多摩美大入試ガイド 2019
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美術学部 芸術学科 公募制推薦方式 ﹁描く﹂というのは無限の可能性を秘めている︒なぜなら私たちの感じるものの見方は人それぞれで︑同じものは一つとしてないからだ︒ ﹁描く﹂というのは様々なものを表現できる︒目の前にある風景や︑頭の中に思い浮かべた場所︑自分の今の感情︑これらをあらゆる技法で思うままに描き出すことができる︒ この﹁描く﹂という行為は︑私たちが生まれる何百年︑何千年も前から行われている︒壁に描き︑キ■ンバスに描いてきた︒そして油絵や︑日本画など様々な画法が今日まで描かれ続けている︒そしてそれらの画法は誰もが生みだせるものではなく︑その作品を描いた人にしか作れない︑たった一つの無限の可能性なのだ︒ しかし︑まったく同じ画材︑まったく同じ描き方で描いたら同じになってしまい︑たった一つのものではなくなってしまうのではないだろうか︒まったく同じものになってしまったら︑その人にしか作れないということはなくなり︑無限の可能性は消えてしまうのではないだろうか︒ はたして︑同じ画材︑同じ描き方で描いた作品は本当にまったく同じになるのだろうか︒それは違うと思う︒どんなに同じ画材︑同じ描き方をしても︑筆の水分の量や絵の具の量や塗り方で同じにはならないだろう︒どんなに同じ描き方をしたとしても︑絵の具の混ぜ方や比率により︑同じように描いた人独自の無限の可能性が広がるのだろう︒そして無限の可能性は︑﹁描く﹂の他にも存在する︒ 例えば﹁イス﹂だ︒イスは私たちの身の回りに常に存在している︒そしてイスは壊すという行動をしなければ永遠にその場所に存在し続けることができる︒そして座られることにより︑人々を様々な気持ちへと変えることができる︒イスは誰かが想像し︑また誰かが創造する︒そして人々の手に渡り︑使うことにより人々の気持ちを動かす︒そして︑このイスを他の人にも使ってもらいたいと思い次に残す︒これも無限の可能性だろう︒ 描くことによりその人だけの無限の可能性を生み出し︑その描いた作品を見た人々が心を動かされ︑次に残したいと思う︒今現在存在している芸術作品も同じだろう︒作品を見て﹁残したい﹂という思いがあり︑次の世代へ次の世代へと受け継いだことにより今日も存在し続け︑広がってゆく無限の可能性を生み出し続けている︒その無限の可能性を私たちが受け取り︑私たちの次の世代へと伝えてゆくのだ︒そしてその無限の可能性を秘めているのが﹁描く﹂ということなのだ︒ ﹁描く﹂という言葉は美しいと思う︒私が感動するのは︑﹁描く﹂の字の美しさではなく︑その意味合いの美しさだ︒ なぜ︑絵を﹁書く﹂とはいわないのだろうか︒絵は﹁描く﹂ものである︒そこに﹁描く﹂の美しい意味合いがある︒人が夢に思いをはせるとき︑﹁夢を思い描く﹂という︒﹁描く﹂が使われるのは絵に関してだけでなく︑人の思いが形になり︑表現されるときなのだ︒ 例えば黒澤明︒今や映画の分野で彼のことを知らない人はいないだろう︒彼は映画を撮るようになる前︑画家を目指していた︒中々芽がでなかったが︑彼は自身が﹁描く﹂世界を映像で表現することで大成した︒スポーツ選手も︑自身が思い﹁描く﹂ゴールに向かって︑日々努力を積み重ね︑感動を人に与える︒だが︑表現者やアスリートだけが︑﹁描く﹂ことをしているわけではない︒私たちの生活も︑実は﹁描く﹂ことの連続なのだ︒ 困っている友人を心配して優しく声をかける︒SNSなどのアプリケーションを使用してお気に入りの写真を発信したり︑自分の意見を述べたりする︒電車やバスでお年寄りに席をゆずる等︑自身の思いを他者に表現するという意味合いでは︑私たちが選択した行動の全ては︑思い﹁描く﹂ことをしているのではないだろうか︒そのように生活を捉え直すと︑私たちは自身の思いを表現し︑﹁描く﹂中で生きているのではないだろうか︒ 自分の気持ちを表現することは素晴らしいと思う︒なぜなら︑芸術も政治も学問も人間関係も全てそこから始まっているからだ︒だから私はそのことを素直に表現した言葉である︑﹁描く﹂という言葉が美しいと思う︒そして︑﹁描く﹂連続の中で生きる私たち人間はとても素晴らしく︑また面白いと思う︒ 表現者やアスリート︑それだけでなく私たち︒全ての人間が﹁描く﹂日々を送っているのだろうか︒いや違う︒災害や紛争の中にいる人々や︑学校や職場でいじめにあったりつらい経験をしたりしている人︑世界のなかでも貧困層のいる人々など︑私たちに見えないような存在の人々は︑夢を描くどころか日々の生活を描いていくことすらままならない︒世の中には﹁描く﹂ことの美しさを知らない人々もいるのだ︒ 芸術は﹁描く﹂ことの美しさを実感させてくれる有効な手段であると考える︒私は︑﹁描く﹂ことを知らない︑知ることができないような人々に︑﹁描く﹂という美しい言葉を美しいと思えるようにしていきたいと︑思い描いている︒推薦1282018年度 芸術学科 推薦入試提出課題タイトル・1970・半世紀前のCOOL JAPAN 展・美しい花と女性展・地下鉄演劇ウィーク以上3点(順不同)提出された課題を芸術学科ホームページで公開しています。[芸術学科ホームページ]http://www2.tamabi.ac.jp/geigaku/admission/koubo/
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