビジョンは決めていません。そのかわり、今もこれからも、いただいた仕事に全力で取り組もうと決めています。 また、クライアントワークと合わせて、自主制作も続けていきたいです。普段の仕事はデジタル派ですが、個展では油画の作品を描いています。アナログで“もの”としても価値のある作品を定期的に出し続けることで、いち作家としてのキャリアも高めていきたいと考えています。1995年生まれ。写実的でありながら個性的なデフォルメとラフなタッチを残した個性的な画風で人気を集め、書籍の装画や広告などを多数手がける。2020年にはファッションブランド「Esth.(エスター)」を立ち上げ、デザイナーを務めている。

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る