TAMABI NEWS 99号(エンタメで輝く力)|多摩美術大学
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 11月18日より上野毛キャンパスにて、大学と演劇界のプラットフォームの役割を果たす取り組みとして、野田秀樹名誉教授による5日間の演劇特別ワークショップを開講します。 このワークショップは、野田名誉教授が教授として在籍中(2008年〜2022年)に学部の授業として展左:10年ぶりの監督作となった2022年の映画『北風だったり、太陽だったり』、右:監督・脚本・出演を務めたオムニバス映画『プレイヤーズ・トーク』05 監督・俳優として、決まったスタイルがないことが自分のスタイルだと思っています。昔はウェス・アンダーソン監督のように、独自の世界観が展開される映画に憧れていたこともありました。そうした映画は、言うなればスパイスにこだわった専門店のカレーです。しかし、今の自分としては、もう少しフラットなお茶漬けのような作品をつくりたいと思っています。自ら個性を打ち出すのではなく、完成した結果、作品から個性が滲み出るような映画づくりですね。個人的には、スタイルは持っていなくてもいいし、むしろ毎回変えていくことが理想的だと思っています。 もうひとつ、特に俳優として大切にしているのは、自分がワクワクする作品に関わるということです。駆け出しのころは、つまらないと感じる作品でも、せっかくもらった機会開してきたワークショップを、学外の方に向けても門戸を開いたもので、大学と演劇界の架け橋としても機能し得る、多摩美術大学ならではのオープンクラスです。全5回のワークショップでは、本学演劇舞踊デザイン学科の学部生、大学院生だけでなく、学外の方も受講できます(今回の募集は終了しています)。受講生はプログラムを通じて自身や仲間と向き合いながら研鑽を積み、演劇表現の新たな可能性を探ります。 演劇舞踊デザイン学科は「演劇」「舞踊」「劇作」「演出」「舞台美術」などを横断的、かつ専門的に学び、創造性や思索を深化させ、上演芸術を担う多様なキャリアにつながる学びを展開してきました。時間と体感の共有から生み出される演劇表現を通じて、現代社会に新たな価値を提案することも同学科の使だからと参加することがあると思います。しかし、そんな気持ちで参加しては、失敗することが目に見えています。とにかく自分の心が動くことしかやらない。現場に関わるうえで、そのマインドは重要だと考えています。 演技の面で成長するためには、映像作品だけでなく演劇に挑戦することをおすすめします。映像の世界では、カメラが身体表現よりも優先されます。というのも、撮影や編集によって、拙いお芝居でも上手に見せることができるんです。一方の演劇では、舞台上で繰り広げられる挙動の一つひとつが直接的に観客に届きます。僕自身、演劇を経験したことで身体の見せ方を強く意識するようになりました。ここで学んだことは、映像作品に関わる上でも大いに役立っています。 僕が若いころは、「役者はアルバイトをするな」という風習が業界に蔓延していました。しかし、僕自身が教える立場になった今では、「融通の利くアルバイトを早く見つけなさい」と伝えています。これは、役者、または映画キリン「一番搾り」など、俳優としてCMにも数多く出演している1988年、東京都出身。2004年、映画『茶の味』で俳優デビュー。以降、さまざまな映画・ドラマに出演する傍ら、映画監督としても活動。大学の卒業制作でもある『ニュータウンの青春』は、ぴあフィルムフェスティバルでエンタテインメント賞(ホリプロ賞)を受賞し、釜山国際映画祭の「アジアの窓」部門に出品され、劇場公開も果たした。2023年度のワークショップの様子監督1本では成功できないというネガティブな意味ではありません。映画業界では金銭的な面も含め、過去の悪習に対してさまざまな改善が進められており、未来は明るいと思っています。ただ、その過渡期にある現在、役者や監督を続けていくための覚悟として、別の収入源を持っておくことは重要です。カジュアルに俳優業や監督業を続けながら、いい作品をつくったりいい作品に出演したりすることでキャリアアップしていく。そんな柔軟な感覚が、これから映像作品に関わって生きていくうえで必要な心構えだと思っています。命と考えています。 今後も修学環境と生涯教育の機会を提供し続け、演劇表現を試行錯誤し、身体表現の可能性を広げる場として、本ワークショップを継続的に実施していく予定です。大学と演劇界をつなぎ、演劇表現の可能性を探る参加作品を選ぶ基準は自分がワクワクできるか野田秀樹名誉教授による演劇特別ワークショップを開催野田秀樹名誉教授

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