日本画油画版画彫刻工芸グラフィックプロダクトテキスタイル環境メディア芸術情報芸術学統合演劇舞踊劇場美術美術館は、静と動の入り混じる、不思議な場所である。例外はあるが、美術館では絵画や像など動かないもの、つまり静にあたるものが展示されている。それを見る人々も、ほとんど私語はせず、静を保っている。しかし、作品の前に立ち、作品と向き合った時、それらは動のものとなる。その作品によって想起される世界へと瞬く間に連れていかれ、何か大きな力を体全体で受け止めているような衝撃を受けるのだ。その姿は、端から見ると静を保つ人々と変わらないだろうが、内側には作品から受けた力が駆け巡っている。そのようにして、人知れず、静と動を行き来するのが美術館という場所だ。そしてそこから出た時、動の中にポツンと立つ静になった感覚を得る。美術館の中とは反対の感覚だ。その不思議な箱を出て初めて、静かな大冒険をしていたことに気付く。美術館とは、その場所に置かれた物全てに意味を持たせる特異な場所である。マウリツィオ・カテランの作品に、本物のバナナをテープで壁に固定しただけのものがある。このバナナが作品として成立しているのは、美術館が、そこにある物に何らかの意味があるのだろう、という視線を、鑑賞者に持たせてしまうからである。実際に、このことがおもしろく作用した出来事があった。海外の一人の男性が、展示会場の床に、一個のメガネを置いた。しばらく様子を見ていると、何も知らない人々が、作品を鑑賞するかのようにただのメガネを眺め始めたのだ。そこに置かれた物に、意味があるかないか、それがどんな意味を持つのか、鑑賞者は想像することしかできない。この点が、鑑賞するおもしろさであり、また難しさであるだろう。一般選抜■■教員コメント作品の芸術的な価値や意味の生成ということをめぐって、美術館という制度や場の問題に鋭く切り込み、短い文章で非常に深い考察をなしえている点が秀逸です。少し前にニュースになったカテランのバナナの作品を取り上げたあたりも、日頃からよくアートに関心を払っていることが窺われます。教員コメント美術館という空間内で生じる作品と鑑賞者の関係性に着目し、そこに〈静/動〉という問題を見出して独自に論じている点が評価できます。さらに、美術館の外に出た後に感じられる、その〈静/動〉の関係が逆転したような自己感覚についても述べて考察を展開させている点が、大変優れています。 小論文[問題1] 「美術館」について、350字以内で自由に述べなさい。
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