TAMABI NEWS 98号(描くという生き方)|多摩美術大学
8/16

「誕生15周年くまのがっこう展」記念イラスト「ジャッキー with チャッキー」08絵本『くまのがっこう』(ブロンズ新社)©BANDAIあらゆる展開に備える緊張感人気作品を描き続ける■藤左下:マクドナルド「ハッピーセット」用に作られた『くまのがっこう』の絵本(※展開は終了しています)、左中:「Little chef」パッケージイラスト、右下:個展「しましまと植物」にて発表された作品シリーズ累計220万部越えのロングセラー絵本『くまのがっこう』の作画を手がけた絵本作家・あだちなみさん。絵本作りに込めた思いと■藤、そしてこれからの表現活動について聞きました。 子どもの頃から、ファッション誌や着せ替え人形、そしてもの作りが大好きでした。多摩美に入学してからも、動物の人形を作ったり課題以外にも常に何かを制作していました。卒業後は、自分の好きなものを仕事にしたいとリカちゃんで知られる(現)タカラトミーに入社、その後転職先のバンダイで、長く愛されるキャラクターを生み出すための新たな部署が発足。私もその一員として絵本制作に携わることになりました。そこで生まれたのが「くまのがっこう」シリーズです。 絵本作りでは、自分が得意とする配色や構図にこだわり抜いてきました。絵本の中の絵は細かい部分まで全て商品化に使われるため、もう隅から隅まで作品作りとはまた別の緊張感も持って描いていました。そんな側面もあり、当時は絵本とキャラクタービジネスという中での作品作りに■藤していました。そんな悩みを少し楽にしてくれたのは、2013年に開催されたスヌーピー展です。スヌーピーは世界的に愛されるキャラクターでありながら、アートとして作品として成り立っています。私はそこで作者のシュルツさんの姿が見えてきて「作者がブレずに作品を描き続ければそれでいいんだ」と、前向きな力をもらいました。今はどのページも大切な1枚の絵として飾りたくなるものに仕上げることと、お話から読み取れない部分も含めて描き、世界観を丁寧に作っていくことを大切に描いています。 退職後も変わらず絵本制作を続け、現在は多摩美で非常勤講師もしています。授業では1日1枚の絵を描く課題を出しており、私も実践しています。積み重ねてできる物の力を少しでも体感してほしい。実際に「くまのがっこう」を描くことで積み重ねてきた時間は、今の私の大きな味方になってくれています。また学生のみなさんには、その人自身の見方や感じ方がその人だけの魅力になり創作の源になってくれること、こうあるべきなんてことは何もないよと伝えています。 2024年には初心に立ち返る気持ちで個展を開催しました。制作では今の自分を正直に描くことに専念しました。丸裸状態のような緊張もありましたが、私が大切している部分を大切にしてくださる方たちと一緒にできて、見てくださった方々の反応にも力をもらいました。今回の制作は「私が好きなものってなんだっけ」と改めて自分に問いかける機会にもなりました。そんな問いを続けながら、これからはさらにしっかり踏み締めて、でも愉快で軽やかに人の温度を感じられるような自分の表現と向き合っていこうと思います。1974年、岐阜県生まれ。大学卒業後、株式会社タカラ(現・タカラトミー)、株式会社バンダイを経て独立。『くまのがっこう』シリーズ(ブロンズ新社)の作画など絵本作家として活動するほか、幅広くデザインやイラストを提供している。『くまのがっこう』など絵本の世界をイラストで描き出す創作とビジネスの間で突き抜けるのはブレずに描き続けるという気持ち絵本作家/統合デザイン学科非常勤講師あだちなみ98年グラフィックデザイン卒業

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る